・東京地判平成11年6月25日  「中学生にもわかる著作権」事件。  原告(財団法人消費者教育支援センター)は「学校教育と知的財産権〜教材作成委員会」 を設置し、「大事にしようあなたの創意」(中学校を舞台としたストーリー性のある漫画 であり、解説文および図形等を用いて、中学生向けに、著作権思想に関する啓発を目的と した小冊子であり、三六頁(表紙を含む)からなるもの)および「きみが創りきみが守る」 と題する冊子(原告冊子)を製作、発行していたところ、被告(豊澤豊雄)が執筆し、被 告(騎虎書房)が発行した「中学生にもわかる著作権」なる書籍(中学校を舞台に、登場 人物の会話を多用した、著作権思想の啓発を目的とする小説風の読み物、および知的財産 権に含まれる権利について、樹木の枝状に現した説明図(被告書籍(五)))が、原告の 著作権(複製権、翻案権)および同一性保持権を侵害するとして、原告が被告らに対して、 損害賠償および謝罪広告を請求した事案である。 ・著作権侵害  判決は、被告書籍(一)ないし(三)、(六)および(七)については、その場面設定、 話の展開、会話の内容などを比較した上で、「ほぼ同一であり、前者は後者を翻案したも のと解される」と、また被告書籍(五)(知的財産権に含まれる権利の関係を、樹木の枝 状に現した説明図)については、「『その他』と分類された枝が中央又は端に配されてい る点、『音楽界』『美術界』等の記載が付加されている点において異なるが、それ以外の 点は、すべて同一であり、前者は後者を複製したものと解される。」と述べた。  以上のように、被告書籍のうち、一部につき「原告冊子一の該当部分を複製ないし翻案 したものであり、被告らが被告書籍を発行することは、原告の原告冊子一に係る複製権、 翻案権を侵害する」と述べた。  これに対して、被告書籍(四)の部分については翻案または複製を否定した。また、 「原告冊子一(八)及び原告冊子二(八)は、問合せ先一覧として知的財産権関係の官庁 や団体を並べたものにすぎず、原告の独自の個性を発揮したものということはできず、著 作物性を肯定することはできない」とした。 ・同一性保持権侵害  また、同一性保持権については、著作権侵害のあった部分について、「被告書籍…は、 原告冊子一を複製、翻案するに当たり、会話の内容等を改変している部分があり、特に、 被告書籍(七)においては、『そういうこと。つまり著作権は没収する法律でもあるわけ だね』と、読者に、偽ブランド品が著作権法により没収されるかのような誤解を与える会 話に改変されている。したがって、被告らの行為は、原告冊子一について原告が有する同 一性保持権を侵害する。」と述べて、侵害を認めた。 ・被告会社の故意過失  被告会社は、次のように主張した。  「平成九年一〇月ころ、被告豊澤から被告会社に対し、被告書籍の出版企画が持ち込ま れた。被告会社が、被告豊澤から原稿を受け取り、目を通したところ、原告冊子一につい て言及されていたため、被告豊澤に確認したが、同被告より著作権上の問題はない旨の回 答があった。被告会社は、著作権等について多数の著書を執筆している専門家である被告 豊澤の回答を尊重して、被告書籍を出版したので、被告会社には、原告の著作権等の侵害 につき、故意、過失はない。」  これに対して、判決は次のように述べてその過失を認めた。  「被告会社は、出版社として、書籍を出版する際には、第三者の著作権等を侵害してい ないか調査検討すべき義務があるところ、原告冊子一の存在が推測されるにもかかわらず (甲三)、何ら調査検討をせずに、被告書籍を発行したのであるから、被告会社には、原 告の著作権及び同一性保持権を侵害したことについて過失があったと認められる。なお、 被告会社が、著作権侵害はない旨の被告豊澤の回答を信用したとしても、右認定を覆すに は足らない。」 ・損害額  その結果、判決は50万円(著作権侵害10万円、同一性保持権侵害40万円)の損害 賠償請求を認容し、謝罪広告については否定した。 (裁判長:飯村敏明、裁判官:八木貴美子、石村智)