・東京地判平成11年3月29日判時1689号138頁  劇団SCOT事件:第一審。  第一事件原告・第二事件被告原告戸村(護嶋春水こと戸村孝子)は美術家で本件著作物 (戸村作品)を創作した。第一事件原告・第二事件被告原告スコット(有限会社スコット) は劇団SCOTとして演劇活動を続けている。第二事件被告原告長谷川(長谷川裕久)は 訴外劇団ACMの専属演出家であり、本件演劇の演出等を担当した。  平成7年11月に東京で開催された演劇祭の参加作品として、スコット制作、長谷川作・ 演出、戸村美術担当にかかる舞台演劇「赤穂浪士」が上演され、その際、戸村作品を組み 込んだ舞台装置(本件舞台装置)が使用された。  第一事件被告・第二事件原告金は造形美術作家である。第一事件被告新崎および武田は 金とともに本件記者会見をおこなった。  金は、平成2年5月までに「復活を待つ群」と題する一連の造形美術作品の一部である 作品25点(本件著作物)を創作した。  平成7年11月21日、金は、新崎および武田とともに記者会見をおこない、「劇団SC OTによる舞台美術剽窃事件に関する記者会見のお知らせ」と題する書面を事前に配布す るとともに、戸村作品が本件著作物を盗用・剽窃したものである旨発表した。  第一事件は、著作権侵害行為をした旨の記者会見を金、新崎および武田がおこなったこ とがスコットおよび戸村の名誉毀損に当たるとして、スコットおよび戸村が金、新崎およ び武田に対し、損害賠償および謝罪広告を求めた事案である。  第二事件は、戸村、スコットおよび長谷川が、造形美術作品について金の有する著作権 を侵害したとして、金が戸村、スコットおよび長谷川に対し、制作の差止、作品の廃棄、 損害賠償および謝罪広告を求めた事案である。 ・争点1:戸村作品の制作行為は著作権侵害行為に当たるか。 ・争点2:本件舞台装置の制作行為は著作権侵害に当たるか。 ・争点3:戸村作品および本件舞台装置の制作等による金の損害等 ・争点4:本件記者会見についての不法行為の成否 ・争点5:本件記者会見によるスコットおよび戸村の損害  判決は、争点1および2について、戸村作品の制作経緯を詳細に検討した結果、次のよ うに述べて、戸村の原告著作物に対する依拠性を否定した。 「戸村の戸村作品の制作経緯及びその他の事情を総合すると、戸村は本件著作物に依拠し て戸村作品を制作したと認めることはできないので、戸村作品の制作行為は著作権侵害に 当たらないし、また、本件舞台装置の制作行為も著作権侵害に当たらない。」  また、争点4については、以下のように述べて名誉毀損の成立を認めた。  「他人の創作活動が著作権侵害行為に当たる旨を記者会見等において公表するに際して は、当該作品を制作した者などから事実を確認するなどして、真実著作権を侵害する行為 があったか否かを十分に調査し、他人の名誉を損なわないようにすべき注意義務があると いうべきである。  ところで、斉藤及び戸村は、再三にわたり、戸村からの事情説明などを含めた話合いの 機会を設けようとしていたこと、それにもかかわらず、金は、話合いを拒否し、戸村から 事情の説明を聴取するなどして、著作権侵害行為に当たるか否かの確認行為をしようとし なかったこと、新崎及び武田らは、本件舞台装置を撮影した写真を見たのみで、戸村作品 ないし本件舞台装置の詳細及び制作経緯について確認行為をしようとしなかったこと、ま た、戸村作品及び本件舞台装置の各制作行為が本件著作物に係る金の著作権を侵害するも のでないことは、いずれも前記認定の通りである。しかるに、金、新崎及び武田は、確認 行為等をすべき注意義務を怠り、報道機関各社を招いて、スコット及び戸村が著作権侵害 を行った旨の事実をマスコミ各社に対する記者会見で発表したものであるから、金、新崎、 武田の三名には、この点において、過失があるというべきである。そして、右会見を伝え る記事が各新聞に掲載され、スコット及び戸村の名誉を毀損されたものというべきである から、金ら三名は、スコット及び戸村について生じた損害を賠償する義務がある。」  そして、賠償額として、戸村について40万円、スコットについて40万円、弁護士費 用として戸村およびスコットそれぞれにつき各10万円を認容した。謝罪広告については 棄却された。 (控訴審:東京高判平成12年9月19日)