・東京地判平成11年11月17日判時1704号134頁  キューピー人形(キューピー株式会社)事件:第一審。  「キューピー人形」についての著作権を有すると主張する原告が、キューピーのイラス トを「キューピーマヨネーズ」製品やマスコットなどに使用したり、「kewpie.co.jp」と いうドメインネームでホームページを開設している被告(キューピー株式会社)に対して、 (1)キューピー人形について著作権を有するので、被告によるキューピーの図柄等の複 製行為等が著作権(複製権、翻案権)の侵害に当たる旨、および(2)「キューピー」と の商品等表示が原告の著名な商品等表示に当たり、被告による右使用行為が不正競争を構 成する旨を主張して、被告に対し、右各行為の差止め、損害賠償、および不当利得返還を 求めた事案で、判決は、「本件人形と被告イラストは、共通点を有するが、その共通点の ほとんどは、既に一九〇三年作品A及び一九〇五年作品に現われているし、本件人形に付 加された新たな創作的部分とはいえないこと、他方、右認定したとおり、両者には数多く の相違点が存在すること等の事実を総合判断すると、被告イラストは、本件人形における 本質的特徴を有しているとはいえず、両者は類似していないと解するのが相当である」な どとして原告の請求を棄却した。  また、判決は、権利濫用についても、「自らが本件著作権の侵害行為を行って利益を得 ていた原告が、本訴において、被告に対し、本件著作権を侵害したと主張して、差止め及 び損害賠償を請求することは、権利の濫用に該当すると解するのが相当である。したがっ て、この点からも、原告の請求は失当である」と述べた。 (控訴審:東京高判平成13年5月30日) ■評釈等 牛木理一・パテント53巻6号51頁(2000年) ■争 点 1 本件人形の創作・発行 2 本件人形の創作性の有無 3 著作権法上の保護の有無(量産品・応用美術) 4 米国著作権の成否 5 著作権の保護期間 6 原告による著作権の承継取得の有無 7 著作権の喪失の有無 8 著作権放棄の意思表示の有無 9 依拠の有無 10 類似性の有無 11 不正競争 12 権利失効の有無 13 権利濫用の有無 14 訴訟信託 15 不法行為、不当利得の成否 ■判決文 第三 争点に対する判断 一 争点10(類似性)について 1 まず、被告イラスト及び被告人形が、本件人形に係る本件著作権を侵害する複製物等 であるか否か(著作権の成否、著作権の帰属、保護期間の満了による著作権の消滅の有無 の点はさておき)について検討する。  本件人形に関しては、ローズ・オニールによって創作された先行著作物があること、そ の一例として一九〇三年作品A及び一九〇五年作品が存在すること、右各作品は、いずれ も日米著作権条約の効力発生前に発行され、我が国においてその著作権は保護されないこ とは、いずれも当事者間に争いがない。  ところで、原告が著作権法上の保護を求める著作物について、当該著作物が先行著作物 を原著作物とする二次的著作物であると解される場合には、当該著作物の著作権は、二次 的著作物において新たに加えられた創作的部分についてのみ生じ、原著作物と共通しその 実質を同じくする部分には生じないと解すべきである。二次的著作物が原著作物から独立 した別個の著作物として著作権法の保護を受けるのは、原著作物に新たな創作的要素が付 加されたためであって、二次的著作物のうち原著作物と共通する部分は、何ら新たな創作 的要素を含むものではなく、別個の著作物として保護すべき理由がないからである(最高 裁平成九年七月一七日第一小法廷判決・民集五一巻六号二七一四頁参照)。  以上の点に鑑みて、後記のとおり、本件人形は一九〇三年作品A及び一九〇五年作品の 二次的著作物であると認められるから、被告イラスト及び被告人形と本件人形との類否を 判断するに当たっては、第一に、原告が本件において保護を求める本件人形と一九〇三年 作品A及び一九〇五年作品とを対比して、本件人形において創作的部分があるか否か、あ るとして創作的部分はどの部分かを検討し、第二に、被告イラスト及び被告人形と本件人 形とを対比して、右の創作的部分において共通するか否かを検討することとする。  争いない事実及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められ、これを覆す 証拠はない。 2 本件人形と一九〇三年作品A及び一九〇五年作品とを対比する。 (一) 本件人形も、一九〇三年作品A及び一九〇五年作品も、古くから連綿と描き続けら れた「子供の姿をした天使」を題材にした作品の特徴を有している。また、子供の身体に 羽が生えているという表現形態は、既に多数存在していた。 (1) 本件人形の特徴は、以下のとおりである。  全体的な特徴としては、@ほぼ直立の人形である。A乳幼児の体型であり、頭部が全身 と比較して大きく、概ね三頭身である。B裸である。C性別がはっきりせず、中性的であ る。Dふっくらとしている。E体格、骨格は、欧米人のようである。  細部の特徴としては、F頭部の骨格について、後頭部の中心が後方に突き出したように 張っている。G頭の中央部分及び左右の部分にとがった形状の髪の毛が生えており、中央 部分の毛は前に垂れており、頭部のその他の部分には髪の毛がない。H顔は、縦長の楕円 形状であり、頬はふっくらしている。I目は、丸く大きい。瞳は、左方向(向かって右) を向いている。J眉は、目から離れた位置に点のように描かれている。K鼻は、目立たず、 小さく丸い。L口は、唇につき、細く長い下向きの円弧状に描かれ、微笑んでいるような 表情に描かれている。M青く彩色された小さな双翼が、首の後方部左右に付けられている。 N両手は、腕を伸ばし、掌を広げている。O腹部は、下腹部が前方に突き出ている。P胴 は、中央が最も太い。Q背中部分は、平坦であり、尻部は、下方に向けて窄まっている。 (2) これに対し、先行著作物の特徴は、以下のとおりである。 (ア) 一九〇三年作品Aの特徴は、以下のとおりである。  全体の特徴としては、@正面向きでひざまづいた姿勢の図柄である。A乳幼児の体型で あり、頭部が全身と比較して大きい。B裸である。C性別がはっきりせず、中性的である。 Dふっくらとしている。E体格、骨格は、欧米人のようである。  細部の特徴としては、F頭の中心の部分にとがった形状の髪の毛が生えており、それが 前に垂れているように描かれ、頭部のその他の部分には髪の毛がない。G顔は、縦長の楕 円形状であり、頬はふっくらしている。H目は、必ずしも明らかでない。瞳は点状に描か れている。I眉は、上瞼に接して描かれているようであるが、必ずしも明らかでない。J 鼻は、点状に小さく描かれている。K口は、点状に描かれ、目立たない。L双翼が、後頭 部ないし首の部分から左右に付けられている。M手を前で合わせて、祈りを捧げているよ うな姿勢である。N腹部は、突き出ているように描かれている。O胴は、中央部が最も太 い。 (イ) 一九〇五年作品の特徴は、以下のとおりである。  全体の特徴としては、@横向きで正座したやや前屈みの姿勢の図柄である。A乳幼児の 体型であり、頭部が全身と比較して大きい。B裸である。C性別がはっきりせず、中性的 である。Dふっくらとしている。E体格、骨格は、欧米人のようである。  細部の特徴としては、F頭部の骨格について、後頭部の中心が後方に突き出したように 張っている。G頭の中心部分にとがった形状の髪の毛が生え、前頭部に垂れているように 見え、横の耳の上部に髪の毛が生えており、頭部のその他の部分には髪の毛がない。H目 は、下を向き、うつむき加減である。I眉は、目から離れた位置に点状に描かれている。 J鼻は、小さく目立たない。K双翼が、後頭部から首の部分に横に向かって付けられてい る。L腕は、下方に伸ばし、手を膝頭に置いている。 (3) そうすると、本件人形と一九〇三年作品A及び一九〇五年作品とは、以下の点で共 通する。すなわち、全体的な特徴として、@乳幼児の体型であり、頭部が全身と比較して 大きい。A裸である。B性別がはっきりせず、中性的である。Cふっくらとしている。D 体格、骨格は、欧米人のようである。細部の特徴として、E頭部の骨格について、後頭部 の中心が突き出したように張っている(ただし、一九〇三年作品Aは正面向きなので、こ の点はない。)。F頭の中央部分及び左右の部分にとがった形状の髪の毛が生えており、 中心部分の毛は前に垂れており、その余には髪の毛がない(ただし、一九〇五年作品は横 向きなので、横の部分の髪の毛の形状ははっきりしない。)。G顔は縦長の楕円形状であ り、頬はふっくらしている(ただし、一九〇五年作品は横向きなので、この点はない。)。 H鼻は目立たず、小さく丸い。I双翼が、後頭部から首の部分に左右に付けられている。 J腹部が突き出ている。胴の中央が最も太い(ただし、一九〇五年作品は横向きなので、 この点ははっきりしない。)。 (二) 以上のとおり、本件人形は、一九〇三年作品A及び一九〇五年作品と比較して、目、 眉、口、手の形状に相違がある(なお、立像かイラストかは相違点として重要とはいえな い。)が、この相違点を考慮しても、前記のとおり多くの共通点があり、とりわけ、頭部 の極めて特徴的な頭髪と背部の双翼とを備えている裸の中性的なふっくらした乳幼児を表 現したという特徴において共通していることに鑑みれば、本件人形は、既に一九〇三年作 品A及び一九〇五年作品において表現された特徴のほとんどすべてを備え、新たに付加さ れた創作的要素は、些細な点のみといえる。本件人形と両作品とは類似するといえる。本 件人形は、立体的な人形とした点で、両作品の二次的著作物に当たるものということがで きる(なお、本件人形と両作品は、いずれも、ローズ・オニールによって作成されたもの と認められるから、本件人形が両作品に依拠して作成されたものと推認される。)。 3 右の前提に立って、本件人形と被告イラスト及び被告人形が類似するか否かについて 検討する。 (一) まず、被告人形について検討する。 (1) 被告人形の特徴は、以下のとおりである。  全体的な特徴としては、@直立の人形である。A乳幼児の体型であり、頭部が全身と比 較して際だって大きく概ね二・五頭身である。B裸である。C性別がはっきりせず、中性 的である。Dふっくらとしている。  細部の特徴としては、E頭の中央部分及び左右の部分にとがった形状の髪の毛が生えて おり、中心部分の毛は前に垂れており、頭部のその他の部分には髪の毛がない。髪の毛は、 茶色に彩色されている。F顔は、縦がやや長く、頬がふっくらしている。G目は丸く大き い。目全体が黒く塗りつぶされている。H睫毛は、長細く、明瞭に描かれている。I眉は、 目から離れた位置に、円弧状にやや厚みをもって描かれている。J鼻は、目立たず、小さ く丸い。K口は、唇が短く厚みをもって描かれ、微笑んでいる表情に描かれている。L貝 殻形状の双翼が、両肩から上向きに付けられ、茶色に彩色されている。M両手は、腕を伸 ばし、掌を広げている。N腹部は、全体が前に張り出している。O胴は、尻のあたりが最 も太い。P背中は平坦であり、尻は背中部分と比べ後方に突き出ている。 (2) そうすると、本件人形と被告人形は、以下のような共通点を持つ。   全体的な特徴として、@ほぼ直立の人形である。A乳幼児の体型であり、頭部の割合 が大きい。B裸である。C性別がはっきりせず、中性的である。Dふっくらとしている。 細部の特徴としては、E頭の中央部分及び左右の部分にとがった形状の髪の毛が生えてお り、中央部分の毛は前に垂れており、頭部のその他には髪の毛がない。F頬がふっくらし ている。G目は丸く大きい。H眉は、目から離れた位置に描かれている。I鼻は目立たず、 小さく丸い。J口は、やや微笑んでいる表情に描かれている。K双翼が付けられている。 L両肩に両手は、腕を伸ばし、掌を広げている。M腹部は、前に張り出している。しかし、 右共通点のうち、AないしF、I、K、Mの点は、一九〇三年作品A及び一九〇五年作品 と共通であり、@の点は重要な特徴とはいえない。  これに対し、本件人形と被告人形とは、以下のような相違点がある。@全身のプロポー ションについて、前者は概ね三頭身であるのに対し、後者は概ね二・五頭身である。A髪 の毛は、前者は僅かに彩色が施されているのに対し、後者は茶色に彩色されている。B瞳 について、前者は左方向を向いているのに対し、後者は黒色で大きく塗りつぶされている。 C睫毛について、前者は全く描かれていないのに対し、後者は明瞭に描かれている。D眉 について、前者は点のように描かれているのに対し、後者は円弧状にやや厚みをもって描 かれている。E口について、前者が唇が細く長い、下向きの円弧状に描かれているのに対 し、後者は短く厚みをもって描かれている。F双翼について、前者は後頭部から首の後方 部左右に、青く彩色されて付けられているのに対し、後者は両肩部に、茶色に彩色された 貝殻状のものが付けられている。G胴について、前者は中央が最も太いのに対し、後者は 尻の当たりが最も太い。H尻について、前者は背中部分から突き出すことなく連続して、 下方に向けて窄まっているのに対し、後者は背中部分に比べ後方に突き出ている。  以上のとおり、本件人形と被告人形は、共通点を有するが、その共通点のほとんどは、 既に一九〇三年作品A及び一九〇五年作品に現われているし、本件人形に付加された新た な創作的部分とはいえないこと、他方、右認定したとおり、両者には数多くの相違点が存 在すること等の事実を総合判断すると、被告人形は、本件人形における本質的特徴を有し ているとはいえず、両者は類似していないと解するのが相当である。 (二) 被告イラストについて検討する。 (1) 被告イラストの特徴は、以下のとおりである。  全体的な特徴としては、@立った姿勢が描かれている。A乳幼児の体型であり、頭部が 全身と比較して大きく、約三頭身位である。B裸である。C中性的である。Dふっくらと している。E極めて平板に描かれている。  細部の特徴としては、F頭の中央部分にとがった形状の髪の毛らしいものが生えており、 中心部分の毛は前に垂れているようにも見えるが、その他の部分には(左右の部分も含め て)髪の毛がない。G顔は、やや縦長の楕円形状に描かれ、顎が膨らんでいるが、頬の膨 らみはほとんどない。H目は丸く大きい。瞳は、左下(向かって右側)を向いているよう に描かれている。I眉は描かれていない。J耳は、大きく丸みを帯びて表現されている。 K鼻は、浅いV字型の線として描かれている。L口は、短めの唇が線で表現されている。 M肩越しに丸みを帯びた双翼状のものがある。N腕は、ほぼ水平方向に伸ばして、掌を広 げている。Oへそが、下腹部にはっきりと描かれている。P胴から両足に掛けての輪郭線 は、円弧状に連続的に描かれている。Q足は、乳幼児特有のくびれは描かれず、直線的に 表現されている。 (2) 以上のとおり、本件人形と被告イラストは、以下のような共通点を持つ。全体的な 特徴としては、@乳幼児の体型であり、頭部の割合が大きい。A裸である。B中性的であ る。Cふっくらとしている。細部の特徴としては、D頭の中央部分にとがった形状の髪の 毛が生えており、中心部分の毛は前に垂れている。E目は丸く大きい。F鼻は目立たず、 小さい。G口は、線により表現されている。H双翼状のものが描かれている。I腕を伸ば して掌を広げている。しかし、右共通点のうちで、@ないしD、F、Hの点は、既に一九 〇三年作品A及び一九〇五年作品に表現されている。  これに対し、本件人形と被告イラストには、以下のような相違点がある。@髪の毛につ いて、前者は頭の左右の部分にとがった形状の髪の毛が生えているのに対し、後者は頭の 左右の部分に髪の毛がない。A顔について、前者は頬がふっくらと表現されているのに対 し、後者は頬の膨らみは強調されず、顎の膨らみが目立つ。B眉について、前者は目から 離れた位置に点のように描かれているのに対し、後者は描かれていない。C耳について、 前者は(描かれていないか)ほとんど目立たないのに対し、後者は大きく、丸みを帯びて 描かれている。D唇について、前者が細く長い下向きの円弧状に描かれ、頬の描き方と相 まって微笑んでいるような表情に描かれているのに対し、後者は単に線として表現されて いるのみで、必ずしも微笑んでいるような表情に描かれていない。E腹部は、前者がへそ が目立たないのに対し、後者はへそが強調されて描かれている。F胴から両足に掛けての 部分について、前者は乳幼児特有のくびれが表現されているのに対し、後者は輪郭線が円 弧状に連続的に描かれ、くびれは描かれていない。G全体の印象として、後者は極めて平 板な印象を与えるように描かれている。  以上のとおり、本件人形と被告イラストは、共通点を有するが、その共通点のほとんど は、既に一九〇三年作品A及び一九〇五年作品に現われているし、本件人形に付加された 新たな創作的部分とはいえないこと、他方、右認定したとおり、両者には数多くの相違点 が存在すること等の事実を総合判断すると、被告イラストは、本件人形における本質的特 徴を有しているとはいえず、両者は類似していないと解するのが相当である。 二 争点11(不正競争)について  原告は、「キューピー」(kewpie)という商品等表示(本件商品等表示)が著名であると して、不正競争防止法二条一項二号が適用されるべきであると主張する。  しかし、本件商品等表示が、原告ないしローズ・オニール関係者の商品ないし営業を示 す商品表示ないし営業表示として著名ないし周知であることを認めるに足りる証拠はない。 したがって、この点についての原告の主張は理由がない。 三 争点13(権利濫用)について  以上のとおり、原告の本件請求は、その余の点を判断するまでもなく失当であるが、権 利濫用の点についても、付加して検討する。 1 証拠(甲二〇ないし二二、五一、乙一、八ないし一〇、五六、五七、一〇一ないし一 〇四)、当裁判所に職務上顕著な事実及び弁論の全趣旨をあわせれば、以下の事実が認め られる。 (一) 原告は、昭和五四年ころから、キューピーの図柄等のデザインに関連する業務を行 い、また、自己がデザインしたキューピーに関連する商品を販売している。  原告は、ハマナカ株式会社、キクチ株式会社及び株式会社オビツ製作所等とキューピー に関連する商品等の取引を行った。ハマナカ株式会社が昭和五四年から五六年に掛けて発 行した手芸作品集には、原告がデザインしたキューピーの図柄が掲載されている。平成七 年に原告がデザインし、同社が発売したキューピー商品には、原告の指示により、「desi gned by コKewpie Club」、「OMOIDE KOUBOU コ」という表示が付されている。原告は、 右商品の取引に関連して、同社から、少なくとも六〇万円の支払を受けている。原告は、 キクチ株式会社とも取引を行い、同社は、平成三年ころ、原告がデザインしたキューピー 人形を製造した。原告は、株式会社オビツ製作所とも取引を行い、同社は、平成五年ころ から、原告がデザインしたキューピー人形を製造した。  また、原告は、昭和六三年、京都市に「想い出博物館」を開設し、自ら収集したキュー ピー人形を含む古いおもちゃ類等を展示し、土産品の販売を行うなどしたり、平成六年、 神戸市にキューピー専門の博物館兼販売店である「キューピークラブ イン 神戸」を開 設したりした。原告は、平成六年ころから、「インターナショナルローズオニール協会 (I.R.O.C.)」日本支部を自称する「日本キューピークラブ」を主宰し、「Japan Kewpie Club News」なる機関紙を発行した。この機関紙には、ローズ・オニールが作成したとさ れるキューピーのイラストが多数掲載されたり、キューピーの関連商品、Tシャツ等を有 償で販売する案内が紹介されたりしている。  ところが、原告は、平成一〇年ころに至って、ハマナカ株式会社及び株式会社オビツ製 作所に対し、原告がキューピーの著作権について独占的使用権を取得したとして、キュー ピーに関する商品(原告の制作するキューピーに関する商品に限らない。)について、使 用許諾料の請求をするなどした。 (二) 原告は、平成五年五月ころ、株式会社日本興業銀行(以下「日本興業銀行」という。) との間で、原告の製造・販売するキューピーの図柄を付した商品を販売促進用品として、 販売したりした。その取引は、平成七年三月ころまで継続した。日本興業銀行は、原告に 対し、一億円を超える各種商品の購入代金を支払った。  ところが、原告は、平成八年一一月二〇日、日本興業銀行に対し、「ローズ・オニール の財産を管理しているローズ・オニール・エステートという米国の団体と日本におけるロ ーズ・オニールの著作権に関して総代理店契約を締結した」として、被告に対し「ローズ ・オニールのキューピー」の使用・購入を求めた。 (三) 牛乳石鹸共進社株式会社は、自社の石鹸、シャンプー等の商品に「キューピー」の 文字及び図形からなる商標を付していた。原告は、平成一一年一月ころ、同社に対して、 原告がキューピーに関する著作権を取得したこと、同社が「キューピー」の商標を付した 商品を製造、販売することは原告の有する著作権を侵害することを理由として、使用許諾 料の支払をするように求めた。 2 以上認定した事実、すなわち、原告は、一方において、本件著作権を平成一〇年五月 一日に譲り受けたと主張しているにもかかわらず、@正当な権原を取得したとする時期よ りはるか前である昭和五四年ころから、キューピーの図柄等のデザイン制作、及びキュー ピーに関する商品の販売等を行い、自らが本件著作権の侵害となる行為をして、利益を得 ていたこと、A自らが主催するキューピーに関する団体の活動においても、ローズ・オニ ールが作成したキューピーの複製品(原告の主張を前提とする。)を製造、販売したこと、 Bさらに、キューピーに関する原告の商品には原告が著作権を有するかのような表示を付 したりしていたこと、C原告は、自己がデザインしたキューピーに関する商品を販売して いた取引相手に対して、キューピー商品一般(原告の制作したキューピー商品以外のもの) について、使用許諾料の請求をするなどしている等の事実に照らすならば、自らが本件著 作権の侵害行為を行って利益を得ていた原告が、本訴において、被告に対し、本件著作権 を侵害したと主張して、差止め及び損害賠償を請求することは、権利の濫用に該当すると 解するのが相当である。したがって、この点からも、原告の請求は失当である。 四 よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第二九部 裁判長裁判官 飯村 敏明    裁判官 沖中 康人    裁判官 石村 智