・東京高判平成11年7月14日  「壁の穴」事件:控訴審。  被控訴人・被告(株式会社壁の穴)が、「ブコ・ディ・ムーロ」というスパゲッティ、パ スタ商品の包装に「販売者:株式会社壁の穴」という表示を用いていることは、自他商品 の識別機能を果たす態様で用いられているとは認められないとして、控訴人・原告(壁の 穴フーズ株式会社、内河煕)が専用使用権を有する「壁の穴」という商標に基づく差止請 求を棄却した原審が支持された。 「当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないものと判断する。  その理由は、項を改めて、当審における控訴人らの主張について判断ほか、原判決の「理 由」と同じであるから、これを引用する(ただし、原判決九頁四〜五行目、八行目の各「B UCO dIMUrO」は、「BUCO di MUrO」に改める。)。 二 当審における控訴人らの主張について 1 被告標章の使用態様について  当審における、被告標章を含む販売者の表示部分が、通常の表示方法ではなく、商標と しての使用に該当する旨の控訴人らの主張は、原審における主張の範囲を実質的に出るも のではなく、それらがいずれも採用できないことは、原判決の説示するところ(原判決八 頁九行〜一一頁二行)に照らして明らかといわなければならない。  なお、控訴人らは、本件商標「壁の穴」が、本件商品分野において強い顧客誘引力を有 するものであり、現実に、本件商品の販売現場では、被告標章を付した商品が、「壁の穴」 の商品として認識されて販売されていると主張するところ、《証拠略》によると、デパート や量販店の被控訴人商品の陳列棚において、本件商品あるいはそれに関連するソースの各 販売価格が「壁の穴」の記載とともに表示されていた事実は認められるものの、各商品自 体にはそのような表示が行われておらず、陳列されている他社の商品についての表示と対 比しても、これらの表示は、販売者である当該デパートや量販店が作成掲示したものと推 認されるから、被控訴人の製造販売する本件商品において、被告標章は、被控訴人の商号 をその販売者名として表示しているにすぎず、商標としての使用に該当しないとした、前 記原判決の説示を左右するに足るものでないことが明らかである。 2 被控訴人の被告標章使用の意図について  被控訴人が、本件商標「壁の穴」の有する自他商品の識別力及び顧客誘引力を利用しよ うとして、被告標章の使用を行っており、その使用は不正競争の目的を有する旨主張して いるが、《証拠略》によると、「壁の穴」「ホール・イン・ザ・ウォール」の標章は、被控訴 人の取締役会長成松孝安が、昭和三九年以前から自己の営むレストランの名称として使用 を始めたこと、同人がフランチャイズ事業を開始した後であり、原告商標の出願前である 昭和五一年三月に、被控訴人が商号を「株式会社大阪壁の穴」として設立され、その商号 が原告商標の出願公告前である昭和五六年三月に現在の商号に変更されたことが認められ、 これらの事実と、前記認定の被告標章の使用態様に照らすと、控訴人ら主張の事実を認め ることができず、したがって、この点に関する控訴人らの主張は、これを採用することが できない。 三 以上によれば、控訴人らの本訴請求は理由がなく、これを棄却した原判決は正当であ り、控訴人らの本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につ き、民事訴訟法61条、67条1項本文、65条1項本文を適用して、主文のとおり判決 する。」 (第一審:東京地判平成10年11月30日)