・東京地判平成11年10月29日判時1707号168頁  共有著作権持分譲渡事件:第一審。  本件は、株式会社イメージボックス(以下「イメージボックス」という。)の破産管財 人である原告が、イメージボックスが被告(アストロ・システム・ジャパン株式会社)と 持分各二分の一で共有していた本件著作物に関する著作権の共有持分を株式会社ピーエス ジーに譲渡しようとしたところ、共有者である被告が右譲渡に必要な同意(著作権法65 条1項)を拒んだため、原告が、被告に対し、同意を求めた事案であり、判決は、諸般の 事情を考慮したうえで、「被告が、原告からピーエスジーに対する破産者持分の譲渡につ いて同意を拒む正当な理由があるとは認められない」として、原告の請求を認容し、「被 告は、原告が株式会社ピーエスジーに対し、別紙目録記載の著作物に関する著作権のうち 二分の一の持分を譲渡することに同意せよ」という主文を言い渡した。  (著作権法65条3項「前二項の場合において、各共有者は、正当な理由がない限り、 第一項の同意を拒み、又は前項の合意の成立を妨げることができない。」) (控訴審:東京高判平成12年4月19日) ■争 点 1 原告からピーエスジーに対する破産者持分の譲渡が無効なものであるかどうか 2 原告からピーエスジーに対する破産者持分の譲渡について、被告が同意を拒む正当な 理由があるかどうか ■判決文 第三 争点に対する判断 一 争点1について 1 共有著作権者が、その持分を譲渡する際に、他の共有者の同意を得るための努力をす ることが、持分譲渡の要件となっていると解すべき法的根拠は認められないから、原告が 共有者である被告の同意を得るための努力をしなかったからといって、原告からピーエス ジーに対する破産者持分の譲渡が無効になるものではない。 2 したがって、原告が右のような努力をしなかったことを理由とする、原告からピーエ スジーに対する破産者持分の譲渡が無効である旨の原告の主張は主張自体失当である。 二 争点2について 1 証拠(甲二ないし五、八、乙四ないし六)及び弁論の全趣旨によると、次の各事実が 認められる。 (一) 被告は、平成一〇年八月六日ころ、イメージボックスの許諾を得て本件著作物を販 売していたピーエスジーに対し、販売には被告の許諾が必要になることを通知した。その 後、被告とピーエスジーの間で協議した結果、平成一一年四月二日ころ、ピーエスジーが 被告に対して年間一五〇万円の使用料を支払うことで合意が成立し、ピーエスジーは、被 告に対して、一五〇万円を支払った。 (二) 原告は、イメージボックスの破産管財人として、被告を含む関係者に対し、平成一 一年四月一九日、同月二五日を回答期限として、破産者持分の買受けを募集するファクシ ミリを送信した。 (三) 右(二)の募集に対して、ピーエスジーが、買受金額三六〇万円で応募したので、原 告は、被告に対し、平成一一年五月六日、通知書と題する書面を送付し、三六〇万円で買 受けの応募があったことを連絡するとともに、この譲渡について同意することを求め、被 告が三六〇万円で買い受けるのであれば、売却する用意がある旨通知した。 (四) 被告は、原告に対し、平成一一年五月七日、右(三)の通知書への返答として、「貴 職は、当社がその著作権を保有することを理解しているにも拘わらず、且つ、著作権者に 十分な説明もなくその権利を第三者に売渡したいとの希望に対し、当社は貴職に対し不信 の念を持つと共に、次の理由により同意しないことを通知いたします。@当著作権は大陸 書房(倒産会社)管財人より当社が独占的にその権利を買い取り所有しており、貴職の言 う共同著作権者が倒産した現在、当社が唯一の著作権者である事。A既に一部の業者によ って著作権法が無視され、販売された商品にて、当社に迷惑が生じている事、Bその商品 価格の正当な価格(表示価格)が無視され、市場に混乱を与えていると共に最終消費者に 誤解を与えている事、C市場の混乱を収め、且つ消費者に誤解を与えない為には著作権を 分散させず信頼を回復する必要がある事。」との書面を送付した。しかし、被告は、原告 に対して、三六〇万円で破産者持分を買い受ける旨の申出はしなかった。 (五) その後、原告とピーエスジーとの間で、破産者持分を三六〇万円で売り渡す旨の契 約が締結されたが、その契約の契約書第二条には、「物品の所有権は、代金の支払いがあ った時に、甲から乙に移転するものとする(なお、東京地方裁判所の換価許可、共有者で あるアストロシステムジャパン株式会社の同意又はこれに代わる判決があることを条件と する)。」と記載されている。 2 右1認定の事実に基づき、被告が、原告からピーエスジーに対する破産者持分の譲渡 について同意を拒む正当な理由があるかどうかを判断する。 (一) 証拠(甲一、乙四、六)及び弁論の全趣旨によると、イメージボックスに対する破 産宣告前においては、イメージボックスと被告との間における合意により、本件著作権の 営業窓口がイメージボックスに統一されていたことが認められるから、ピーエスジーが本 件著作物の利用についてイメージボックスから許諾を受けたことにより、本件著作物の利 用に問題がないと考えたとしても何ら不自然ではない上、右1(一)の事実によると、ピー エスジーは、事後的に、被告の許諾を得て、その対価として一五〇万円を支払ったことが 認められるから、ピーエスジーが本件著作物の販売を行っていたことが被告に対する関係 で背信的な行為であるということはできない。 (二) 右1(二)ないし(四)認定の事実によると、被告は破産者持分を買い受ける機会があ ったにもかかわらず、それを逃したものと認められ、そのような被告に対して、ピーエス ージーや原告が、破産者持分の売買契約についての協議やその締結を知らせるべきであっ たということはできないから、ピーエスージーと原告の間において、被告が知らないうち に、破産者持分の売却について協議が行われ、売買契約が締結されていたとしても、その ことをもって、被告に対する背信行為ということはできない。 (三) 証拠(乙五)と弁論の全趣旨によると、ピーエスジーの代表者である小林実(以下 「小林」という。)は、平成一一年六月一〇日、被告代表者に対して、代金三六〇万円を 支払った旨述べ、既に原告との間で売買契約を締結したことを前提として、被告との協議 に臨んだことが認められるが、これは、事実をそのまま述べ、そのことを前提として協議 に臨んだもので、不当な点は見られない。なお、被告は、同日の話合いにおいて、小林が、 破産者持分を取得したことを理由に協議に応じなかったと主張するが、小林がそのような ことを述べた事実を認めるに足りる証拠はない(乙五にもそのような記載はない。)。右 1(五)認定の事実によると、ピーエスージーと原告との間における破産者持分の売買契約 は、被告の同意がない限り効力を生じないことは明らかであるから、このことに照らして も、小林が、破産者持分を取得した旨述べたとは認められない。  また、弁論の全趣旨によると、本件訴訟手続において、原告、被告、ピーエスジーの間 において和解協議が行われたが、合意に至らなかったことが認められる。被告は、右協議 は、ピーエスジーが、既に代金を支払って破産者持分を取得したと主張したことから、ま とまらなかったと主張するが、ピーエスジーが、原告との間で売買契約を締結して、代金 を支払ったことを前提として和解協議に臨むことに不当な点はなく、ピーエスジーが破産 者持分を取得したと主張したことを認めるに足りる証拠はない。 (四) 本件著作物が無断で販売されることを防止し、本件著作物の販売価格の統一を図る ことが必要であるとしても、それらについて、被告が、ピーエスジーと共に行うことがで きない事情が存するとは認められない。 (五) 以上述べたところを総合すると、被告が、原告からピーエスジーに対する破産者持 分の譲渡について同意を拒む正当な理由があるとは認められない。 三 以上の次第で、原告の請求は理由があるから、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第四七部 裁判長裁判官   森  義之    裁判官   榎戸 道也    裁判官   杜下 弘記