・東京地判平成11年7月23日  日本ビジュアル著作権協会事件。  原告(日本ビジュアル著作権協会)は、「原告は、別紙著作権者目録記載の各著作権者が それぞれ著作権を有する、文部省検定済み平成八年度版小学生用教科書に掲載されている 各作品を含む著作物について、右の各著作権者との間で独占的利用権を取得する旨の契約 を締結したところ、被告らは、右各作品を題材とした補助学習教材を出版して、右の各著 作権者の著作権を侵害している。」と主張して、被告(青葉出、教育同人社、日本標準、光 文書院、新学社、文溪堂)に対して、原告の独占的利用権に基づき、または右の各著作権 者に代位して、右補助学習教材の出版発行、販売および頒布の差止めを求めた事案である。  なお、本件は、 「1 原告は、本件の第一回口頭弁論期日において、請求を放棄すると述べ(以下これを 「本件請求放棄」という。)、その旨の調書が作成された。 2 その後、被告青葉出版株式会社、同株式会社教育同人社、同株式会社光文書院、同株 式会社新学社及び同株式会社日本標準は、原告には当事者能力がないから、本件請求放棄 は無効であるとして、期日指定の申立てを行った。 3 その後指定された本件の第二回口頭弁論期日において、原告は、原告が権利能力なき 社団であると述べて、本件請求放棄が適法であると主張し、被告らは、原告が権利能力な き社団とはいえないと主張して、主文同旨の判決を求めた。」  判決は、「一 本件訴えを却下する。二 訴訟費用は曽我陽三の負担とする。」との主文 をもって、本件訴えを却下した。 ・原告の当事者能力について 「1 権利能力なき社団の成立要件  民事訴訟法29条は、『法人でない社団又は財団で代表者又は管理者の定めがあるもの は、その名において訴え、又は訴えられることができる。』とする。  右にいう法人でない社団とはいわゆる権利能力なき社団のことであるが、権利能力なき 社団といいうるためには、構成員が存在し、その構成員による団体としての組織を備え、 構成員による多数決の原則が行われ、構成員の変更にもかかわらず団体そのものが存続し、 その組織において代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確 定していることを要するものと解するのが相当である。」  「3 右2で認定した事実によると、本件規約において定められている理事は、原告の 執行機関である理事会を構成する者であり、評議員は、理事会の諮問機関である評議員会 を構成する者であると認められ、いずれも、原告の構成員とは認められない。また、本件 規約において定められている「会員」は、原告と著作物の権利保護、管理並びに仲介に関 する包括契約を締結した者、原告に協力しようとする者又は原告に功労のあった者であっ て、これらの者が原告の意思決定に関与する総会等の機関が存するとも認められないから、 これらの者も原告の構成員とは認められない。  なお、原告は、評議員は、会員から選ばれるから、会員は、評議員会を通して原告の意 思決定に関与することができる旨主張するが、本件規約には、評議員を会員から選ぶ旨の 規定はない上、評議員会は、右認定のとおり理事会の諮問機関であって、原告の意思決定 機関ではないから、原告の右主張は採用できない。  その他、原告の構成員となるべき者が存在するというべき事実は認められないから、原 告は、構成員を有しないというほかない。  したがって、原告が権利能力なき社団であるとは認められない。」 ・結論  「四 以上のとおり、原告につき、民事訴訟法29条による当事者能力は認められない。  当事者能力のない者による請求の放棄は効力を生じないから、本件は本件請求放棄によ って終了したものとはいえず、本件訴えは不適法なものであり、却下を免れない。  原告の当事者能力が認められないために、訴えを却下するべき場合の訴訟費用について は、同法70条、69条2項を準用して、原告の代表者として訴えを提起した曽我陽三に 負担させるべきである。」