・東京地判平成11年6月29日判時1692号129頁  シチズン腕時計事件。  本件は、原告(シチズン時計株式会社、シチズン商事株式会社)が被告(タイムリバース) に対し、被告が輸入販売した腕時計の形態が原告らの腕時計の形態を模倣したものであり、 被告の行為は不正競争防止法2条1項3号の不正競争に該当すると主張して、被告の行為 の差止め、損害賠償等を求めるとともに、原告シチズン時計が被告に対し、意匠権侵害を 理由とする差止めおよび損害賠償を求めた事案。  判決は、被告商品たる腕時計を輸入し、販売等譲渡し、貸し渡し、譲渡若しくは貸渡し のために展示することの禁止、当該腕時計の廃棄、および原告(シチズン時計)に対して 63万9200円、ならびに原告(シチズン商事)に対して143万400円の損害賠償 請求を認めた。 ・不正競争防止法2条1項3号について  「不正競争防止法2条1項3号にいう「模倣」とは、既に存在する他人の商品の形態を まねてこれと同一又は実質的に同一の形態の商品を作り出すことをいい、他人の商品と作 り出された商品を対比して観察した場合に、形態が同一であるか実質的に同一といえる程 度に類似していることを要するものである。そして、問題とされている商品の形態に他人 の商品の形態と相違する部分があるとしても、その相違がわずかな改変に基づくものであ って、商品の全体的形態に与える変化が乏しく、商品全体から見て些細な相違にとどまる と評価される場合には、当該商品は他人の商品と実質的に同一の形態というべきである。 これに対して、当該相違部分についての改変の着想の難易、改変の内容・程度、改変が商 品全体の形態に与える効果等を総合的に判断したときに、当該改変によって商品に相応の 形態的特徴がもたらされていて、当該商品と他人の商品との相違が商品全体の形態の類否 の上で無視できないような場合には、両者を実質的に同一の形態ということはできない。」  「…被告商品がこれら特徴的な形態をすべて備えていることを考慮すると、被告商品の 形態は、対応する原告ら商品の形態と実質的に同一であり、これを模倣したものと認める のが相当である。」  「したがって、被告商品は、いずれも対応する原告ら商品が最初に販売されてから起算 して三年を経過する前に、その輸入販売がされたものである。」 ・不正競争防止法2条1項3号の主体性について  「4 本件においては、原告ら商品を製造しているのは原告シチズン時計であり、原告 シチズン商事はシチズン時計からこれを購入して販売しているものであるが、証拠略によ れば、原告ら商品の開発に関しては、原告シチズン商事が新規腕時計商品の企画を提案し、 これに基づいて原告シチズン時計が腕時計の具体的な形態・仕様を創作していると認めら れ、原告ら両名が共同して原告ら商品の形態を開発したということができるから、原告ら はいずれも不正競争防止法2条1項3号の不正競争行為に対して同法所定の救済を求める 主体となり得るものである。 」 ・結論  「5 以上によれば、被告による被告商品の輸入販売は不正競争防止法2条1項3号の 不正競争に該当し、これにより原告らは営業上の利益を侵害されているものと認められる から、原告らは被告に対し、対応する原告ら商品が最初に販売された日から起算して未だ 三年を経過していないハ号商品ないしリ号商品については同法3条により輸入販売行為の 差止め及びその廃棄を求めることができ、また、すべての被告商品について、損害が認め られる場合には同法4条によりその賠償を求めることができる。」 ・意匠権侵害  「本件意匠とリ号商品の腕時計用側の意匠とを比較すると、別紙四『意匠公報』及び別 紙一『被告商品目録』(九の二)記載のとおり、両者の形状は同一ないし極めて類似してい るということができるから、リ号商品を輸入し販売する行為は、本件意匠権を侵害するも のであると認められる。  したがって、原告シチズン時計は被告に対し、意匠権侵害行為として、リ号商品の販売 等の差止め、廃棄を求めることができ、また、損害が認められる場合には同法4条により その賠償を求めることができる。」 ・損害額  「1 原告らは、前記第二、二3(一)のとおり、被告の不正競争行為により被った損 害として、(1)被告商品が輸入販売された数量に、原告ら商品の販売により原告らが得ら れる原告ら商品一本当たりの利益の額を乗じた金額、(2)宣伝広告費を含めた原告ら商品 の開発のために投資した金額、(3)予備的に、被告が不正競争行為により得た利益に相当 する金額の賠償を請求している。  原告シチズン時計は、前記第二、二3(二)のとおり、被告によるリ号商品の販売につ き、右請求と選択的に、本件意匠権の侵害により被った損害として、右(1)の金額と同 額の賠償を求めている。 2 そこで検討すると、不正競争ないし意匠権侵害による損害として主張する右(1)の 金額について、原告らは、原告ら商品一本当たりの利益の額が600円ないし4000円 であると主張するが、右利益の額についての主張を裏付ける証拠はない。したがって、原 告らの右(1)の主張は、その前提を欠くものであり、その余の点について判断するまで もなく、採用できない。 3 また、原告らは、右(2)の金額が被告の不正競争行為により原告らが被った損害で あると主張し、その主張に沿う証拠として、原告らにおける腕時計一点当たりのデザイン 費用は、平均で約62万円であり、原告ら商品(三)及び同(五)については合計約28 6万円であること、原告ら商品の宣伝広告費が3億円を超えていること、原告ら商品(三) 及び同(五)の販売数量が、平成八年一〇月から同九年九月までの期間に比べ、同年一〇 月以降急激に減少していることを示す資料(甲一三ないし一九)を提出する。右(2)の 金額については、本来デザイン費用、宣伝広告費は商品の販売収入により回収されるべく 商品価格が設定されているはずであることに照らせば、被告の不正競争行為による原告ら 商品の販売数量の減少による逸失利益の損害に加えて、これと別途に原告ら商品について のデザイン費用、宣伝広告費を損害という原告らの主張は、主張自体失当として排斥すべ きものである。また、仮にこの点をおくとしても、原告ら提出の右各証拠を総合しても原 告らの主張する右(2)の金額が被告による不正競争行為と相当因果関係のある損害に当 たると認めることはできないから、いずれにしても、右(2)の損害をいう原告らの主張 は採用できない。 4 そうすると、原告らの被った損害については、右(3)の被告が被告商品の輸入販売 により得た利益の額であると自認する206万9600円(イ号商品ないしチ号商品につ き168万9600円、リ号商品につき38万円)であると認められ(不正競争防止法5 条1項)、右認定の額を超える損害を原告らが被ったことを認めるに足りる証拠はない。  本件においては、原告ら商品はいずれも原告シチズン時計が製造して専ら原告シチズン 商事に納入し、これを受けて原告シチズン商事において販売しているものであって、原告 両会社は企業グループ内において原告ら商品につき製造と販売を分掌するものである。原 告らは、そのような状況を前提として、本訴請求において、原告ら商品それぞれ一個当た りにつき各原告が取得すべきそれぞれの利益額を基礎として算出した金額を、各原告の逸 失利益として請求しているものであり、右によれば、原告らは被告の不正競争により被っ た損害については、原告ら商品から得られる各原告の利益額に応じた割合でこれを請求し ているものと解することができる。」