・大阪地判平成11年7月29日  自動車補修用スプレー事件。  原告(ソフト九九コーポレーション)は、ボディワックス類、クリーナー類、自動車補 修用ペイント類、各種自動車専用ケミカル・用品を製造・販売する会社、被告(武蔵ホル ト株式会社)は、自動車補修用ペイント類、補修ケミカル類の製造販売を業とする会社で ある。  被告は、自動車補修用スプレー塗料「ホルツアンチラストペイント一八〇ml入り」の容 器本体や、筆付自動車補修用塗料「カラータッチ」の容器本体、商品カタログ、販促紙の 「ホルツニュース」、雑誌「A・M NETWORK」などに、「ウレタン入り補修塗料」「高級ウレ タン塗料(使用)」「ウレタン入りだから樹脂バンパーに最適」などといった本件表示をし た。  本件は、@本件表示は、被告製品の品質・内容について誤認させる表示であるから、そ れを表示する行為は不正競争防止法2条1項10号の不正競争行為に該当する、A本件パ ネルの広告は、原告の営業上の信用を害する虚偽の表示であるから、その展示は同法2条 1項11号の不正競争行為に該当するとして、原告が、被告に対し、同法3条1項に基づ き右行為の差止め、同条2項に基づき被告製品等の廃棄、同法4条に基づき被告の行為に よって被った損害の賠償及び同法7条に基づき謝罪広告を求めた事案である。  判決は、被告による本件表示が品質誤認表示に該当するとして、差止めおよび損害賠償 請求を認容したが、原告による不正競争防止法5条1項に基づく損害額の主張については、 「自動車補修用塗料の売れ行きは、宣伝や品質のほかに、価格、新色への対応の早さ、色 数の多さ等の種々の要因が組み合わさった結果であることが認められ、そうであるとすれ ば、本件表示によって得た被告の利益の額は、被告製品全体によって得られた利益の一部 にとどまるというべき」として、この点につき立証がないとしてこの主張を退け、損害賠 償は弁護士費用100万円のみを認容した。 ◆争点1(本件表示における各表示は品質誤認表示に該当するか)  「しかるところ、前記2で認定した事実によれば、被告製品中のウレタン含有量は少な くとも〇・一二五パーセント未満であり、前記規格に基づいて算定される最低基準(一・ 六四ないし三・三八パーセント)のわずか一〇分の一未満にすぎないのであるから、仮に 被告製品が原告製品よりも品質が優れているとしても、それが被告製品がウレタンを微量 含有していることによる効果であるとは認め難い。したがって、そのような被告製品につ いてウレタンが含有されている旨を表示し、ウレタンが含有されているから品質が優れて いる旨を表示することは、その内容及び品質を誤認させるものというべきである。」  「(三)以上によれば、被告が本件表示をする行為は、不正競争防止法2条1項10号の 不正競争に当たり、原告はこれによって営業上の利益を害されるおそれがあるものという べきである。」 ◆争点2(営業誹謗行為性)  「二 争点2(営業誹謗行為性)について  1 別紙目録(二)のとおり、本件パネルでは、「ホルツカーペイントはウレタン入りだ からホディーはもちろんバンパーにも最適」と大書され、「ホルツカーペイント(ウレタン 入)」と「他社ペイント(アクリル塗料)」をプラスチックバンパーに塗布したものについ て、「ホルツカーペイント」は、「光沢が良く剥れにくい」として、使用前に黒色であった バンパーが使用後には一様に白色となり、特に塗料が剥がれた部分がないバンパーの模型 が示されているのに対し、「他社ペイント」は、「柔軟性がなく剥れてしまう」として、使 用前に黒色であったバンパーが使用後には白色に塗られているものの、ところどころで塗 料が剥がれて黒色部分が露出しているというバンパーの模型が示されている。  これによれば、本件パネルは、一般消費者に対し、「他社ペイント」は「ホルツカーペイ ント」に比べて塗料としての柔軟性がなく、バンパーに塗布した場合にすぐに剥がれてし まうとの認識を生じさせるものと認められる。  2 ところで、甲39の5によれば、平成七年ないし九年ころの自動車補修用塗料の業 界においては、原告が約五七ないし五八パーセント、被告が約一五ないし二一パーセント、 及びニッペホームプロダクツが二三ないし二一パーセントというシェアを有しており、争 点1で述べたとおり、このうち被告のみがウレタン塗料との表示をしていることが認めら れる。また、甲25ないし31によれば、自動車用品店においては、被告製品と並んで原 告の自動車補修用塗料も陳列販売されていることが認められる。  右に証人渡辺泰及び同大矢直良の証言を併せれば、本件パネルに接した一般消費者は、 「他社ペイント」とは少なくとも原告製品を指すものだと認識するものというべきであり、 したがって、本件パネルは、原告の営業上の信用を害する表示であるというべきである。」  「3 そこで次に、本件パネルの「他社ペイント」に関する表示が虚偽であるといえる かについて検討する。  …以上よりすれば、本件パネルの表示が、原告製品の品質に関して虚偽の内容を表示す るものであるとは認められない。  したがって、本件請求のうち、本件パネルの表示が原告の営業上の信用を害する虚偽の 表示であることを理由とする部分については、その余について検討するまでもなく理由が ない。」 ◆損害額 ・不正競争防止法5条1項  「2 そこで、損害賠償請求について検討する。  (一)前記認定によれば、被告は本件表示に係る不正競争を行うについて少なくとも過 失があったものというべきところ、まず原告は、不正競争防止法5条1項に基づく損害額 の主張をしている。  確かに、甲39によれば、被告製品は平成三年以降急速にシェアを伸ばしていることが 認められ、本件表示の内容及び甲48からすれば、ウレタン塗料であることを強調するこ とが被告製品の売上の増加に寄与している面があることは否定し得ないところである。し かし、まず、被告が被告製品の販売によって得た利益の額自体について、これを認めるに 足りる証拠はない。また、証人渡辺泰及び同大矢直良の証言によれば、自動車補修用塗料 の売れ行きは、宣伝や品質のほかに、価格、新色への対応の早さ、色数の多さ等の種々の 要因が組み合わさった結果であることが認められ、そうであるとすれば、本件表示によっ て得た被告の利益の額は、被告製品全体によって得られた利益の一部にとどまるというべ きところ、原告は右の点について何ら主張・立証しておらず、その割合を合理的に認定し 得る証拠はない。  したがって、被告が不正競争行為によって得た利益の額は不明というべきであるから、 不正競争防止法五条一項に基づく損害額の請求は理由がない。  (二)次に原告は、被告の不正競争行為によって信用が毀損されたことに基づく損害額 を主張するが、1で述べたとおり、そのことを認めるに足りる証拠はない。」 ・弁護士費用  「(三)さらに、記録上、原告は、本件訴訟の提起・追行を弁護士に依頼して行ったこと が認められるところ、本件に現れた一切の事情を考慮すれば、被告の不正競争行為(品質 誤認行為)と相当因果関係を有する弁護士費用としては、一〇〇万円とするのが相当であ る。」