・東京地判平成11年7月16日判時1698号132頁  「悪路脱出具」実用新案事件。  本件は、原告(出光石油化学株式会社)が、被告(三甲株式会社、ホーマック株式会社) らに対し、被告三甲が製造し、被告らが販売していた被告器具は、原告が有する実用新案 権の技術的範囲に属するから、その製造および販売は右実用新案権を侵害するものである として、右侵害による損害賠償請求が認容された事例。なお、小原産業は、平成三年三月 以来、実施料率を5%として、本件各考案を含む工業所有権を原告から実施許諾されてい る会社である。  判決は、下記のように判示した。 ■意匠権侵害(争点1)  「以上のとおり、被告器具は、本件各考案の『案内板』『溝部』の要件を充足していると 認められ、また、被告器具が本件各考案のその余の構成要件を充足していることは当事者 間に争いがない。  したがって、被告器具は、本件各考案の構成要件を全て充足し、その技術的範囲に属す るものと認められる。」 ■認容されれた損害額(争点2)  判決は、被告三甲に対して補償金請求(261万4029円)を認めるとともに、損害 賠償請求(逸失利益に基づく主張)として、原告器具一セット当たりの利益額(790円) に2万3462セットを乗じた額(1853万4980円)、および小原産業器具一セット 当たりの販売価格(1450円)に4万6923セットと実施料率5%を乗じた額(34 0万1917円)の合計2193万6897円を認容した。 ・被告三甲に対する補償金請求について  「1 被告三甲に対する補償金請求について  (一)被告三甲が遅くとも平成三年二月五日までには本件各考案が出願公開されたこと 及びその内容を知っていたこと、被告三甲が、右同日から本件各考案の出願公告日の前日 である平成五年四月一一日までの間、被告器具の製造販売により、合計5228万587 円の売上金を取得したことは当事者間に争いがない。  (二)証拠略によると、原告は、小原産業に対し、平成三年三月以来、実施料率を5パ ーセントとして、本件各考案を含む工業所有権を実施許諾していることが認められ、この 事実及び弁論の全趣旨によると、本件各考案の実施に対し通常受けるべき金銭の額は、販 売額の5パーセントと認めるのが相当である。  そうすると、原告が被告三甲から本件各考案の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相 当する金額は、右売上金の5パーセントに当たる261万4029円となる。  (三)したがって、原告は被告三甲に対して261万4029円の補償金請求権を有す る。」 ・被告らに対する損害賠償請求(逸失利益に基づく主張)について(実用新案法29条1 項に基づく主張)  「2 被告らに対する損害賠償請求(逸失利益に基づく主張)について  (一)証拠略によると、(1)原告は、昭和六二年ころから原告器具を製造、販売してい ること、(2)原告は、原告器具の原材料を下請け業者である株式会社オオヤマに提供して、 右下請け業者に原告器具を製造させ、これを自動車用品の取扱代理店に販売していること、 (3)株式会社オオヤマが有する成型機は、原告器具を一か月当たり1万5000セット 生産する能力を有していること、(4)原告は、昭和六三年には、年間1万5000セット の原告器具を販売したこと、以上の事実が認められる。  右認定の事実によると、原告は、被告三甲が平成五年四月一二日から平成八年四月一〇 日までの間に製造販売した被告器具7万385セットについて、製造販売する能力を有し ていたものと認められる。  (二)原告は、被告三甲が平成五年四月一二日から平成八年四月一〇日までの間に製造 販売した被告器具7万385セットのうち3万5193セットについては原告が、3万5 192セットについては小原産業が、それぞれ製造販売できたはずであると主張する。  ところで、証拠略と弁論の全趣旨によると、原告から本件各考案について通常実施権の 設定を受けた小原産業は、平成三年から、本件各考案の実施品である製品を製造、販売し ていること、原告器具は、主に原告系列のガソリンスタンドにおいて販売されており、小 売価格は、一セット3500円であったこと、小原産業が製造販売していた製品(以下「小 原産業器具」という。)は、主にホームセンター等の量販店で販売されており、小売価格は 2000円以上であったが、原告器具より価格が低かったこと、被告器具は、主にホーム センター等の量販店で販売されており、小原産業器具よりも更に価格が低かったこと、以 上の事実が認められる。  以上の事実からすると、原告器具と小原産業器具の製造販売割合がおおむね一対一とい うことはあり得ず、原告器具の数量を多めに見ても、原告一(2万3462セット)に対 して小原産業二(4万6923セット)の割合であると認められ、この限度では、原告が 原告器具を販売することができなかった事情が存するものと認められる。  (三)証拠略によると、原告は、原告器具の製造販売により、一セット当たり790円 の利益を得ることができたものと認められる。また、右(二)認定の事実に弁論の全趣旨 を総合すると、小原産業による小原産業器具の販売価格は一セット当たり1450円であ ったことが認められる。」 ・損害額  「(四)以上の事実に基づき原告が被った損害の額を算出すると、原告器具については、 その一セット当たりの利益額790円に右2万3462セットを乗じた1853万498 0円となり、小原産業器具については、一セット当たりの販売価格1450円に右4万6 923セットと右1(二)認定の実施料率5パーセントを乗じた340万1917円とな り、その合計は、2193万6897円となる。  被告ホーマックは、右2193万6897円の損害のうち、平成五年四月一二日から平 成八年四月一〇日までの間に被告ホーマックが被告三甲から購入した3万51セット分の 損害936万5996円について、被告三甲と連帯して責任を負う。」 ・侵害者利益に基づく損害額の主張について  判決は、下記のように侵害者利益に基づく損害額についても計算しているが、上記によ り認めた逸失利益に基づく損害額のほうが高額であったため、それ以上判断しなかった。 「(一)被告三甲に対する請求について   右2(二)で述べたとおり、小原産業器具が存することを考慮すると、被告らが販売 した被告器具について、原告がその全てを販売することができたとは認められず、原告器 具と小原産業器具の販売割合は、原告器具の数量を多めに見ても、原告一に対して小原産 業二の割合であると認められるから、侵害者利益に基づく損害額の推定は、その数量の三 分の二については、小原産業器具が存することによって覆されるというべきである。  そうすると、原告の主張する被告三甲及び被告ホーマックの各利益の合計額は5349 万7063円であるところ、その全額が認められたとしても、その三分の二について推定 が覆されるから、結局、右額の三分の一に相当する1783万2354円の範囲で損害額 が認められることになる。  しかるに、右2において、被告三甲に対する逸失利益に基づく請求について、右額を上 回る損害額を認定したから、被告三甲に対する侵害者利益に基づく請求については、その 余の点につき判断する必要がない。  (二)被告ホーマックに対する請求について  (1)被告ホーマックが被告器具を販売したことによる損害について  ア 被告ホーマックが平成五年四月一二日から平成八年四月一〇日までの間、合計三万 〇〇五一セットの被告器具を販売したこと、被告ホーマックによる被告器具の販売価格が 一セット当たり平均1784円を下らないことは当事者間に争いがない。そうすると、被 告器具の販売価格総額は、5361万984円となる。  イ 被告ホーマックの被告器具一セットの購入原価が1198円で、これが販売価格か ら控除すべき経費に当たることは、当事者間に争いがなく、右経費の総額は、3600万 1098円となる。  ウ 弁論の全趣旨によると、被告ホーマックは、いわゆるホームセンター等の量販店を 経営し、悪路脱出具等を一般消費者に販売していることが認められる。  一方、原告は、前記認定のとおり、その製造した原告器具を自動車用品の取扱代理店に 販売しているにすぎず、一般消費者に対し原告器具を販売しているわけではない。  そうすると、被告ホーマックが、平成五年四月一二日から平成八年四月一〇日までの間 に販売した被告器具(個数3万51セット、平均販売価格1784円)については、原告 は、新たな投資を要さずに、右販売価格で右の個数販売できたとは認められないから、被 告ホーマックの販売費及び一般管理費を経費として控除することが相当である。  被告ホーマックの第四六期(平成八年二月二一日から平成九年二月二〇日まで)及び第 四七期(平成九年二月二一日から平成一〇年二月二〇日まで)の販売費及び一般管理費の 平均は、販売価格の21・45パーセントであると認められるから、被告器具一セット当 たり、その平均販売価格1784円の21・45パーセントである382・67円を、販 売費及び一般管理費として、右販売価格から控除すべきであり、右経費の総額は、114 9万9606円となる。   エ 右アの販売価格総額5361万984円から右イ及びウの経費総額4750万71 4円を控除した611万270円が侵害者利益に基づく原告の損害額と推定されるが、右 (一)で述べたとおり、右推定は、その数量の三分の二については、小原産業器具が存す ることによって覆されるというべきであるから、被告ホーマックの被告器具の販売による 原告の損害額は、右額の三分の一である203万6756円になる。  (2)被告三甲が被告器具3万51セットを被告ホーマックに製造販売したことによる 損害について  右(一)で述べたとおり、侵害者利益に基づく損害額の推定は、その数量の三分の二に ついては、小原産業器具が存することによって覆されるというべきであるところ、原告の 主張する被告三甲が被告ホーマックに被告器具を製造販売したことによる利益額は153 0万816円であるから、その全額が認められたとしても、その三分の二について推定が 覆され、結局、右額の三分の一に相当する510万272円の範囲で損害が認められるこ とになる。  しかるに、右2において、被告ホーマックに対する逸失利益に基づく請求について、右 額と右(1)で認定した損害額の合計額である713万7028円を上回る損害額を認定 したから、被告ホーマックに対する侵害者利益に基づく請求については、その余の点につ き判断する必要がない。」 ・弁護士費用  「原告が、本件訴訟の提起、維持のために弁護士である原告訴訟代理人らを選任したこ とは当裁判所に顕著であるところ、本件事案の性質、内容、審理の経過、訴訟の結果及び その他諸般の事情を考慮すると、被告三甲については三〇〇万円(うち一〇〇万円は被告 ホーマックと連帯)、被告ホーマックについては一〇〇万円をもって、本件侵害行為と相 当因果関係のある損害(弁護士費用)として、賠償する義務があるものと認める。」 ・結論  「5 以上の次第で、被告三甲は、右1、2及び4の合計額である二七五五万〇九二六 円(内一〇三六万五九九六円は被告ホーマックと連帯)及びこれに対する平成八年四月二 七日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金(内一〇三六万五九九六円に対する 部分は被告ホーマックと連帯)を支払う義務があり、被告ホーマックは、被告三甲と連帯 して、右2及び4の合計額である一〇三六万五九九六円及びこれに対する右同日から支払 済みまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。」