・東京高判平成11年7月13日判時1696号137頁  カラオケボックス事件:控訴審。 (仮処分:大阪地決平成9年12月12日、第一審:東京地判平成10年8月27日)  控訴人(被告)カラオケボックス「ビッグエコー上尾店」(埼玉県上尾市)が、被控訴人 (原告・日本音楽著作権協会)の許諾を得ることなく、カラオケボックスの営業をおこな ったことが著作権を侵害するとして、550万2383円の損害賠償と、別紙記載の音楽 著作物の使用停止、カラオケ関連機器の撤去請求を認容した原審を実質的に支持した。原 審が全損害額を不法行為に基づく損害賠償請求として認容した部分を、本件控訴審におけ る付帯控訴請求を認容して一部取り消して、本訴が提起された平成9年9月22日の3年 前以前の著作権侵害行為については、不当利得返還請求に基づく請求としてこれを認めた。 ・控訴人らによる著作権侵害について  「1 以上説示したところによれば、本件店舗のカラオケ歌唱用の各部屋においては、 主として顧客自らが各部屋に設置されたカラオケ装置を操作し、通信カラオケ又はCDカ ラオケにより管理著作物である伴奏音楽の再生による演奏が行われ、管理著作物たる歌詞 及び伴奏音楽の複製物を含む映画著作物であるレーザーディスクカラオケの上映によって、 管理著作物たる歌詞及び伴奏音楽の複製物の上映が行われていることが明らかである。そ して、前認定のとおり、本件店舗の経営者である控訴人らは各部屋にカラオケ装置を設置 して顧客が容易にカラオケ装置を操作できるようにした上で顧客を各部屋に案内し、顧客 から求められれば控訴人らの従業員がカラオケ装置を操作して操作方法を教示しているの であり、顧客は控訴人らが用意した曲目の範囲内で選曲するほかないことに照らせば、控 訴人らは、顧客の選曲に従って自ら直接カラオケ装置を操作する代わりに顧客に操作させ ているということができるから、各部屋においてカラオケ装置によって前記のとおり管理 著作物の演奏ないしその複製物を含む映画著作物の上映を行っている主体は、控訴人らで あるというべきである。  2 また、本件店舗のカラオケ歌唱用の各部屋においては、顧客が各部屋に設置された カラオケ装置を操作し、再生された伴奏音楽に合わせて歌唱することによって、管理著作 物の演奏が行われていることが認められるところ、控訴人らは各部屋にカラオケ装置と共 に楽曲索引を備え置いて顧客の選曲の便に供し、また、顧客の求めに応じて従業員がカラ オケ装置を操作して操作方法を教示するなどし、顧客は指定された部屋において定められ た時間の範囲内で時間に応じた料金を支払い、再生された伴奏音楽に合わせて歌唱し、歌 唱する曲目は控訴人らが用意したカラオケソフトに収納されている範囲に限られることな どからすれば、顧客による歌唱は、本件店舗の経営者である控訴人らの管理の下で行われ ているというべきであり、また、カラオケボックス営業の性質上、控訴人らは、顧客に歌 唱させることによって直接的に営業上の利益を得ていることは明らかである。  このように、顧客は控訴人らの管理の下で歌唱し、控訴人らは顧客に歌唱させることに よって営業上の利益を得ていることからすれば、各部屋における顧客の歌唱による管理著 作物の演奏についても、その主体は本件店舗の経営者である控訴人らであるというべきで ある。  3 そして、右1及び2で認定したように、伴奏音楽の再生及び顧客の歌唱により管理 著作物を演奏し、その複製物を含む映画著作物を上映している主体である控訴人らにとっ て、本件店舗に来店する顧客は不特定多数の者であるから、右の演奏及び上映は、公衆に 直接聞かせ、見せることを目的とするものということができる。  4 ところで、著作権法附則14条によれば、適法に録音された音楽の著作物の演奏の 再生については、当分の間自由に行い得るものとされている。  しかし、同条は、公衆送信に該当するもの及び営利を目的として音楽の著作物を使用す る事業で政令で定めるものにおいて行われるものは、当分の間自由に行い得るものから除 外する旨規定しており、これに基づく政令として著作権法施行令附則3条が規定されてい るところ、控訴人らは本件店舗において顧客に飲食物の提供を行っている(当事者間に争 いがない。)から、控訴人らの本件店舗における営業は、同附則3条1号所定の『喫茶店そ の他客に飲食させる営業』に該当する。また、顧客がカラオケボックスにおいてカラオケ の伴奏音楽を再生してこれを聴くこと、及び、再生された伴奏音楽に合わせて歌唱を行っ てこれを聴くことは、いずれも同条同号所定の『音楽の鑑賞』に当たり、弁論の全趣旨に よれば、控訴人らは本件店舗においてカラオケボックスであることを表示して営業してい る(控訴人らは、この点を争っていない。)から、同条同号所定の『客に音楽を鑑賞させる ことを営業の内容とする旨広告し』ているというべきであり、本件店舗のカラオケ歌唱用 の各部屋に原判決別紙物件目録記載のカラオケ関連機器を設置することにより同条同号所 定の『客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けている』というべきである。  したがって、控訴人らの本件店舗における営業は、著作権法施行令附則3条1号の事業 に該当するから、著作権法附則14条は適用されない。  5 以上によれば、控訴人らは、本件店舗においてカラオケ関連機器を使って、@管理 著作物である伴奏音楽を公に再生することにより管理著作物の演奏権を侵害し、A映画の 著作物において複製されている管理著作物たる歌詞及び伴奏音楽を公に上映してその上映 権を侵害し、B再生された伴奏音楽に合わせて管理著作物を顧客に公に歌唱させることに より管理著作物の演奏権を侵害しているものというべきである。」 ・控訴人らの主張について  「1 使用許諾について  控訴人らは、被控訴人は、管理著作物の業務用カラオケソフトの製作をその製作者に許 諾していることによって、控訴人らが右製作者との契約に基づいて、本件店舗において右 カラオケソフトを再生し、これに合わせて顧客に歌唱させる行為についても許諾をしてい る旨主張する。  しかしながら、以下に説示するとおり、控訴人らの右主張は理由がない。  カラオケソフトを製作する行為と、製作されたカラオケソフトをカラオケボックスの店 舗において公に再生すること、及び、これに合わせて公に顧客に歌唱させることとは、明 らかに別個の行為というべきところ、《証拠略》によれば、被控訴人と業務用カラオケソフ ト製作者との契約では、例えば、被控訴人が業務用カラオケソフト製作者である株式会社 第一興商との間に締結した録音物製造における管理著作物に関する契約(昭和六一年一月 二〇日締結)において、「本使用許諾は、録音物製作者に対してのみ有効であり」(使用許 諾条件11)と記載され、使用許諾の内容は、「貴殿(株式会社第一興商)の使用許諾申請 にたいし当協会(被控訴人)の管理著作物を録音使用することを許諾いたします。」と記載 されていること(この契約は、録音媒体を製造して音楽著作物を録音する態様におけるも のと認められる。)、また、被控訴人と、いわゆる通信カラオケの送信を営む業者(通信カ ラオケ事業者)が会員となっている社団法人音楽電子事業協会との間で平成九年九月二六 日に締結された「業務用通信カラオケによる管理著作物利用に関する合意書」においては、 管理著作物を、カラオケ伴奏用にコンピューター等の記憶装置にデータベースの構成部分 として複製し、かつ送受信装置を用いて、社交飲食店やホテル、旅館、カラオケボックス 等の事業所に送信し、提供するシステムにより、複合的に利用することについて合意され たが、同合意書においては「受信先における演奏・歌唱は除く」ものであることが明記さ れていること(合意書前文の記載)が認められる。  これらの事実によれば、右各契約当事者となっていないカラオケボックスの営業主体に おける管理著作物の再生及びこれに合わせた歌唱は、許諾の対象となっていないことが認 められる。控訴人らは、カラオケソフト製作者から使用料を徴収した被控訴人が、更にカ ラオケスナック店等から使用料を徴収するのは、使用料の二重取りに当たり、許されない 旨主張するが、右にみたように、カラオケソフトを製作する行為と、製作されたカラオケ ソフトをカラオケボックスの店舗において公に再生すること、及び、これに合わせて公に 顧客に歌唱させることとは、別個の行為であるから、それぞれについて管理著作物につい ての使用料が支払われるべきものであり、これを違法、不当とすべき理由はないから、使 用料の二重取りに当たるとする控訴人らの主張も、採用することができない。  2 使用許諾料の未認可の主張について  《証拠略》及び弁論の全趣旨によれば、カラオケボックスにおける管理著作物の演奏等 については、控訴人らの本件店舗における営業開始前から、被控訴人が制定し文化庁長官 の認可を受けた著作物使用料規程の第2章第2節『演奏等』の『3 演奏会以外の催物に おける演奏』の『(7) その他の演奏』に該当するものとして、被控訴人が著作物使用料の 支払を受けることができるものと解され、そのように取り扱われていたことが認められる ところ、前記の本件店舗におけるカラオケ関連機器を使う方法による演奏等が、右の『3  演奏会以外の催物における演奏』のうちの(1)ないし(6)以外の『(7) その他の演奏』に該 当するものであることは明らかである。なお、《証拠略》及び弁論の全趣旨によれば、平成 九年八月一一日、右著作物使用料規程が文化庁長官の認可を受けて一部変更され、カラオ ケボックスにおける管理著作物の演奏等については、同規程の第2章第2節『演奏等』の 『4 カラオケ施設における演奏等』に該当するものとして規程が整備されたことが認め られるが、平成九年八月一一日の一部変更により初めてカラオケボックスにおける演奏等 について被控訴人が著作物使用料の支払を受けることができるようになったものではない ことが明らかである。  したがって、被控訴人が、平成九年八月一一日カラオケボックスについて著作物使用料 規程一部変更の認可を受けるより前の著作物使用料の請求は許されないとする控訴人らの 主張は採用することができない。憲法違反に関する控訴人らの主張も、前提を欠き、失当 である。  3 支払免除規定の適用の主張について  控訴人らは、カラオケボックスにおける使用料は、著作物使用料規程の第2章第2節『演 奏等』の『4 社交場における演奏等』のものによるべきである旨主張する。  しかしながら、社交場が客に飲食をさせ、社交が行われる場所であり、客や従業員によ る歌唱等はその効果を高めるための副次的な要素を持つにすぎないのに対し、カラオケボ ックスは、客がカラオケ伴奏により歌唱を行うことを主眼とする場所である点で大きな差 異があるものというべきである。両者の間に著作物の使用料に差異があるものとする被控 訴人の主張に、控訴人らが主張するような不合理な点は認められない。控訴人らは、本件 使用許諾料は著しく不公平、不均衡であり、公序良俗に反し無効であると主張するが、こ の主張を裏付ける事実関係を認めるに足りる証拠はなく、採用することができない。なお、 控訴人らの当審における主張中には、ビデオカラオケ及び通信カラオケが、オーディオカ ラオケよりも使用許諾料が高く設定されているのは不合理であり、不当であるとする部分 があるが、前者には上映権に関する使用許諾料も含む場合もあり、音による伴奏だけのカ ラオケに比してより顧客吸引力があることは明らかであるから、右のような差異があるこ とをもって、不合理であり不当であると認めることはできない。  4 通信カラオケの使用許諾料の未認可の主張について  カラオケボックスにおける演奏等が平成九年八月一〇日までは前記著作物使用料規程の 第2章第2節『演奏等』の『3 演奏会以外の催物における演奏』のうち『(7) その他の 演奏』に該当することは前記2で判示したとおりであるが、その演奏の方法として通信媒 体によるものが排除されていたとすべき根拠はない。前記2で判示したところに照らせば、 通信カラオケについての使用許諾料が平成九年八月一〇日までは未認可であったとする控 訴人らの主張は到底採用することができない。  5 権利濫用について  控訴人らは、控訴人らと被控訴人とのこれまでの交渉経緯等に照らし、被控訴人の本件 請求は、権利濫用である旨主張する。  しかしながら、本件全証拠を総合しても、控訴人らが被控訴人と著作物使用許諾契約を 締結していないことが専ら被控訴人の不誠実な対応に起因するといった事情を認めること はできない。他に、被控訴人の本件請求が権利の濫用に当たることを裏付けるべき事実関 係も認められないから、控訴人らの権利濫用の主張は採用することができない。  6 消滅時効について  本訴は平成九年九月二二日に提起されており、その三年前の平成六年九月二二日以前の 本件著作権侵害行為に基づく損害賠償請求権につき時効中断事由の主張立証はないので、 被控訴人の主張する平成五年四月一日から平成六年九月二二日までの著作権侵害について の不法行為に基づく損害賠償請求権は時効により消滅したものというべきである。  一方、右の間については、控訴人らが共同して本件の著作権侵害行為を行うことにより 利益を得て、そのため、被控訴人において損失を被ったものというべきであるから、控訴 人らは、その利得額を被控訴人に返還すべきである。」 ・損害額  「3(一) 以上によれば、被控訴人が控訴人らの前記著作権侵害によって被った使用料 相当額の損害ないし損失(控訴人らの利得)は、(ア)平成五年四月から六月まで月額5万 3560円、(イ)同年七月から平成六年一〇月まで月額7万40円、(ウ)同年一一月から 一二月まで月額7万4160円、(エ)平成七年一月から平成八年四月まで月額7万519 0円、(オ)同年五月から平成九年三月まで月額7万7250円、(カ)同年四月から七月ま で月額7万8750円、(キ)同年八月一日から一〇日まで2万5403円、(ク)同月一一 日から同年九月一〇日まで17万9550円、(ケ)同月一一日以降月額17万9550円 であり、右損害額(損失額)を合計すると、平成五年四月一日から平成九年九月一〇日ま での侵害に係るものが合計400万2383円であり、同月一一日以降の侵害に係るもの が一か月当たり17万9550円である。  (二)そのうち時効により消滅した以外のもので、控訴人らが損害金として賠償すべきも のは、(イ)のうち平成六年九月二三日から同年一〇月まで月額7万40円、(ウ)同年一一 月から一二月まで月額7万4160円、(エ)平成七年一月から平成八年四月まで月額7万 5190円、(オ)同年五月から平成九年三月まで月額7万7250円、(カ)同年四月から 七月まで月額7万8750円、(キ)同年八月一日から一〇日まで2万5403円、(ク)同 月一一日から同年九月一〇日まで17万9550円、(ケ)同月一一日以降月額17万95 50円であって、平成六年九月分を日割計算すると1万8677円(一円未満切捨て)で あるから、以上の損害額のうち平成六年九月二三日から平成九年九月一〇日までの侵害に 係るものは合計280万9780円であり、平成九年九月一一日以降の侵害に係るものが 一か月当たり17万9550円である。  (三)右の額以外で、控訴人らが不当利得として返還すべきものは、(ア)平成五年四月か ら六月まで月額5万3560円、(イ)のうち同年七月から平成六年九月二二日まで月額7 万40円であり、平成六年九月分の二二日までの日割額は5万1363円(一円未満切上 げ)であるから、その合計は119万2602円である。前記判示したところによれば、 控訴人らは悪意の利得者と認められるので、民法所定の利息を付してこれらを返還すべき である。  4 被控訴人は、本件訴訟の提起を弁護士に依頼しているところ、本件事案及び本件請 求の内容を総合すれば、控訴人らの前記著作権侵害と相当因果関係のある弁護士費用相当 の損害額は、150万円を下らないものと認められる。」 ・結論  「以上によれば、控訴人らに対し、著作権法112条に基づき、原判決主文第一項の管 理著作物の使用差止め及び原判決主文第二項のカラオケ関連機器の本件店舗からの撤去を 求める被控訴人の請求は理由があり、原判決主文第三項の著作権侵害の不法行為による損 害賠償請求は、第三の五3(二)のとおりの損害額(平成六年九月二三日から平成九年九月 一〇日までの各月額合計280万9780円及び平成九年九月一一日以降の一か月当たり 17万9550円)及び各月の損害額に対する不法行為の後である原判決主文第三項1、 2記載の日から各支払済みまで年五分の遅延損害金の支払並びに前記(第三の五4)の弁 護士費用相当損害金の支払を求める限度において理由がある(原判決主文第三項の2の金 員のうち、本件訴訟の口頭弁論終結日の翌日以降の損害に対応する金員の支払を求める部 分は、将来の給付を求めるものであるが、あらかじめ判決を求める必要があるものと認め られる。)。以上の部分に関する原判決は相当であり、これについての本件控訴はいずれも 理由がない。右額を超える部分の損害賠償の金銭支払を命じた原判決は取り消してその部 分の請求を棄却すべきであるが、これと選択的に当審で附帯控訴において請求された著作 権侵害の不当利得返還請求は、前記(第三の五3(三))のとおりの利得額(各月額及び日 割額合計119万2602円)及びこれに対する各月の利得の後である本判決主文第二項 1記載の日から各支払済みまで年五分の利息の支払を求める部分を認容すべきである。」