・東京地判平成11年7月19日  スイートポテト営業秘密事件。  原告(共和資材株式会社)は、株式会社イトーヨーカ堂と共同して、中国から食品、食 品材料等を輸入し、西野商事株式会社等を経由して、イトーヨーカ堂に販売してきた。被 告浅野は、昭和五一年一一月ころ、原告に入社し、平成五年四月二日、原告を退職したが、 昭和五六年二月ころから平成五年三月八日まで原告の取締役であり、また、退職まで原告 の食品部長であった。被告明商は、食品原材料の輸入、販売等を業とする会社である。  被告浅野は、原告を退職した後、平成五年七月一日に、被告明商に入社し、現在、同社 において中国から食品材料の輸入、販売等の業務に従事している。被告明商は、被告浅野 が入社した後、本件物品(冷凍油炸スイートポテト)の輸入販売を開始し、上海市食品進 出口公司の馬陸外貿冷凍廠製の本件物品を中国の上海進出口公司から輸入し、西野商事を 通してイトーヨーカ堂に納入した。  本件は、被告らによる本件物品の輸入及び販売が、営業秘密を不正に使用した行為およ び不法行為に当たるなどとして、原告が被告らに対し、営業秘密の開示の差止め、本件物 品の販売の差止め、損害賠償、謝罪広告等を求めたが、原告の請求が棄却された事例。  判決は下記のように述べて、当該情報が営業秘密であることを認めなかった。 ・営業秘密の不正使用について  「原告は、その保護の対象とする秘密情報の内容について、『油炸スイートポテトについ て、真実の原価、利益率は秘密にしながら、取引相手にはより低い利益率を示し、企業内 で極秘に利益を獲得する営業システム』であると主張する。  不正競争防止法2条1項所定の保護の対象となる『営業秘密』とは、営業上秘密とされ た情報のすべてを指すのではなく、営業上の秘密として管理された情報の中で、事業活動 に有用な技術上又は営業上の情報のみを指すことは規定上明らかである(同法同条4項) が、右の有用性の有無については、社会通念に照らして判断すべきである。  そこで、この観点から検討すると、原告が保護の対象とする内容は、必ずしも明らかで はないが、その主張によれば、極秘に二重に帳簿を作成しておいて、営業に活用するとい う抽象的な営業システムそれ自体のようであり、そうだとすると、このような内容は、社 会通念上営業秘密としての保護に値する有用な情報と認めることはできない。また、真実 の利益率より低い利益率を取引相手に示して取引を行うこと自体は、正当な取引手段であ るか否かはさておき、特段、原告独自の経営方法と認めることもできない。以上のとおり、 原告主張に係る事項は、営業秘密として保護されるような有用性を有するとはいえないし、 非公知であるともいうことができない。  したがって、本件情報が営業秘密に当たることを前提とする原告の主張は失当である。」 ・不法行為に基づく予備的請求について  「原告は、被告浅野が、原告から示されたノウハウを被告明商に開示し、被告明商が、 右ノウハウを利用して、被告浅野の入社後に、原告と同じ生産委託先、輸入先、販売先で、 冷凍油炸スイートポテトの輸入販売を開始したことが不法行為に当たると主張する。  しかし、原告の右主張は以下のとおり失当である。すなわち、原告の従業員が退職した 後に同業他社に転職し、同じ取引先から商品を輸入して、販売活動を行うことが、直ちに、 原告との関係で違法な行為と評価されることはできない。のみならず、本件全証拠によっ ても、不法行為法上保護されるような情報を原告が被告浅野に示したこと、被告浅野がそ のような情報を使用したり、被告明商に開示したことなどの事情を認めることはできない。 なお、原告が指摘する計算書、仕様書には、不法行為法上保護されるような内容が記載さ れているものとは認められない。したがって、不法行為についての原告の主張も理由がな い。」