・大阪地判平成11年9月14日  顧問契約営業秘密事件。  原告(株式会社合同経営会計事務所)は、電子計算機による計算事務受託業務等を目的 とする株式会社である。原告の元代表者折本吉影は公認会計士、税理士の資格を有してい た。  被告(株式会社合同総合コンサルタント)の代表者西本敏秋は、昭和三六年四月、原告 (株式会社合同経営会計事務所)福井本社に入社し、原告の設立当初から同社に勤務して いたが、平成八年七月三一日、原告を解雇された。西本は、同年一〇月四日、電子計算機 による計算事務受託業務等を目的とする株式会社である被告を設立した。  原告は、被告に対し、被告は西本から開示された原告情報を使用し本件顧問先と顧問契 約を締結したが、それは、不正競争防止法2条1項8号に該当するとして、主位的に右使 用に基づく本件顧問先との顧問契約業務の差止めを求めるとともに、予備的に被告が本件 顧問先と顧問契約を締結したことにより原告が平成九年中に被った損害の賠償を求めた。  判決は、原告情報(顧問先名簿、顧問料金表、フロッピー)は、いずれも秘密管理性が なく、営業秘密とは認められないとし、また、「西本が原告情報を被告に対し開示し、被 告が原告情報を使用したとは認められない」として、原告の請求を棄却した。 ◆争点1(原告情報は営業秘密か)について  「1 不正競争防止法2条1項8号で定められている営業秘密とは、秘密として管理さ れている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、 公然と知られていないものをいう(同条四項)。すなわち、ある情報が事業者にとって、 いかに有用な情報であり、公然と知られていない情報であったとしても、当該情報が「秘 密として管理されて」いなければ、当該情報は、営業秘密と評価されない。そして、ここ にいう「秘密として管理されている」(以下「秘密管理性」という。)といえるためには、 当該情報の保有者に秘密に管理する意思があり、当該情報について対外的に漏出させない ための客観的に認識できる程度の管理がなされている必要がある。  そこで、原告が営業秘密と主張する顧問先名簿、顧問料金表及びフロッピーにつき秘密 管理性が認められるかを検討する。」  「5 以上より、原告情報は、いずれも営業秘密とは認められない。」 ◆争点3(西本は原告情報を被告に対し開示し、被告は原告情報を使用したか)について  「1 原告は、西本が、在職中の三名(永田二三男、長谷川茂晴、長谷川美恵)に原告 情報を複写させて完全に入手することにより、原告情報を被告に対し開示したと主張する ようであるが、右事実を認めるに足る証拠はない。  2 原告は、被告が、原告情報を使用して、平成八年一一月、原告の全顧問先五七九名 に被告の会社案内等を送付し、原告の顧問先であった別紙顧問契約者一覧表記載の者三四 名と顧問契約を締結し、顧問契約業務を行っていると主張する。  しかし、被告が原告の全顧問先五七九名に被告の会社案内等を送付したとの事実を認め るに足る証拠はない。原告は、右主張を裏付ける証拠として甲5の1ないし3、甲6の1 ないし6及び甲13を提出しているが、それらは、わずか一〇名の者に対し、被告が会社 案内等を送付した証拠にすぎず、右主張を認めるに足る証拠と評価することはできない。 また、証拠(乙一、五、被告代表者)によれば、被告は、設立の際、会社案内を一五〇通 送付したが、それは西本が自宅に送られてきた年賀状等に書かれていた住所を書き留めて おいたノートを利用して作成されたと認められるのであり、顧問先名簿を使用したと認め ることはできない。  また、証拠(被告代表者)によれば、本件顧問先は、原告と顧問契約を締結する以前か ら西本の友人であった者、西本の親族又は友人から紹介された者及びそれらの者から紹介 された者であって、西本の個人的知己を通じて原告と顧問契約を締結したものと認められ、 右認定を覆すに足りる証拠はない。したがって、被告が本件顧問先と顧問契約を締結した のは、西本が個人的に記憶・保有している情報を利用したものと認められ、被告が顧問先 名簿を使用したと認めることはできない。  そして、被告が、顧問先名簿以外の原告情報を使用したと認めるに足る証拠はない。な お、原告の顧問先である株式会社宮武青果の代表者が記載した確認書(甲5の1)には、 被告が、同社に対し、顧問料等の報酬を廉価にするという条件を提示したとの記載がある が、西本は、長年原告に勤務する中で、計算事務受託業務等のコンサルタント業務に対す る報酬に関するノウハウを自らの知識として蓄積していたものと考えられるので、被告が、 原告の顧問先に対し、顧問料等の報酬を廉価にするという条件を提示したとしても、直ち に、被告が顧問料金表を使用したと認められるものではない。 3 よって、西本が原告情報を被告に対し開示し、被告が原告情報を使用したとは認めら れない。」