・大阪地判平成11年9月2日  大鵬薬品「ユーエフティー」試験研究U事件。  原告(大鵬薬品工業株式会社)が、被告(長生堂製薬株式会社)に対し、被告医薬品は 本件発明の技術的範囲に属するから、@被告医薬品を製造して試験に使用した行為及びA シオノケミカルに対して被告医薬品を製造の上譲渡した行為が、それぞれ本件特許権を侵 害するとして、損害賠償を請求した事案。  判決は、請求を棄却した。 ◆総論 「一 ある者が化学物質又はそれを有効成分とする医薬品についての特許権を有する場合 において、第三者が、特許権の存続期間満了後に特許発明に係る医薬品と有効成分を同じ くする医薬品(「後発医薬品」)を製造して販売することを目的として、その製造につき 薬事法14条所定の承認申請をするため、特許権の存続期間中に、特許発明の技術的範囲 に属する化学物質又は医薬品を生産し、これを使用して右申請書に添付すべき資料を得る のに必要な試験を行うことは、次の理由により、特許法69条1項にいう「試験又は研究 のためにする特許発明の実施」に当たり、特許権の侵害とはならないものと解するのが相 当である(最高裁判所平成一一年四月一六日判決・裁判所時報一二四一号一三四頁、判例 時報一六七五号三七頁参照)。  1 特許制度は、発明を公開した者に対し、一定の期間その利用についての独占的な権 利を付与することによって発明を奨励するとともに、第三者に対しても、この公開された 発明を利用する機会を与え、もって産業の発達に寄与しようとするものである。このこと からすれば、特許権の存続期間が終了した後は、何人でも自由にその発明を利用すること ができ、それによって社会一般が広く益されるようにすることが、特許制度の根幹の一つ であるということができる。  2 薬事法は、医薬品の製造について、その安全性等を確保するため、あらかじめ厚生 大臣の承認を得るべきものとしているが、その承認を申請するには、各種の試験を行った 上、試験成績に関する資料等を申請書に添付しなければならないとされている。後発医薬 品についても、その製造の承認を申請するためには、あらかじめ一定の期間をかけて所定 の試験を行うことを要する点では同様であって、その試験のためには、特許権者の特許発 明の技術的範囲に属する化学物質ないし医薬品を生産し、使用する必要がある。もし特許 法上、右試験が特許法69条1項にいう「試験」に当たらないと解し、特許権存続期間中 は右生産等を行えないものとすると、特許権の存続期間が終了した後も、なお相当の期間、 第三者が当該発明を自由に利用し得ない結果となる。この結果は、前示特許制度の根幹に 反するものというべきである。  3 他方、第三者が、特許権存続期間中に、薬事法に基づく製造承認申請のための試験 に必要な範囲を超えて、同期間終了後に譲渡する後発医薬品を生産し、又はその成分とす るため特許発明に係る化学物質を生産・使用することは、特許権を侵害するものとして許 されないと解すべきである。そして、そう解する限り、特許権者にとっては、特許権存続 期間中の特許発明の独占的実施による利益は確保されるのであって、もしこれを、同期間 中は後発医薬品の製造承認申請に必要な試験のための右生産等をも排除し得るものと解す ると、特許権の存続期間を相当期間延長するのと同様の結果となるが、これは特許権者に 付与すべき利益として特許法が想定するところを超えるものといわなければならない。」 ◆あてはめ 1.試験のための製造、使用  「(四)以上のとおり、被告の行った生物学的同等性試験が適正なものであったか否か については争いがあるが、被告の行った被告医薬品の製造及び使用が、本件特許権の存続 期間の終了後の製造販売を目的として、薬事法14条に定める医薬品製造承認申請に必要 な資料を得るための試験を行うためのものであったとの点に変わりがなく、しかも被告が 右試験によるデータをねつ造して製造承認申請を行ったとも認められない以上、試験内容 の適否にかかわりなく、特許法69条1項の「試験又は研究」に該当するものと解するの が相当である。  3 以上より、被告が被告医薬品を製造し、製造承認申請に必要な資料を得るために試 験に使用した行為は、特許法69条1項により、原告の本件特許権を侵害しない。」 2.被告がシオノケミカルに対し、被告医薬品を製造し、譲渡した行為  「2 先に一で述べたところからすれば、右1(三)におけるシオノケミカルの行った 規格試験は、@本件特許権の存続期間中にシオノケミカルが製造承認申請をするために必 要な試験であり、Aシオノケミカルは譲受けに係る被告医薬品を規格試験に供しただけで あるから本件特許権の存続期間中の原告の独占的実施の利益を害することもなく、特許法 69条1項の「試験」に当たるというべきである。  そして、被告が行った被告医薬品の製造及び譲渡は、@シオノケミカルの右試験の実施 のために行われたものであって、A本件特許権の存続期間中の原告の独占的実施の利益を 害することもないといえるから、特許法69条1項の「試験又は研究のための特許発明の 実施」に当たり、原告の特許権を侵害しないというべきである。」