・広島高判平成11年10月14日判時1703号169頁  コンピュータプログラム複製刑事事件:控訴審。  本件は、被告人らが、「公共工事設計積算システム」と称するコンピュータプログラム を複製したとして著作権侵害罪(著作権法119条1項)に問われた事案で、被告人らは、 (1)本件に関する告訴をおこなった会社は著作権者でない、(2)告訴をおこなった会 社は、遅くとも平成7年12月末ころには本件の犯人を知ったものであるから本件告訴 (平成8年8月30日)は告訴家期間の経過後になさあれたものである、(3)本件告訴 は告訴受理権限を有する司法警察官に対してなされておらず無効である、と主張して控訴 したが、本件判決はこの被告人らの控訴を棄却した。  この中で、判決は、請負契約における著作権帰属条項の有効性や、親告罪の「犯人を知 った」とする意義について論じている。 ■判決文 (1)著作権の帰属  「前記の各請負契約書(乙は甲の委託を受けてソフトウエアの作成業務を請け負うとす る。)にある「本ソフトウエアに関する一切の権利は、甲に帰属する」という表現は、必 ずしも一義的ではなく、通常は、乙に発生した著作権が甲に移転することを表していると 解されるが、右の各契約当事者の理解からすれば、本件作業によって著作権が発生する場 合には、甲である甲野が原始的にこれを取得するものと定めたものと解される。この点に ついて、所論は、プログラムの開発の受託者が開発したものの著作権が原始的に委託者に 帰属するという契約条項は著作権法の解釈上無効であるというが、著作権法上、著作者に 著作権が発生するということは、同法17条に定めるところであって、これは強行規定と いえるが、著作物を創作する者、すなわち著作者が誰かということが、著作物の形成に創 作的に寄与する方法、度合いによって明確でない場合には、著作者が同法14条ないし1 6条によって定まる場合の外は、著作物の形成、開発の契約において、著作者を誰にする かを定めることは、著作権法の強行規定に違反することではなく、右の趣旨で、本件のよ うに、著作権が委託者甲に原始的に帰属するとする契約条項が無効であるとはいえない。 この点からも、本件プログラムの著作権は甲野に属するものである。」 (2)本件告訴は告訴期間内におこなわれたか  「告訴は、犯罪の被害者が犯罪事実を申告し、犯人の処罰を求めるものであり、親告罪 においては、犯人を知った日から六ヶ月以内にすべきものであるが、右の犯人を知るとは、 犯罪事実の行為者を知ることであるから、犯罪事実を知ることが前提になることはいうま でもない。」  「なるほど、Aの平成10年1月28日付検察官調書では、平成7年11月ころ、戊田 コンピューターシステム株式会社で当社の積算システムを複製したものを販売しているの ではないかと疑問を持ったと供述し、同人の原審第四回証言では、同月ころ、当社のソフ トを持ち出して、複製したということを推測し、前記質問状も当社のソフトを違法に複製 しているので止めてほしいという趣旨であったと供述し、同人の原審第五回証言では、間 違いなく複製して持ち出していると感じたのは「平成7年の年末、11月、12月」であ ると供述しているが、これらは、いずれもAが、主観的に被告人らの複製を推測した趣旨 であり、その時点では、被告人らが本件プログラムを複製したのは真実であると信ずるに つき相当の理由があるといえるほどの資料は得ていなかったものであるから、その段階で 告訴をすれば、名誉毀損の責任を問われる可能性がないとはいえないので、いまだ犯罪事 実を認識したともいえず、もとより告訴権を行使できる程度に犯人を知ったものといえな いのである。したがって、Aが、本件プログラム複製についての犯罪事実について、犯人 を知ったのは、いずれにしても前記証拠保全後であるから、平成8年8月30日に行われ た本件告訴が告訴期間中に行われたものであることは明らかである。」 (第一審:広島地判平成11年3月24日)