・東京地判平成11年6月29日判時1693号139頁  「プリーツプリーズ」事件。  三宅一生氏がデザインした「プリーツ・プリーズ」に類似した商品を製造販売する被告 (名鉄百貨店、ルルド)に対して、原告(三宅デザイン事務所)が提起した不正競争防止 法に基づく損害賠償請求(それぞれ10万円)が認容された。謝罪広告については請求棄 却された。  原告は、著名な服飾デザイナーである訴外三宅一生を中心とする所属のデザイナーによ って衣類・服飾雑貨等のデザインを考案することを業とする株式会社であり、訴外株式会 社イッセイ・ミヤケ(訴外会社)に、これらのデザインを利用した衣類等を製造・販売す ることを許諾し、訴外会社からロイヤルティを得ている。原告と訴外会社は、親子会社の 関係にあるのみならず、ともに訴外三宅の実質的経営に係る企業グループを構成し、右企 業グループとして服飾ブランド「イッセイ・ミヤケ」を運営している。  被告名鉄百貨店(被告名鉄)は、百貨店を営む株式会社であり、被告ルルド(被告ルル ド)は、婦人服の製造・販売等を目的とする株式会社である。  原告は、「プリーツ・プリーズ」というブランド名の一連の婦人服(原告商品)のデザイ ンを考案し、訴外会社は、平成5年2月から、原告の許諾を受けて原告商品を製造・販売 している。  被告ルルドは、「ルルド・エレガンス」というブランド名の一連の婦人服(被告商品)を 製造して被告名鉄に納入し、被告名鉄は、平成6年4月13日から、これらを名古屋市内 にある名鉄百貨店本店において販売した。  判決は、以下のように判示した。 ・原告商品の形態と周知商品表示性  「これらシリーズ商品の形態を、各アイテムの性質上必然的に備えるべき基本的形態(例 えば、上衣のアイテムであれば、袖ぐりや襟ぐりが存在することなど)を捨象して観察す れば、『滑らかなポリエステルの生地からなる婦人用衣服において、縦方向の細かい直線状 のランダムプリーツ(幅が一定しないひだ)が、肩線、袖口、裾などの縫い目部分も含め て全体に一様に施されており、その結果、衣服全体に厚みがなく一枚の布のような平面的 な意匠を構成する』という共通した特徴があることが認められる。」  「商品の形態は、本来的には商品の機能・効用の発揮や美観の向上等のために選択され るものであり、商品の出所を表示することを目的として選択されるものではないが、特定 の商品形態が同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し、かつ、右商品形態が、長期間継 続的かつ独占的に使用されるか、又は短期間でも強力な宣伝等が伴って使用されたような 場合には、結果として、商品の形態が商品の出所表示の機能を有するに至り、かつ、商品 表示としての形態が需用者の間で周知になることがあり得るというべきである。そして、 このような場合には、右商品形態が、当該商品の技術的機能に由来する必然的、不可避的 なものでない限り、不正競争防止法2条1項1号に規定する『他人の商品等表示として需 用者の間に広く認識されているもの』に該当するものといえる。」  「右…を総合すると、原告商品は、平成六年四月当時、前記2記載のような形態におい て、同種の商品と識別し得る独自の特徴を有していたものということができ、かつ、平成 五年二月の発売直後から平成六年四月ころまでの間に、数多くの全国的なファッション雑 誌や新聞に頻繁に取り上げられてその形態が写真付きで紹介されるとともに、その販売地 域や販売額も拡大するなどして、全国的にヒット商品としての評価が定着したということ ができるものであって、加えて、原告商品が著名な服飾デザイナーである訴外三宅のブラ ンドとして広く知られた『イッセイ・ミヤケ』の商品シリーズであり、右『イッセイ・ミ ヤケ』ブランドに属する商品シリーズとして、販売、宣伝広告、雑誌・新聞での紹介がさ れてきたことをも考慮すると、原告商品の形態は、遅くとも平成六年四月ころまでに、全 国の服飾関係業者及び一般消費者の間において、服飾ブランド『イッセイ・ミヤケ』を運 営する営業主体の商品であることを示す商品表示としての機能を有するに至るとともに、 右商品表示として周知性になったものと認めるのが相当である。  そして、前記…で認定したとおり、右「イッセイ・ミヤケ」ブランドは、原告と訴外会 社によって構成される企業グループによって運営されているのであるから、原告商品の形 態は、右企業グループの商品表示として周知になったものと認められ、したがって、右グ ループを構成する会社の一つである原告に関しても、周知な商品表示であったということ ができる。  (四)被告らは、原告商品の前記のような形態は、女性用衣類に要求される軽さ、しわ になりにくいこと、型くずれしないこと、洗濯のしやすさ、汗を吸いやすいこと、汚れに くいこと、といった機能をよりよく発揮するために、衣類全体にプリーツを施すという加 工方法を選択した結果生じた形態であり、右技術的機能に由来する必然的な形態であるか ら、商品表示とはなり得ない旨を主張する。なるほど、原告商品の形態が被告らが主張す るような衣類としての機能の発揮に資するものであり、このような機能を発揮することが 原告商品の形態の選択に当たって一つの考慮要素となったことは否定できない。しかしな がら、右のような機能を達成するための形態は、原告商品のようなものに限られないので あり、原告商品では、右のような機能面のみならず、衣服としての美しさの観点から、一 つのデザインとして前記のような形態を選択したものであることは、外形的なデザインが 需要者から最も重視される婦人服という商品の性質上明らかというべきであるから、原告 商品の形態は、その技術的機能に由来する必然的な形態とはいえないのであり、被告らの 前記主張は理由がない。」 ・原告商品と被告商品の形態の類似性および混同のおそれについて  「したがって、被告商品1ないし5の形態は、原告の周知な商品表示となった原告商品 の形態に類似するものと認められる。  2 右のとおり被告商品1ないし5の形態が原告商品の形態と類似することからすれば、 被告商品1ないし5は、取引者ないし需要者において原告商品との混同を生じるおそれが あるものと認められる。」 ・結論  「以上によると、被告商品1ないし5を販売した被告らの行為は、不正競争防止法2条 1項1号所定の不正競争行為に該当する。」  「そして、被告商品1ないし5の販売によって被告らがそれぞれ得た利益10万円は、 不正競争防止法5条1項により、被告らの不正競争行為によって原告が受けた損害の額と 推定される。 三 したがって、被告らそれぞれに対し、不正競争防止法4条、2条1項1号に基づいて、 10万円の損害賠償及びこれに対する不正競争行為の後である請求の趣旨記載の日(訴状 送達日の翌日)から支払い済みまでの遅延損害金の支払を求める原告の請求は、理由があ る。」 ・信用回復措置請求  「原告は、被告商品が原告商品に比して品質の劣る粗悪品であり、これが原告商品と混 同されることによって、原告商品に対する信頼が損なわれるとともに、このような粗悪品 の流通がプリーツ製品一般に対する消費者のイメージの低下をもたらし、ひいては原告に 営業上の損害を与えた旨を主張する。しかしながら、本件において、被告らによる被告商 品の販売によって、原告が主張するような原告の営業上の信用の低下が現実に生じたこと を認めるに足りる証拠はない。また、仮に、原告に何らかの営業上の信用の低下が生じて いたとしても、被告らによる被告商品の販売が、名古屋市内の名鉄百貨店本店のみにおけ る地域的に限られたものである上、その販売期間も二か月程度と比較的短期間にすぎない ことなどを考慮すれば、前記のとおり原告の被告らに対する損害賠償請求を原告の請求額 全額につき認容する本件において、さらに被告らに対し、信用回復措置としての謝罪広告 まで命ずる必要があるとまでは認められない。  したがって、被告らに対し、不正競争防止法7条、2条1項1号に基づいて、信用回復 措置としての謝罪広告を求める原告の請求は、理由がない」