・名古屋地豊橋支判平成11年2月24日判タ1026号279頁  クロスタニン営業誹謗事件。  本件は、健康食品の販売業を営む会社である原告(株式会社日健総本社)において、社 内紛争が生じ、原告の販売に関与していた研究者や取締役が原告商品と類似する健康食品 販売を業とする新会社を設立したところ、原告は、原告の販売店であった被告が、原告か ら離反して右侵害者の傘下に入る際、原告を誹謗し、原告商品よりも右侵害者の商品が優 れているかのような広告等を用いたことは不正競争防止法(平成5年法律第47号による 全部改正前)1条1項6号(同改正後の不正競争防止法2条1項11号)の営業誹謗行為 および民法709条の不法行為に該当すると主張し、被告に対し、営業誹謗行為の差止め および損害賠償を求めた事案である。  判決は、本件各文書等の内容はその主要な部分においておおむね真実というべきであっ て、虚偽とまでは認められず、その目的および態様においても、社会通念上正当な企業活 動および自由競争の範囲内の行為であって、これを逸脱した社会的に許されない行為であ るとまでは認められないとし、被告代表者の架電行為についても、原告が主張する程度の 内容は、社会的に許容される範囲内にとどまり、不法行為を構成するものではないという べきであると判示して、原告の請求を棄却した。 ■判決文  「原告が原告商品を誹謗する文書であると主張する別紙…各文書は、前記認定のとおり、 いずれも原告傘下の特約店であった被告が、傘下の普及店を集めた勉強会で配布したり、 傘下の普及店に個別に配布したものであり、それ以外の第三者に配布することを予定して いなかったもので、その配布枚数も多くてそれぞれ5、60枚程度であったことが認めら れるのである。そうすると、本件は、ある健康食品の製造販売組織体系が内部抗争により 分裂し、双方が対立する中で互いに相手を避難抗争する過程において対抗上生じたもので あって、被告の本件各文書配布行為が社会的許容限度を逸脱しているかどうかは、右同一 組織体系内の普及店を基準とし、さらには右のような経緯に思いをいたして判断すべきも のである。」  「(四)以上の次第であって、本件各文書等の内容はその主要な部分において概ね真実 というべきであって、虚偽とまでは認められない。しかも、本件各文書は、原告の内部紛 争により、新会社が設立され、原告傘下の特約店であったが侵害者の側についていこうと した被告により、傘下の普及店ないし販売組織に限定して配布されたものであるから、本 件配布行為は、その目的及び態様において社会通念上正当な企業活動及び自由競争の範囲 内の行為であるというべきであり、これを逸脱した社会的に許されない行為であるとまで は認めることができない。  (五)被告代表者の架電行為  当時、原告代表者と後藤専務の対立が激化していたことは前記認定のとおりであり、後 藤専務于の思想等に理解を示していた被告代表者が後藤専務や労働組合を擁護する内容の 電話をかけたとしても、「九州の人は社長側であろうけれども、名古屋は専務側について いる人も多い。後藤専務がいないと日健はつぶれる」程度の内容は、社会的に許容される 範囲内に止まり、不法行為を構成するものではないというべきである。 三 結論  よって、被告の本件各文書等配布行為及び被告代表者の架電行為は、不正競争防止法所 定の営業誹謗行為に該当するとは認められず、不法行為に該当するとも認められないから、 原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。