・東京地判平成11年2月25日判時1683号144頁  「アドタイム」広告器事件。  原告らが被告(ジェイ坂崎マーケティング株式会社)に対し、被告が被告広告器を使用 したことが、「アドタイム」と呼ばれる原告広告器(競技場や運動場に設置して正面のシ ートに張り付けた広告をモータにより回転させて順次表示するために使用するもの)につ いて、原告1(ドルナ・プロモシオン)の意匠権を侵害し、かつ原告2(ドルナジャパン) の周知商品等表示と誤認を生じさせる不正競争行為に該当すると主張して、それぞれ意匠 法および不正競争防止法2条1項1号にもとづき、被告広告器の使用等の差止めおよび廃 棄、損害賠償ならびに謝罪広告の掲載を請求した。  判決は、意匠権にもとづく請求及び不正競争防止法にもとづく請求のいずれも、その主 張自体が失当であると述べて請求を棄却した。 ■争点に対する判断 一 争点1(意匠権侵害)について  「1 原告ドルナ・プロモシオンは、前記のとおり、『モータにより回転される広告が正 面の全体に掲示される』点が本件登録意匠の要部であり、被告広告器も『モータにより回 転される広告が正面の全体に掲示される』ものであるから、被告意匠は本件登録意匠に類 似すると主張している。  そこで検討すると、意匠法における意匠とは、『物品の形状、模様若しくは色彩又はこ れらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの』をいい(意匠法2条1項)、 意匠法は、『意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の捜索を奨励し、もって産業の 発達に寄与することを目的とする』ものであって(同法1条)、『登録意匠の範囲は、願 書の記載及び願書に添付した図面に記載され又は願書に添付した写真、ひな形若しくは見 本により現わされた意匠に基いて定め』るべきものとされている(同法24条)。このよ うに、意匠権は、意匠に係る物品の『形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合』を保護 するものであるから、これを離れて、当該物品の機能や作用にまでその効力が及ぶもので はないことは明らかである。  これを本件についてみると、本件登録意匠の構成は、別紙三『意匠公報』記載のとおり であるところ、原告ドルナ・プロモシオンが『要部』であると主張する点は、本件意匠権 に係る物品である広告器が果たすべき機能ないし作用を述べたものにすぎず、その『形状、 模様及び色彩又はこれらの結合』によって特定される本件登録意匠の構成態様について何 ら触れるものではないから、これをもって本件登録意匠の要部(看者の注意を引く部分) であると認めることはできない。本件登録意匠の『要部』に係る原告ドルナ・プロモシオ ンの右主張は、意匠法による意匠の保護に名をかりて、広告器を競技場に横一列に配置し て、その正面のシートに張り付けた広告を正面の全体に掲示し、かつこれをモータにより 回転させて順次掲示することによって一瞬のうちに会場全体の広告露出を転換するという 広告器としての機能ないし広告方法を独占しようというものであって、主張自体失当とい うべきである。」 二 争点2(不正競争防止法違反)について  「1 原告ドルナジャパンは、前記のとおり、原告広告器の『モータにより回転される 広告が正面の全体に掲示されるという形態』は、原告ドルナジャパンの商品等表示として 周知なものとなっており、被告広告器の形態も『モータにより回転される広告が正面の全 体に掲示される』ものであるから、被告による被告広告器の使用は不正競争行為に該当す ると主張している。  そこで検討すると、不正競争防止法2条1項1号は『他人の商品等表示』すなわち『人 の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を 表示するもの』として需要者の間に広く認識されているものと同一又は類似の商品等表示 を使用等する行為を不正競争行為と規定することにより、周知な商品等表示の持つ出所表 示機能を保護するものである。そして、商品の形態は、商品の機能を発揮したり商品の美 感を高めたりするために適宜選択されるものであり、本来的には商品の出所を表示する機 能を有するものではないが、ある商品の形態が他の商品に比べて顕著な特徴を有し、かつ、 それが長期間にわたり特定の者の商品に排他的に使用され、又は短期間であっても強力な 宣伝広告等により大量に販売されることにより、その形態が特定の者の商品であることを 示す表示であると需要者の間で広く認識されるようになった場合には、商品の形態が右条 項により保護されることがあるものと解される。ただし、商品の形態が当該商品の機能な いし効果と必然的に結びつき、これを達成するために他の形態を採用できない場合には、 右形態を保護することによってその機能ないし効果を奏し得る商品そのものの独占的・排 他的支配を招来し、自由競争のもたらす公衆の利益を阻害することになるから、機能ない し効果に必然的に由来する形態については、右条項による保護を及ばないと解すべきであ る。  これを本件についてみると、原告ドルナジャパンは、『モータにより回転される広告が 正面の全体に掲示される』ことが原告広告器の形態であり、同原告の商品等表示として周 知であると主張するが、同原告の右主張するところには、原告広告器の形態が具体的にど のようなものであるのかに関する主張が何ら含まれておらず、要するに、『モータにより 回転される広告が正面の全体に掲示される』という、原告広告器の有する機能そのものが その形態であると主張しているにすぎないものであって、主張自体失当というべきである。 そして、商品の機能は不正競争防止法による保護の対象となるものでないから、『モータ により回転される広告が正面の全体に掲示される』広告器を独占することを求める原告ド ルナジャパンの請求は、理由がない。」 裁判長裁判官 三村 量一    裁判官 長谷川浩二    裁判官 中吉 徹郎