・名古屋地判平成11年10月8日  カラオケ天国ゴリラ事件。  愛知県岡崎市においてカラオケ歌唱室(カラオケボックス)を経営する被告(有限会社 鴨田およびその代表取締役)に対して、原告(日本音楽著作権協会)が、右カラオケ歌唱 室における音楽著作物の使用が、原告の管理する音楽著作物に関する著作権を侵害するも のであるとして、不法行為、有限会社法30条の3による損害賠償請求権の行使として、 また、不当利得返還請求権の行使として、著作物使用料相当額の金員等を請求した事案で、 判決は、侵害を認めたうえで、不当利得にもとづき「使用料相当額の不当利得が成立して いる」として、「被告会社は、後記認定のとおり、原告から再三にわたる請求や警告を受 けながら、本件管理著作物を使用してきたものであるから、悪意の受益者として民法70 4条により受けた利益に利息を附して返還すべきである」として、本訴提起から過去3年 以前の行為についても損失額として計上して、相当損害金・遅延損害金として778万1 680円および弁護士費用80万円の支払いを命じた。また、被告代表取締役については、 「職務懈怠について、少なくとも重過失があると認められるから、原告に対し、原告が被 告会社の著作権侵害行為によって被った損害について、有限会社法30条の3に基づく損 害賠償義務を負う」と述べた。 ■判決文 第三 当裁判所の判断 一 争点1(著作権侵害の有無。被告会社は、本件管理著作物の利用主体か。)につい て 《中 略》 4 以上によれば、被告会社は、本件店舗においてカラオケ装置を使って、@本件管理著 作物である伴奏音楽を公に再生することにより、原告の本件管理著作物の演奏権(法22 条)を侵害し、A映画の著作物において複製されている本件管理著作物たる歌詞及び伴奏 音楽を公に上映して、原告の上映権(法二六条二項)を侵害し、B再生された伴奏音楽に 合わせて本件管理著作物を客に公に歌唱させることにより、原告の本件管理著作物の演奏 権(法22条)を侵害しているものと認められる。 二 争点2(被告会社の責任)について 1 前記一の4のとおり、被告会社は、本件管理著作物の演奏権及び上映権を侵害したも のであるところ、後記三の2に認定した事実によれば、被告会社代表者において、右著作 権侵害についての故意又は過失があることが明らかであるから、民法七〇九条により、こ れによって生じた損害を賠償する責任がある。  ところで、前記争いのない事実等3のとおり、被告会社は本訴において消滅時効を援用 したところ、本件管理著作物の演奏権及び上映権侵害による損害は、演奏等の都度発生し ているものと認められるから、本訴が提起された平成一一年三月一〇日より三年前に発生 したもの、即ち、平成六年八月一一日から平成八年三月九日までに発生したものについて は、時効により消滅したものと認められる。  もっとも、次項で認定するとおり、本件管理著作物の無断演奏による原告の損害(損失) については、無断演奏の全期間を通じて不当利得返還請求権が認められるところ、原告は、 右損害、損失については、不法行為による請求と不当利得による請求を選択的に請求して いると認められるから、当裁判所は不当利得返還請求によってこれを認める。 2 適法に他人の著作物を使用するには、著作権者の許諾を得ることが必要であり、その ためには相当の使用料を支払わなければならないのが通常である。したがって、他人の著 作物を無許諾で使用する者は、他人の著作物を使用しながら、法律上の原因なく、その使 用料の支払を免れて、同額の利益を得たことになる。他方、著作権者は、受けるべき使用 料の支払を受けることなく、自己の著作物を利用されているわけであるから、これと同額 の損失を被ったものということができる。したがって、著作権の侵害があれば、特別の事 由のない限り、常に使用料相当額につき不当利得が成立するということができる。  本件において、右特別の事由は認められないから、被告会社には、本件店舗における本 件管理著作物の無断使用期間である平成六年八月一一日から平成一〇年九月三〇日までの 使用料相当額の不当利得が成立している。  そして、被告会社は、後記認定のとおり、原告から再三にわたる請求や警告を受けなが ら、本件管理著作物を使用してきたものであるから、悪意の受益者として民法七〇四条に より受けた利益に利息を附して返還すべきである。 三 争点3(被告宮地の責任)について 1 被告宮地が、被告会社の設立以来、その代表取締役として、被告会社の業務執行に携 わってきたものであることは、当事者間に争いがない。 2 そして、証拠(甲六ないし一〇)によれば、原告は、平成六年一一月九日、平成七年 二月九日、同年五月二四日、同年一二月八日及び平成八年四月二日に、その担当者を本件 店舗に出向させ、応対した従業員に著作権手続の必要性を説明し、手続書類を手渡して、 被告会社に右書類を回付するように要請し、被告会社に対し、平成九年五月二九日付けの 文書で、無断使用期間の使用料相当額の支払及び今後の利用許諾契約の締結を督促し(甲 七)、平成一〇年五月二九日付けの文書で、期限内に許諾契約手続を完了しない場合には、 無断使用期間の使用料相当額のほか、損害金を請求することを通知し(甲八)、同年六月 一八日付けの文書で、過去の無断使用にかかる使用料相当額及び遅延損害金の支払と今後 の利用許諾手続を完了するよう督促するとともに、期限内に一切の手続を完了しない場合 は、本件管理著作物の使用の差止め並びに使用料相当額及び損害金の請求についての法的 措置を採らざるを得ないことを警告し(甲九)、被告らに対し、それぞれ、平成一一年一 月一九日付けの内容証明郵便で、無断使用期間の使用料相当損害金及び遅延損害金の支払 を督促したことが認められる(甲一〇)。 3 右事実によれば、被告宮地は、被告会社が著作物の無断使用による著作権侵害行為を 行っていること、及び、被告会社の代表取締役として、無断使用期間の使用料相当損害金 及び遅延損害金を支払った上、利用許諾契約を締結しなければならないことを知りながら、 これを放置していたと認められ、右職務懈怠について、少なくとも重過失があると認めら れるから、原告に対し、原告が被告会社の著作権侵害行為によって被った損害について、 有限会社法三〇条の三に基づく損害賠償義務を負う。 四 争点4(損害及び損失額)について 1 著作権法(以下「法」という。)一一四条二項は、著作権者は、著作権侵害者に対し、 その著作権の行使につき通常受けるべき金銭の額に相当する額を、自己が受けた損害の額 として、その賠償を請求することができる旨定めている。  著作物使用料規程は、著作物の利用についての許諾契約を締結する場合の使用料を定め たものであり、通常受けるべき金銭の額を定めたものであるから、使用料規定は、許諾が なく著作物を使用した場合の損害の算定根拠とはならないとの被告らの主張は、採用でき ない。 2 証拠(甲四、六)によれば、カラオケ歌唱室における本件管理著作物の演奏等は、被 告会社の本件店舗における営業開始前から原告が制定し、文化庁長官の認可を受けた、旧 使用料規程の第二章第二節「演奏等」の3「演奏会以外の催物における演奏」の(7)「そ の他の演奏」に該当するものとして、原告が著作物使用料の支払を受けることができると 解されており、そのように取り扱われていたことが認められる。そして、本件店舗におけ るカラオケ装置を使う方法による演奏等は、右「演奏会以外の催物における演奏」のうち の(1)ないし(6)のいずれにもあたらないので、(7)「その他の演奏」に該当するものとな るところ、本件使用料率表は、右「その他の演奏」の規定に基づいて、旧使用料規程の範 囲内で定められたものと認められるから(本件使用料率表に規定された月額使用料は、平 成九年八月一一日に文化庁長官の認可を受けて変更された新使用料規程の第二章第二節 「演奏等」の4「カラオケ施設における演奏等」の、年間の包括的利用許諾契約を結ぶ場 合の月額使用料と同額である。また、右「演奏等」の節に規定されたその他の使用料は変 更されていない。)、本件使用料率表に基づいた額が、少なくとも原告の通常得べき金銭 であると認められる。 3 なお、カラオケ歌唱室における本件管理著作物の演奏等については、新使用料規程に なって初めて規定が設けられたことが認められる(甲五)。  しかしながら、カラオケ歌唱室における演奏等が、平成九年八月一〇日までは、旧使用 料規程の第二章第二節「演奏等」の3「演奏会以外の催物における演奏」のうち(7)「そ の他の演奏」に該当したことは、右2認定のとおりであって、その演奏の方法としてカラ オケ歌唱室におけるものが排除されていたとすべき根拠はない。したがって、平成九年八 月一〇日以前の使用料相当額の損害及び損失につき、旧使用料規程に基づく請求が許され ないものではない。 4 本件店舗における著作物の無断使用期間が平成六年八月一一日から平成一〇年九月三 〇日までであること、本件店舗の部屋数が、小部屋二四室、中部屋二室であること、本件 店舗において使用することのできたカラオケが、スーパーインポーズ方式を伴う通信カラ オケ及びレーザーディスクカラオケであることは、いずれも争いがなく、証拠(甲四、五) によれば、レーザーディスクカラオケ及びスーパーインポーズ方式を伴う通信カラオケは、 「ビデオカラオケ」として分類されること、ビデオカラオケの使用料は、平成六年八月一 一日から平成九年八月一〇日までは、小部屋では月額四〇〇〇円、中部屋では月額八〇〇 〇円であったこと、平成九年八月一一日から平成一〇年九月三〇日までは、小部屋につい ては月額九〇〇〇円、中部屋については月額一万八〇〇〇円であることが、それぞれ認め られる。  したがって、本件管理著作物の使用料相当額は、平成六年八月一一日から平成九年三月 三一日までは、一か月あたり一一万五三六〇円、平成九年四月一日から同年八月一〇日ま では、一か月あたり一一万七六〇〇円、平成九年八月一一日からは、一か月あたり二六万 四六〇〇円であると認められ、原告が、被告会社の前記著作権侵害行為によって被った使 用料相当額の損害及び損失は、消費税込みで、別紙使用料相当損害金・遅延損害金明細書 の使用料欄記載の金額合計七七八万一六八〇円であると認められる。 5 また、原告が、本訴の提起と遂行を弁護士に委任していることは、本件記録上明らか なところ、本件事案及び本件請求の内容を総合すれば、八〇万円の限度をもって、被告会 社の本件不法行為及び被告宮地の有限会社法三〇条の三違反の行為と相当因果関係のある 弁護士費用と認める。 6 なお、被告宮地の損害賠償義務は、被告会社の右著作権侵害行為を放置したことによ り原告に与えた損害を賠償するものであり、被告会社の不当利得返還義務も、やはり、著 作権侵害により原告に与えた損失をてん補するものであるから、被告宮地の右損害賠償義 務と同一の性質を有するものである。したがって、被告らは、著作権侵害による損害とい う同一の損害を、それぞれの立場において、てん補すべき義務を負担しているといえるか ら、被告らの債務は、不真正連帯債務である。 五 以上のとおり、原告の本訴請求は、主文第一項の限度において理由があるからこれを 認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六 一条、六四条本文及び六五条一項ただし書を、仮執行の宣言につき二五九条一項を、それ ぞれ適用して、主文のとおり判決する。 名古屋地方裁判所民事第九部 裁判長裁判官 野田 武明    裁判官 佐藤 哲治    裁判官 達野 ゆき