・東京地判平成11年9月22日  スロットマシン実用新案事件。  本件実用新案権(電動型スロットマシンのリール停止時間間隔制御装置)を有していた 原告(株式会社バルテック)が、被告電動型スロットマシンを製造、販売した被告ら(株 式会社マツヤ商会、有限会社ナック技研)の行為は実用新案権を侵害するとして、損害賠 償を請求した事案。  判決は、株式会社マツヤ商会に対する損害賠償請求を一部認容した(758万7250 円)。被告物件の売上に対する本件考案の寄与度を20パーセントとし、そのうちの5% を本件考案の実施料であるとした。 ・侵害 (1)被告マツヤ商会  「(一)補助参加人は、電動型スロットマシン「スフィンクス7」を製造した。次いで、 被告マツヤ商会は、平成八年一〇月ころ、補助参加人からスフィンクス7の面取り部を除 いた部分(被告物件の完成に必要なもの)を購入し、被告ナック技研に組み立てさせて、 被告物件「ラスターJ」を完成させて、合計二七五九台販売した。被告物件は、本件考案 の構成要件をすべて充足する(いずれも争いない。)。  よって、被告マツヤ商会が被告物件を販売した行為は、原告の有する本件実用新案権を 侵害する。」 (2)被告ナック技研  「(二)被告ナック技研は、被告マツヤ商会の注文により、電動型スロットマシン「ス フィンクス7」の面取り部を除いた部分(被告物件の完成に必要なもの)を基礎として、 「ラスターJ」用の面取り部を付けるなどして改造を加え、被告物件「ラスターJ」を完 成させた。被告ナック技研の右行為は、本件考案の構成要件のすべてを充足している電動 型スロットマシン「スフィンクス7」を基に被告物件としたものであるから、右行為をも って本件実用新案権を侵害したものと解することはできない。したがって、原告の有する 本件実用新案権を侵害しない。」 ・実施権の有無について  「右事実によれば、そもそも、日電特許株式会社が、いかなる根拠に基づき、本件実用 新案権を管理する権限を有しているかは必ずしも明らかではないのみならず、仮に管理権 限が付与されることがあったとしても、補助参加人が、正に本件で争われている電動型ス ロットマシン「スフィンクス7」二七五九台の製造に関し、本件実用新案権について実施 権の設定を受けたと認定することは到底できない。  したがって、補助参加人から被告マツヤ商会へ実施権が譲渡された、あるいは、本件実 用新案権に基づく請求権は消尽したとする同被告の主張は前提を欠き、採用できない。」 ・損害額  「3 損害額について検討する。  乙一〇号証によれば、被告マツヤ商会は、平成九年一月に、被告物件六五〇台を一台当 たり二七万五〇〇〇円で、株式会社福山企画に販売したことが認められ、右事実によれば、 同被告が、被告物件二七五九台について、平均すると右同額で販売したことが推認できる。 この点につき、原告は、被告マツヤ商会が株式会社萬両園に対し、被告物件(ラスターJ) 一一台を三八万円で売却したので、被告物件すべてにつき右同額で販売したと推認すべき である旨主張するが、甲六、七号証によれば、右売買契約は、最終的には解約され、代金 が売主である同被告から買主である株式会社萬両園に返済されていることが認められ、右 事実を考慮すると、右金額をもって被告物件すべての平均販売金額と解することは相当で ない。  次に、本件考案の内容が、電動型スロットマシンに関するリール停止時間間隔制御装置 に係る考案であるが、従来の電動型スロットマシンにおいては、遊技者が、複数の停止ス イッチを同時に押すと、それぞれのスイッチに対応したリールが一緒に止まっていたのに 対し、本件考案は、競技者が同時に停止スイッチを押した場合、いずれか一つのリールだ けが止まり、他は止まらないようにすることを目的としたものであること、右装置は、ス テッピングモータに組み込まれて使用されること、ステッピングモータは、独立の取引の 対象になり得ること、スロットマシーンには、三個のステッピングモータが使用され、そ の価格は、おおむね三九〇〇円位(三個当たり)であったこと、原告は、日電協同組合の 組合員に対して、本件実用新案権について、極く低額の実施料で実施を許諾した例があっ たこと等の事実が認められる。  右認定した事実を総合すると、被告物件の売上に対する本件考案の寄与度を二〇パーセ ントとし、本件考案の実施料を五パーセントと解するのが相当である。  そうすると、被告マツヤ商会は、原告に対し、以下のとおり算定した、七五八万七二五 〇円を賠償する義務がある。  二七万五〇〇〇×二七五九×〇・二×〇・〇五=七五八万七二五〇円」