・大阪地判平成11年12月9日判決速報297号9207  カリタ化粧品代理店契約解消事件。  被告(株式会社カリタジャポン)は、被告が輸入する化粧品について原告と販売代理店 契約を締結していたが、原告(新明和リビテック株式会社)が自社の化粧品を開発し、被 告の他の代理店等に購入を求めたことから、原告との代理店契約を解除し、商品の供給を 停止するとともに、他の被告代理店等に原告の商品開発をめぐる状況についての通知をし た。  本件は、原告が被告に対して、(1)被告による契約解除は無効であり、商品供給の停 止は代理店契約の債務不履行に当たるとして、それにもとづく損害賠償を請求するととも に、(2)他の被告代理店等の通知が不正競争防止法2条1項13号の不正競争行為また は不法行為に当たるとして、それにもとづく損害賠償および謝罪広告を各請求した事案で ある。  判決は、まず(1)について、「原告が契約上の義務として、類似商品販売禁止義務を 負っていたということはできない」が、「本件基本契約のような継続的な代理店契約にお いては、相互の信頼関係を基礎として継続的な契約関係が形成されているものであるから、 当事者間に契約関係を存続させることが著しく困難ならしめる事情があれば、信義則上、 将来に向かって契約を解除することができると解するのが相当である」としたうえで、 「被告による契約解除は、契約関係を継続することが著しく困難な事情に基づくものとい うことができ、有効なものと認めるのが相当である。したがって被告に本件基本契約の債 務不履行は認められない」とした。また、(2)については、原告の行為は「販売代理店 契約の関係を離れて、一般的な競争関係として見る限り、正当な競争行為であるといえる。 しかし他方、被告が原告の行為に対して、自らの顧客と流通ルートを維持するために、販 売代理店や取扱サロンに対して原告商品を取り扱わないよう要請するのも、一般的には正 当な競争行為であり、ただその要請を行う際に、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実 を告知する場合には不正競争行為として違法となり、また、販売代理店等に対して不当な 圧力をかける行為を行った等の場合も不法行為として違法との評価を受けることがあると いうべきである」として、本件はこれにあたらないとして、原告のいずれの請求も棄却し た。 ■判決文 第6 争点に対する当裁判所の判断 1 争点1(被告による債務不履行の成否)について (1) 前記第3記載の事実からすれば、被告は、前記第3の3(3)記載の契約解除が有効で ない限り、原告に対し、本件基本契約に基づく被告商品の供給義務(前記第3の2(4)ウ) の債務不履行責任を負うと認められる。  そこで、以下、被告による本件基本契約の解除の有効性について検討する。 (2) この点について被告は、まず、本件基本契約上、原告は類似商品販売禁止義務を負っ ており、原告による原告商品の発売はこれに違反するものであると主張する。 《中 略》 オ 以上よりすれば、原被告間で類似商品販売禁止義務の存在を肯定し得る特段の事情も 認められないから、原告が契約上の義務として、類似商品販売禁止義務を負っていたとい うことはできない。 (3) しかしながら、本件基本契約のような継続的な代理店契約においては、相互の信頼関 係を基礎として継続的な契約関係が形成されているものであるから、当事者間に契約関係 を存続させることが著しく困難ならしめる事情があれば、信義則上、将来に向かって契約 を解除することができると解するのが相当である。 《中 略》 エ 以上に基づいて検討する。  前記のとおり、他社商品と比べて、原告商品は被告商品と類似性が高いといえるが、被 告商品は市場で販売されており、そのスキンケアメソッドやエステティックメソッドも公 開されており、また、被告が商品の構成や営業方法について何らかの工業所有権を有して いるわけでもないから、販売代理店という関係を離れて見た場合には、原告が被告商品と 類似性の高い商品を企画・販売したからといって、直ちに違法とはいえないし、また、そ のような商品を被告の販売代理店や取扱サロンに売り込むことも、原告の営業の自由に属 する事柄であって、直ちに被告に対する営業妨害を構成するわけではない。  しかし、前記のような販売代理店としての原告の地位に照らせば、被告商品と類似性の 高い原告商品を自ら企画・開発し、被告の販売代理店や取扱サロンに対して売り込む行為 は、被告に対する直接の利益相反行為であると認めるのが相当である。  なるほど、被告の販売代理店は、類似商品販売禁止義務を負っておらず、販売代理店が 複数のメーカーの商品を取り扱うことも多いが、これは、顧客の多様なニーズに応える必 要があるからである(証人秋野及び同長部)。したがって、販売代理店が複数のメーカーの 商品を取り扱ったとしても、メーカーと被告が直接的な競合関係に立つことはあっても、 被告と販売代理店とが直接的な競合関係に立つことはない。  しかし、原告は被告の販売代理店という地位にあるにもかかわらず、被告商品と類似性 の高い原告商品を自ら企画・開発し、被告の販売代理店や取扱サロンに対して売り込んだ のである。このことは、原告の売込みの結果、被告の販売代理店や取扱サロンが原告商品 を取り扱う場合には、類似性の高い被告商品の取扱量はそれだけ減少するという関係に立 つことを意味する(このことは証人秋野自身も認めるところである。)。すなわち、原告は、 被告の販売代理店として活動する一方で、自らが被告と直接的な競合関係に立ち、被告の 利益を害する行為を行ったものと解される。そして、前記のとおり、被告の販売代理店は、 全国に散在するサロンを管理し、サロンが被告商品の取扱いを継続するよう努めることが、 被告と販売代理店の双方にとって契約上の前提とされているものと考えられる。  これらからすれば、原告が原告商品を被告の販売代理店や取扱サロンに対して売り込む 行為は、単に原告が被告商品と類似商品を販売したというにとどまらず、被告の利益を直 接侵害する行為であって、被告に対する利益相反行為に当たるというべきである。しかも、 原告は、被告の販売代理店やサロンに対して幅広く営業活動を行っているから、利益相反 の程度も重大であるといえる。  したがって、原告のこのような行為は、信義則上、被告に対して、原告との間の販売代 理店契約の継続を著しく困難ならしめる事情に当たるというべきである。  この点について原告は、類似商品販売禁止義務は、原告の営業の自由に対する制約であ るから、契約に明示されない限り安易に認めるべきではないと主張する。しかし、上記の とおり、原告の行為は、単なる類似商品販売の域を超え、被告の代理店として活動する一 方で自らが原告商品を開発、販売することにより被告と直接的な競合関係に立つことを意 味するから、被告に対する利益相反行為といえるのであり、その程度も重大であるから、 契約関係の解消を被告に認めたからといって、原告の営業の自由を不当に制約するとはい えない。  また、原告は、被告の販売代理店や取扱サロンは、もともと原告が開拓した取引先であ る点を指摘するが、そのような原告の功績は、本件基本契約の締結時において各種の優遇 措置(補償措置)を講じることによって、被告との間では清算されたというべきであるか ら、それらの者を原告が開拓したことを理由に、原告の売り込みについて被告が異議を唱 えることができないということはできない。  さらに原告は、アクアトナル化粧品の代理店となったときには、被告は何ら異議を唱え なかったと主張し、証人秋野の証言でもその事実は認められる。しかし、前記のとおり、 アクアトナル化粧品は、被告商品との類似性が高くないから、原告商品を自ら企画・販売 する行為と同列に論じることはできない。 (4) 以上より、被告による契約解除は、契約関係を継続することが著しく困難な事情に基 づくものということができ、有効なものと認めるのが相当である。したがって被告に本件 基本契約の債務不履行は認められない。 2 争点2(被告による不正競争行為の有無)及び争点3(被告による不法行為の有無) について (1) 本件における原告の行為は、要するに、自社開発の化粧品を被告商品の流通ルートに ある販売代理店や取扱サロンに売り込もうとした行為であるが、先にも述べたとおり、こ のような行為は、販売代理店契約の関係を離れて、一般的な競争関係として見る限り、正 当な競争行為であるといえる。しかし他方、被告が原告の行為に対して、自らの顧客と流 通ルートを維持するために、販売代理店や取扱サロンに対して原告商品を取り扱わないよ う要請するのも、一般的には正当な競争行為であり、ただその要請を行う際に、原告の営 業上の信用を害する虚偽の事実を告知する場合には不正競争行為として違法となり、また、 販売代理店等に対して不当な圧力をかける行為を行った等の場合も不法行為として違法と の評価を受けることがあるというべきである。  そこで、原告は、甲4及び5の文書を被告が配布したことが、不正競争行為又は不法行 為を構成すると主張するので、以下、この点について検討する。 (2) 甲4について  甲4は、被告から取扱サロンに対して配布された文書であり、その内容は前記第3の3 (4)アのとおりであるが、そこでは、被告が原告との取引を停止したこととそれに伴う今後 の取引方法の通知がサロンに対してなされているにすぎない。そして、被告による契約解 除が有効であることは先に述べたとおりであるから、甲4の文書の内容に虚偽の点はなく、 また、他に違法性を基礎付ける要素も認められない。したがって、被告が甲4の文書を配 布したことが不正競争行為又は不法行為を構成するとはいえない。 (3) 甲5について  甲5は、被告から販売代理店に対して配布された文書であり、その内容は、前記第3の 3(4)イ記載のとおりである。そして、@原告商品が被告商品と類似していることは前記の とおりであるから、この点の記載について虚偽はなく、A原告商品の販売が被告に対する 背信的な行為と評価し得ることも前記のとおりであるから、原告商品の販売が被告に対す る営業妨害行為であるとの記載も実質的には虚偽とはいえない。また、B被告による解除 は前記のとおり有効であるから、被告が原告に対して被告商品の出荷を停止した旨も虚偽 ではない。さらに、C原告は販売代理店に契約締結を半ば強要していると解釈する旨の記 載は、必ずしも事実に即しているわけではないとしても、背信的行為を受けた被告が、自 己の解釈として、「半ば、強要しているものと解釈いたします」と述べているにすぎず、読 み手たる販売代理店(その中には原告から直接に勧誘を受けた者も多い)に対して、原告 が真に契約締結を強要しているとの印象を抱かせるとは考えられないから、実質的に見れ ば、虚偽の事実を告知するものとはいえない。そして、他に甲5の記載内容に違法性を基 礎付ける部分も見出せない。  したがって、甲5の文書の配布が不正競争行為又は不法行為を構成するとは認められな い。 (4) 以上によれば、被告は、原告に対し、不正競争防止法又は不法行為による損害賠償責 任を負わない。  (平成一一年一〇月一二日口頭弁論終結) 大阪地方裁判所第二一民事部 裁判長裁判官 小松 一雄    裁判官 高松 宏之    裁判官 安永 武央