・東京地判平成11年6月29日判時1686号111頁  「脇下用汗吸収パッド」実用新案均等事件。  原告が被告(小林製薬株式会社)に対し、脇下用汗吸収パッドについての実用新案権の 侵害を理由として損害賠償を求めた。被告は、@実用新案登録請求の範囲におけるパッド の縁部形状に関する「曲率の小さな」という記載は「曲率半径の小さな」の明白な誤記で あり「曲率半径の小さな」という意味に解釈してその構成要件の文言上の充足性を判断す べきであること、および、Aそうでないとしても、「曲率の小さな」という部分を「曲率 半径の小さな」に置換した点において均等が成立する、と主張した。  判決は、原告による@の主張については、明白な誤記と認めることはできないとし、訂 正審判を経ることなくこれをまったく反対の意味に解釈することは文言解釈の限界を超え るものとして許されないとし、また、原告によるAの主張については、最判平成10年2 月24日に依拠して均等の五要件をあげたうえで、本件では第五要件を満たさないとして 均等の成立を否定しその請求を棄却した。 ■判 決  「2 実用新案権侵害訴訟において、実用新案登録に係る願書に添付した明細書の実用 新案登録請求の範囲に記載された構成中に相手方が製造等をする製品(以下『対象製品』 という。)と異なる部分が存する場合であっても、(1)右部分が当該実用新案権に係る 考案の本質的部分ではなく、(2)右部分を対象製品におけるものと置き換えても、当該 考案の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって、(3)右のよう に置き換えることに、当業者が、対象製品の製造等の時点において容易に想到することが できたものであり、(4)対象製品が、実用新案登録出願時における公知技術と同一また は当業者がこれから右出願時に極めて容易に推考できたものではなく(実用新案法3条2 項参照)、かつ、(5)対象製品が実用新案登録出願手続において実用新案登録請求の範 囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないときは、右田意匠製品は、 実用新案登録請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、当該考案の技術的範囲に 属するものと解するのが相当である(最高裁平成六年(オ)第一〇八三号同10年2月2 4日第三小法廷判決・民集五二巻一号一一三頁参照)。  3 前記2(5)の要件は、いわゆる禁反言の法理から導かれるものであるが、実用新 案登録出願において、出願人が、いったん考案の技術的範囲に属しないことを承認した場 合に限らず、その内心の意思にかかわらず外形的にそのように解されるような行動をとっ た場合においても、実用新案権者が後にこれと反する主張をすることが許されない趣旨と いうべきである(前掲平成10年2月24日第三小法廷判決参照)。けだし、出願人にお いて一定の外形を作出した場合において、実用新案権者が後になって右外形に反する主張 をすることを許すときは、右外形を信頼した第三者の利益を不当害することになるからで ある。」 裁判長裁判官 三村 量一    裁判官 長谷川浩二    裁判官 中吉 徹郎