・大阪高判平成11年4月27日判時1700号129頁  「ときめきメモリアル」事件:控訴審。  プレーヤーが男子高校生になって女子高校生との恋愛を疑似体験する人気ゲームソフ ト「ときめきメモリアル」の結末を簡単に再現できるデータを記録した周辺機器(メモ リーカード)を販売したのは、ストーリーの無断改変にあたるとして、ゲームソフト会 社「コナミ」が、「スペックコンピュータ」に対し、約1000万円の損害賠償を求め た事例。  原審判決は同一性保持権に基づく請求を退けていたが、本件控訴審は、原告の請求を 認容し、114万6000円の賠償を命じた。  ゲームソフトについては、「『ゲーム映像』とでもいうべき複合的な性格の著作物を 形成している」と述べた。 (裁判長・小林茂雄) (第一審:大阪地判平成9年11月27日、上告審:最判平成13年2月13日)  「本件ゲームソフトにおいては、データに保存された影像や音声をプログラムによって 読み取り再生した上、プレイヤーの主体的な参加によって初めてゲームの進行が図られる 点で、『映画の著作物』と『プログラムの著作物』とが単に併存しているにすぎないもので はなく、両者が相関連して『ゲーム映像』とでもいうべき複合的な性格の著作物を形成し ているものと認めるのが相当である。」  「従って、本件ゲームソフトにおいては、『藤崎詩織』やその他の女生徒のキャラクター が著作物として保護の対象となるのみならず、画面に想定される主人公の人物設定も能力 値によって表現された登場人物の一人として本件著作物の主要な構成要素に当たるものと 認めるのが相当である。」  「…本件ゲームソフトのプログラムは、主人公の能力に関する初期設定を固定し、その 設定を基盤とした上で、プレイヤーが選択した行動(コマンド)に対する能力項目の数値 を創作的に加減させ累積させてストーリーが展開するという構造になっているから、プレ イヤーによって作り出され蓄積されるセーブデータは、プログラムとは別個独立に截然と 区別されて存在する単なる数値ではなく、制作者が初期設定の数値によって表した主人公 の人物像(能力値)を変化させ、それに応じたゲーム展開を表現するための密接不可分な 要素として構成されているものというべきである。  従って、その初期設定は勿論、コマンドの選択に関連付けられた各能力項目の数値の加 減は、本件ゲームソフトの本質的構成部分となっているもので、これを改変し無力化する ことは、それによる表現内容の変容をもたらすものというのが相当であり、本件ゲームソ フトの著作物としての同一性保持権を侵害するものと解せられる。」 @ 人物設定の改変とそれによる「ストーリー」の改変  「本件ゲームソフトで設定された主人公の人物像は、高校入学直後は平凡な普通の高校 生であり、最大限の努力によって卒業間近の時点で達成できる能力も特定少数の分野のみ 高数値となるに止まるのであるから、こうした主人公の人物像は本件メモリーカードの使 用によって明らかに改変されたものといわなければならない。   そして、前記のとおり、本件ゲームソフトにおいては、主人公の能力値が初期設定の 低い数値であることを前提に、各時点でのコマンドの選択により達成しうる最大限の数値 の範囲内でその後のストーリーの展開が図られているものであるから、後記の「女生徒と の最初の出会いの時期」の改変に見られるように、当初から主人公の能力値が高数値に置 き換えられることによって、プレイヤーがストーリーの展開の過程において入力するコマ ンドの数値を無効化し、右のストーリーが本来予定された範囲を超えて展開されることと なり、この点で主人公の人物像の改変がストーリーの改変をももたらすものということが できる。」 A 「女生徒との最初の出会いの時期」の改変  「本件ゲームソフトでは、主人公の能力値が低い段階から物語がスタートし、表パラメ ータの数値が一定値に達したとき初めてそれに応じた女生徒が登場する設定となっている から、主人公の能力が一定値に達する時期までは女生徒が登場しない前提でストーリーの 展開が図られているものということができる。  しかるに、本件メモリーカードのブロック1ないし11によれば、高校入学直後の主人 公の能力値が極めて高いものに改変される結果、入学当初から本来はあり得ない女生徒が 登場することになり、この点でもストーリー展開に顕著な改変があるといわなければなら ない。」 B 「ストーリー」の削除  「しかし、本件メモリーカードのブロック12、13により、卒業一週間前の時点で主 人公の能力値を本来であればあり得ない高数値に置き換えることはその時点での人物像の 改変に他ならず、それによりその後のストーリーの展開に改変をもたらすものであること は、ブロック1〜11におけると同様である。  従って、右により改変されるのは数値が置き換えられた後の展開であって、それ以前の ストーリーが削除改変されるものではない。」  「本件メモリーカードを使用して本件ゲームソフトのプログラムを実行することが本件 ゲームソフトの著作物としての同一性保持権を侵害するものであり、そのようなゲームを 行っている者は個々のプレイヤーということになるが、本件メモリーカードの制作者は、 右行為に主体的に加功していることは明らかであり、本件メモリーカードの制作者はこれ を意図してその制作をした者であるから、右カードを使用して行う本件ゲームソフトの改 変行為について、制作者はプレイヤーを介し本件著作物の同一性保持権を侵害するものと いうことができ、これを購入した者は本件メモリーカードを使用して本件ゲームを行った ものと推認できるから、制作者はプレイヤーの本件メモリーカード使用の責任を負うべき ものというべく、右改変をするメモリーカードの輸入、販売をした被告も著作権法113 条1項1号・2号より同一性保持権侵害の責任を免れないというべきである。」  以上のように、原審が認定した複製権侵害(「藤崎詩織」のキャラクターのアイコンにつ いて)に加えて、原審が棄却していた同一性保持権侵害を認定し、これについて100万 円の損害賠償を追加した。