・東京地判平成11年6月25日  ネコのポストカード事件:第一審。  原告は、猫を題材としたパステル画を中心に創作活動をしている画家であり、被告(総 合企画アートノア)は、絵画の売買等を営むほか、美術関係図書の発行等を業とする株式 会社芸術新聞社の代表者である。  本件は、原告が被告に対し、(1)@主位的に、原告が著作した絵画の販売委託契約の 解除若しくは右絵画の所有権に基づいて、右絵画のうち、被告が現在保管中の絵画の返還 を、右契約に基づいて、売却済みの絵画につき原告の取り分の支払を、A予備的に、右絵 画の売買契約に基づいて、代金の支払を、(2)右絵画に係る著作権に基づいて、これを 複製したポストカードの製作等の差止め及び右ポストカード等の廃棄、並びに損害賠償の 支払を、それぞれ請求した事案である。  判決は下記のように判示した。 ・販売委託契約について  まず、下記のように述べて、原告と被告の間の本件絵画の取引に関する契約が、売買契 約ではなく販売委託契約であったと解釈した。その結果、未払いの95万円の支払いを命 じた。  「前記のとおり、原告、被告の間で、本件絵画について、被告が顧客に販売することを 前提として取引がされたが、契約書が作成されなかったのみならず、取引形式及び条件に つき、必ずしも具体的、詳細な協議がされていなかったこと、原告は被告に対し、原告の 取り分について、売買の場合には販売価格の二〇パーセント、販売委託の場合には販売価 格の三〇パーセントとしたい旨述べて、いずれの契約も可能である旨意向を伝えていたこ とからすると、原、被告が明示的な合意をしたということはできない。しかし、原告の作 品については、当時、既に、一点当たり一三万円から二〇万円の販売価格が付された実績 があること、これに対し、被告は、本件絵画一〇四点の取引の対価として、僅かに合計四 〇万円を支払ったのみであること等の事情に照らすならば、原告は、被告に対し、本件絵 画の所有権を移転するまでの意思の下に本件絵画を引き渡したものと解することはできず、 せいぜい、被告に対し、販売を委託する趣旨で、被告が顧客に販売した後に精算の上、分 配を受ける意思の下に、本件絵画を引き渡したものと解するのが合理的であり、被告も、 その支払金額等の事情に照らして、そのような趣旨で、本件絵画の引き渡しを受けたもの と、その意思を推認するのが合理的である。さらに、原告は、原告の取り分について、販 売委託の場合には販売価格の三〇パーセントとしたい旨明確に述べていた点に照らし、右 販売委託における原告の取り分は、販売価格の三〇パーセントであると認められる。  そして、前掲各証拠によれば、被告は、原告から交付を受けた本件絵画の一部を顧客に 売却したが、右合意に沿った金額の支払いをしないのみならず、販売に関する報告をしな かったこと、原告は、被告に対し、平成六年九月二六日の本件口頭弁論期日において、右 販売委託契約を解除する旨の意思表示をしたことは明らかである。(なお、弁論の全趣旨 に照らし、被告が右各義務を履行する意思のないことは明らかであり、催告は要しないと 解される。)」 ・ポストカード製作の許諾等  また、被告によるポストカード製作については、下記のように、事前の許諾がなかった ものと認めて、差止め(製作・販売・頒布の禁止、被告所有の各ポストカードおよびその 半製品ならびに各ポストカードを製作するために用いられる印刷用原版の廃棄)、および 販売価格の10%の使用料相当額12万7058円の損害賠償の請求を認容した。  「右認定したとおり、原告は、本件ポストカードが販売されたことを知った直後から、 被告に対して、著作権使用許諾契約を締結するように申し入れたり、警告書を送付したり している事情に照らすならば、原告が本件ポストカードの製作を事前に許諾していたとは 認め難い。なお、原告は被告から、本件ポストカードの交付を受けているが、右事実をも って、原告がその製作を事前に許諾していたということはできない。また、被告は、本件 絵画に係る著作権について譲渡を受けた旨主張するが、これを認めるに足る証拠はない。  よって、原告の本件ポストカードの製作、販売、頒布の差止めを求める請求及びその予 防に必要な措置を求める請求は理由がある。」 (控訴審:東京高判平成12年1月18日)