・東京地判平成11年8月27日  羽子板ボルト意匠事件。  原告(株式会社タナカ)は、羽子板ボルト(主として木造構造を用いる建築物の構築に おいて、柱と、梁や土台等の横架材とを連結するために用いられるもの)に関する本件意 匠権を有しているところ、被告(株式会社カナイ)は、羽子板ボルトである被告製品を製 造販売した。 判決は、「以上述べたところを総合すると、被告意匠は本件意匠に類似し、 被告製品の製造販売は本件意匠権を侵害するものであるということができる。」と認めた うえで、損害額について意匠法39条1項を適用して下記のように判示した。 「四 争点4について  1 証拠(甲四、二五ないし二七、甲三二の二)及び弁論の全趣旨によると、タナカス チール工業は、平成四年一二月以来本件意匠の実施品(原告製品)を製造販売していたこ と、タナカスチール工業の原告製品の生産能力は、年間四五〇万個を超えるものであった こと、平成八年一〇月から平成九年九月までの間に、タナカスチール工業及び同社を合併 した原告は三四五万八五〇二個の原告製品を生産したこと、以上の事実が認められ、これ らの事実によると、タナカスチール工業は、平成八年六月一一日から平成九年六月一五日 までの間において、被告製品の製造販売量である九六万個について実施の能力を有してい たものと認められる。 2 被告は、住友林業に対する被告製品の納入分については、納入業者間で担当エリアが 設定されており、これは絶対的なものであるから、原告は右エリア分けに反して住友林業 に販売することができなかったという事情があり、また、被告が被告製品を販売した他の 会社においても同様の事情が存したから、タナカスチール工業は、原告製品を被告製品と 同じ数だけ販売することができなかった事情が存する旨主張するので、この点について判 断する。  (一)証拠(甲二四、乙二、乙六の五ないし七、乙七の一、二)及び弁論の全趣旨によ ると、次の事実が認められる。  (1)平成五年一一月二六日、タナカスチール工業、被告、松田金属鉱業株式会社及び 株式会社カネシンの四社が住友林業住宅本部資材部の主催する金物メーカー会議に参加し た。この会議において、右四社が平成六年度に住友林業に納入する金物についての計画シ ェアが納入場所ごとの数量とともに定められた。  (2)右会議において、平成五年度まで納入実績のなかったタナカスチール工業が、平 成六年度の羽子板ボルトの住友林業への納入分として、五三パーセントの計画シェアを取 得したが、タナカスチール工業が五三パーセントの計画シェアを取得することができたの は、原告製品の納入単価が三八円と低廉であり、機能的にも優れたものであったためであ る。  (3)被告は、別紙図面(二)の羽子板ボルトを納入していたが、タナカスチール工業 に対抗するため、前年度単価四八円で納入していた羽子板ボルトを、原告同様三八円の単 価で納入せざるを得なくなった。  (4)平成七年度以降も、住友林業に納入する羽子板ボルトについては、納入業者毎の 計画シェアが定められ、それに従って納入されてきた。  (二)右(一)認定の事実に、前記二で認定した被告が平成六年八月に被告製品の製造 販売を開始した事実を総合すると、住友林業に納入する羽子板ボルトについては、納入業 者毎の計画シェアが定められ、それに従って納入されてきたが、計画シェアは、固定的な ものではなく、製品の価格や性能によって変動するものであったこと、原告製品は、価格 が低廉で、機能的にも優れたものであったこと、以上の事実が認められるから、被告が平 成八年六月一一日以降に被告製品の製造販売をしなかったとしても、タナカスチール工業 はそれに相当する原告製品を住友林業に販売することができなかったとまで認めることは できない。  (三)被告が被告製品を販売した他の会社について、被告が平成八年六月一一日以降に 被告製品の製造販売をしなかったとしても、タナカスチール工業がそれに相当する原告製 品を販売することができなかったというべき事情を認めるに足りる証拠はない。  (四)したがって、被告の右主張は採用できない。  3(一)証拠(甲二七、二九、三〇、甲三二の一、二、甲三三の一ないし五、甲三四、 甲三五の一、二)及び弁論の全趣旨によると、タナカスチール工業の平成八年度下期(平 成八年一〇月一日から平成九年三月三一日)の総売上高は二四億六〇三二万七五七四円で あること、タナカスチール工業及び原告は、平成八年一〇月から平成九年九月までの間に、 原告製品を、三四五万八五〇二個販売し、売上高は一億七二八六万五二六一円であったこ と、タナカスチール工業及び原告における原告製品の製造原価は一個当たり二九・一五円 であること、タナカスチール工業の平成八年度下期の販売費及び一般管理費(運送費を含 む)の額は三億四三九五万六七二七円であること、以上の事実が認められる。  (二)右(一)で認定した事実によると、タナカスチール工業及び原告における原告製 品の平均販売単価は、次のとおり四九・九八円であると認められる。  一億七二八六万五二六一円÷三四五万八五〇二個=四九・九八円  また、右(一)で認定した事実によると、タナカスチール工業の平成八年度下期の総売 上高並びに販売費及び一般管理費を二倍した上、原告製品の一年分の売上高に対応させて 案分比例した額は、次のとおり二四二三万五三八八円であると認められる。  二四億六〇三二万七五七四円×二=四九億二〇六五万五一四八円  三億四三九五万六七二七円×二=六億八七九一万三四五四円  一億七二八六万五二六一円÷四九億二〇六五万五一四八円      ×六億八七九一万三四五四円=二四一六万六七六九円  そして、右販売費及び一般管理費を原告製品の一年分の本数で除して、原告製品一個当 たりに割り振った額は、次のとおり約七・〇〇円となる。  二四一六万六七六九円÷三四五万八五〇二個≒七・〇〇円  もっとも、一年間に三四五万八五〇二個の原告製品を製造販売しているタナカスチール 工業及び原告において、九六万個を増産して販売したからといって、同一比率で販売費及 び一般管理費が増加するとは考えられないので、右販売費及び一般管理費をそのまま控除 することは相当ではないが、右費用には運送費のような個数に比例して増加する費用も含 まれており、以上の諸事情を考慮すると、タナカスチール工業における原告製品一個当た りの販売費及び一般管理費の額は五・〇〇円として計算するのが相当である。  (三)以上によると、タナカスチール工業における原告製品一個当たりの純利益の額は 一五・八三円であり、その純利益率は三一・六七パーセントであると認められる。その計 算式は、次のとおりである。  四九・九八円−二九・一五円−五・〇〇円=一五・八三円  一五・八三円÷四九・九八円≒〇・三一六七  4 前記第二の一3のとおり、被告製品の販売総額は四一二五万八四〇〇円であるから、 原告は、意匠法39条1項により、次のとおり一三〇六万六五三五円の損害を被ったもの と認められる。  四一二五万八四〇〇円×〇・三一六七=一三〇六万六五三五円」