・大阪地判平成11年8月24日判決速報294号9030  「ピットオート」カラオケ事件。  原告(JASRAC)が、大阪府堺市深阪南に所在するカラオケボックス「ピットオー ト」(本件店舗)を経営し、原告が著作権を管理する管理著作物を使用している被告に対し て、管理著作物使用許諾契約に基づいて著作物使用料の請求をしている事案(乙事件)、ま た、右契約が更新されなかったことにより、被告は管理著作物を原告に無断で使用してそ の演奏権および上映権を侵害しているとして、カラオケ歌唱室に設置されているカラオケ 装置の使用差止めおよび損害賠償の請求をした事案。  判決は、「被告は、本件店舗において、カラオケ機器を使って、管理著作物を公に再生及 び歌唱することによって、演奏権及び上映権を侵害するものと認められる」と述べて、原 告の請求を認容した。  被告は、平成九年八月一〇日までは、原告の著作物使用料規程中にカラオケを明示した 規程がなかったことから、本件使用料率に基づいて管理著作物使用料を徴収することはで きないと主張したが、判決は、「本件使用料率それ自体について文化庁長官の認可を得たも のであるということはできないが、なお、旧規定に依るものということができる」と述べ てこの主張を排斥した。 ◆権利侵害 ・争点二1(本件店舗における管理著作物の再生・歌唱主体は誰か)  「(二)右の本件店舗の営業形態及び設置されている装置からすれば、本件店舗では、客 は、指定された歌唱室内で、経営者が用意した特別のカラオケ用機器を使って、同じく経 営者が用意した楽曲ソフトの範囲内で選曲を行い、伴奏音楽を再生させるとともに歌唱を 行うものであり、しかも右再生・歌唱は時間単位の部屋の利用料金を支払う範囲で行うこ とができるにすぎないものと推認することができる。  このことからすれば、客による右再生・歌唱は、本件店舗の経営者である被告の管理の 下で行われているというべきであり、しかもカラオケ歌唱室としての営業の性質上、被告 はそれによって直接的に営業上の利益を収めていることは明らかであるから、著作権法の 規律の観点からは本件店舗における伴奏音楽の再生及び歌唱の主体は被告であると解すべ きである。」 ・争点二2(対公衆性)  「右のとおり、本件店舗における伴奏音楽の再生及び歌唱の主体は被告であると解すべ きところ、被告にとって、本件店舗に来店する客が不特定多数であることは明らかである から、被告による伴奏音楽の再生及び歌唱は、著作権法二二条の「公衆に直接見せ又は聞 かせることを目的」とするものであるといえる。」 ・争点二3(自由使用):附則14条について  「3 争点二3(自由使用)について  著作権法附則14条は、「適法に録音された音楽の著作物の演奏の再生については、公衆 送信に該当するもの及び営利を目的として音楽の著作物を使用する事業で政令で定めるも のにおいて行われるものを除き」、当分の間、自由とする旨を規定しており(ただし、平成 九年法律第八六号による改正前は、「公衆送信」は「放送又は有線送信」とされていた。)、 これを受けて、著作権法施行令附則3条は、右条項の適用が除外される事業として、「喫茶 店その他客に飲食をさせる営業で、客に音楽を鑑賞させることを営業の内容とする旨を広 告し、又は客に音楽を鑑賞させるための特別の設備を設けているもの」(1号)等を掲げて いる。  先に1(一)で認定した各事実からすれば、本件店舗の事業が、「営利を目的として音楽 の著作物を使用する事業」に該当すること、本件店舗の営業が「客に飲食をさせる営業」 であることが認められる。また、客は、本件店舗内において、再生された伴奏音楽を聞き、 それに合わせて歌唱することを楽しむのであって、それは「音楽を鑑賞」することにほか ならない。そして、前記1(一)の各事実より認められる本件店舗の営業態様からすれば、 本件店舗には各カラオケ歌唱室に、客が自由に選曲して伴奏音楽を再生させることができ るカラオケ装置のほか、マイク、スピーカー等の音響設備が設置され、防音設備が施され ているものと推認されるから、本件店舗においては「客に音楽を鑑賞させるための特別の 設備を設けている」ものということができる。」 ◆争点四(原告の定めた使用料率表に基づく使用料徴収の可否)について  「四 争点四(原告の定めた使用料率表に基づく使用料徴収の可否)について  1 証人梅津裕の証言によれば、原告におけるカラオケ歌唱室での管理著作物使用料の 設定・徴収について、次の事実が認められる。  (一)本件店舗のような形態のカラオケ歌唱室については、原告では、平成元年四月か ら、管理著作物の使用許諾及び使用料徴収業務を開始した。  (二)原告は、著作権仲介業務法に基づく許可を受けた音楽著作権仲介団体であり、同 法三条一項により、著作物使用料規程を定めて文化庁長官の認可を受けること(変更する ときも同じ。)とされているところ、原告は、昭和一五年以来、「著作物使用料規程」を作 成・変更して内務大臣又は文化庁長官の認可を受け、それに基づいて管理著作物の使用許 諾及び使用料徴収業務を行ってきた。  しかし、平成元年当時の原告の著作物使用料規程(以下「旧規程」という。内容的には 甲事件甲第三号証と同じである。)では、カラオケ歌唱室における管理著作物の使用に関す る規定が存しなかったため、原告では、カラオケ歌唱室を全国的に経営する大手事業者と の協議を経て、平成元年四月、カラオケ歌唱室の使用料率(甲事件甲第四号証、乙事件甲 第一号証。以下「本件使用料率」という。内容は別紙3のとおりである。)を策定し、これ に基づいて全国的にカラオケ歌唱室における管理著作物の利用についての許諾及び使用料 の徴収業務を実施してきた。  (三)旧規程における演奏等に関する使用料は、第二章「著作物の使用料率に関する事 項」第二節「演奏等」に規定されており、そこでは、「1 上演形式による演奏」、「2 演 奏会における演奏」、「3 演奏会以外の催物における演奏」、「4 社交場における演奏 等」、「5 ビデオグラムの上映」に区分した上、さらに細かな演奏等の形態に区分して使 用料が定められていた。  (四)原告は、平成九年八月一一日、右規程の第二章第二節中に、「4 カラオケ施設に おける演奏等」として、カラオケ歌唱室を含むカラオケ施設に関する著作物使用料規定を 盛り込んだ変更を行い(それに伴い旧4以下は繰り下げ)、文化庁長官の認可を得た(甲事 件甲第五号証。以下「新規程」という。)。それによれば、カラオケ歌唱室において年間の 包括使用許諾契約を結ぶ場合の月額使用料は、本件使用料率と同じ内容とされた。  2 右によれば、本件使用料率(別紙3)は、本件における甲事件の請求のうち平成九 年八月一〇日までの期間にかかる部分及び乙事件の請求の全期間において、原告の著作物 使用料規程中に規定されていなかったものと認められる。そして、被告は、このことから、 本件使用料率に基づいて管理著作物使用料を徴収することはできないと主張するので、こ の点について検討する。  (一)前記のとおり、原告は、著作権仲介業務法に基づいて著作権仲介業務の認可を受 けた者であるが、同法は、著作権に関する仲介業務を行おうとする者は業務の範囲及び業 務執行の方法を定めて文化庁長官の許可を受けなければならないこと(2条)、仲介業務の 許可を受けた仲介人は著作物使用料規程を定めて文化庁長官の許可を受けなければならな いこと(3条1項)、著作物使用料規程の許可の申請があった場合には文化庁長官は、その 要領を公告すべきこと(同2項)、出版を業とする者の組織する団体、興行を業とする者の 組織する団体等は右要領について文化庁長官に意見を具申することができること(同3項)、 文化庁長官は、著作物使用料規程を認可しようとするときは、著作権制度審議会に諮問し なければならず、その際には右具申された意見を提出しなければならないこと(同4項)、 仲介人が認可を受けた著作物使用料規程に依らずに業務を行った場合には、五〇〇円(罰 金等臨時措置法2条1項により二万円)以下の罰金が科せられること(12条2号)をそ れぞれ規定している。そして、同法が著作物仲介業務及び著作物使用料規程について、右 のような規定を置いた趣旨は、著作物仲介人が著作権を集中管理することに伴う濫用的な 業務執行及び著作物使用料の徴収を防止し、著作物使用料規程の内容が合理的かつ公正で あることを保障することによって、著作物の利用を簡易かつ円滑化し、もって著作権の保 護とその権利行使の適正を図り、併せて著作物の利用関係の円滑化を図ることにあると解 される。このような同法の趣旨及び規定からすれば、著作物仲介人が、著作物の使用者に 対し、認可を得た著作物使用規程に依らずに著作物使用料を徴収することは許されないと 解するのが相当である。  (二)そこで次に、本件使用料率が旧規程に依っているか否かについて検討する。  カラオケ歌唱室における管理著作物の利用を直接の対象とする具体的な使用料基準が旧 規程中に存しなかったことは前記のとおりであるが、著作権仲介業務法施行規則四条が、 著作物使用料規程に記載する著作物使用料率は著作物の種類及びその利用方法の異なるご とに各別に定めて表を作成すべきものとしていることからすれば、本来、カラオケ歌唱室 について使用料を徴収するには、その利用方法の性質に応じた著作物使用料率を著作物使 用料規程中に設けた上で行うのが本則である。しかし、著作物の使用形態は千差万別であ り、技術や時代の変化に応じて新たな使用形態も出現するものであるから、そのすべての 使用類型を著作物使用料規程に盛込んで基準化することが不可能であることもまた見やす い道理であり、そのような場合に、管理著作物の利用行為が現に行われているにもかかわ らず、それを直接の対象とする使用料率の定めが著作物使用料規程中に存しないから使用 料の徴収ができないというのでは、余りに著作権者の保護に欠けることとなる。原告の旧 規程(新規程でも同様)では、「第二章第一二節 その他」として、「本規程の第二節乃至 第一一節の規定を適用することができない利用方法により著作物を使用する場合は、著作 物利用の目的および態様、その他の事情に応じて使用者と協議のうえ、その使用料の額ま たは率を定めることができる。」とされているが、右規定は、このような事態を念頭に置い たものと考えられる。もとより、前記のような著作権仲介業務法の趣旨に鑑みれば、この ような規定が存するからといって、著作物使用料規程中に直接規定されていない類型の著 作物使用行為の使用料率について、原告の一存でどのような内容でも自由に定め得るもの でないことはいうまでもなく、その内容が既存の著作物使用料規程に照らして合理性・相 当性があり、また利用者との意見調整を経る等の前記著作権仲介業務法が規定する趣旨に 沿った手続を経ること(この点は前記規定においても「使用者と協議のうえ」とされてい るところである。)を要すると解すべきであるが、それらが満たされる以上、原告が定めた 使用料率は、全体として著作物使用料規程に対する認可の趣旨の範囲内にあり、なお認可 を受けた著作物使用料規程に依るものと評価するに妨げないものというべきである。  これを本件について見るに、@原告が本件使用料率を定めたのは、平成元年当時にカラ オケ歌唱室を全国的に経営する大手事業者との協議を経た上でのものであること、A原告 は、平成元年四月以降新規程の認可に至るまで、本件使用料率によって全国的にカラオケ 歌唱室経営者との間で著作物使用許諾契約を締結してきていたこと、B本件使用料率は、 一般的なカラオケ歌唱室における管理著作物の貢献度、規模、客単価及び利用時間等を勘 案すれば、既存の「演奏会以外の催物における演奏」の使用料率(旧規程第二章第二節3) と比較して相当なものといえ、著作物の利用形態が比較的類似すると思われるライブハウ スや音楽喫茶における使用料(旧規程第二章第二節4の別表5)や社交場におけるカラオ ケ伴奏による歌唱の使用料(旧規程第二章第二節4の備考O)と比較しても同様のことが いえること、C本件使用料率は、事後的にではあるが文化庁長官の認可を得たことからす れば、本件使用料率は、新規程への変更前においても、前記の内容上及び手続上の要件を 満たすものとして、旧規定に依るものであると解するのが相当である(なお、旧規程中、 社交場における演奏等について、カラオケ伴奏による歌唱が行われる場合には、一演奏場 所の客席面積が一六・五u(五坪)以下のものについては使用料の支払を免除する旨定め られているが、これは零細な事業者を保護するためのものであると解され、本件店舗を含 むカラオケ歌唱室の営業形態を考えれば、その趣旨をカラオケ歌唱室に及ぼすことは相当 でない。)。  もっとも、原告は、本件使用料率は旧規程中の「演奏会以外の催物における演奏」(第二 章第二節3)の「(7)その他の演奏」の条項に基づいて定めたとするが、カラオケ歌唱室 では常設された室内で楽曲の再生・歌唱が反復して行われるのであって、催物とは性質を 異にするから、右規定を直接の根拠とすることは必ずしも合理的とはいえない。また、原 告は、平成元年四月から本件使用料率を定めて、全国的にカラオケ歌唱室における著作物 使用料の徴収管理を始めたというのであるから、その旨の著作物使用規程の変更が平成九 年八月までなされなかったというのは遅きにすぎるものともいえる。しかし、右のような 点があるとしても、先に述べた諸点を考慮すれば、それをもって右基準が旧規程に依らな いものであるとはいえない。  3 以上説示したところから明らかなように、平成九年八月一〇日までの期間において は、本件使用料率それ自体について文化庁長官の認可を得たものであるということはでき ないが、なお、旧規定に依るものということができるから、これに基づく著作物使用料の 徴収、あるいは、これを算定の根拠とする損害賠償の請求が許されないことを前提とする 被告の主張は、いずれも理由がない。」