・東京地判平成11年12月21日判決速報298号9256  タウンページ・キャラクター事件:第一審。  原告は、「古本情報」という書籍に「古本物語」という漫画を掲載し、右漫画を、原告 が出版を営んでいる「オール発明 知的所有権」という書籍に転載した。原告は、平成9 年8月2日、被告(日本電信電話株式会社)を著作権法違反の罪名で告訴したが、被告は、 同年11月、不起訴処分となった。被告が平成11年3月に発行した『ハローページ東京 都渋谷区版』の裏表紙の内側のページのうち、「タウンページ」と記載されている三体の キャラクターがマンホールから出ている絵および吹き出しからなる被告イラストが描かれ ている。本件は、原告が、「被告イラストは、原告漫画に類似しており、原告漫画に依拠 して製作されたものである」と主張して、「本件不起訴処分となった本件に新たに違反が 行われたので確認する」ことを求めるとともに、損害賠償を求めた事案である。  判決は、本件訴え中本件著作権侵害行為確認請求に係る部分についてはこれを却下し、 その他の請求については、「被告イラストのキャラクターが、原告漫画のキャラクターを 複製又は翻案したものであるとは認められない。なお、原告漫画のキャラクターと被告イ ラストのキャラクターは、本を擬人化したという点は共通しているが、それ自体はアイデ アであって、著作権法で保護されるものではない」として、これをすべて棄却した。 (控訴審:東京高判平成12年5月30日) ■争 点 1 被告イラストによる原告の著作権侵害の有無 2 損害の発生及び額 ■判決文 第四 当裁判所の判断 一 本件訴え中本件著作権侵害行為確認請求に係る部分について  本件著作権侵害行為確認請求は、確認を求める対象が特定されていないので、原告に対 して、特定するよう命じたところ、原告は特定しないので、本件訴え中本件著作権侵害行 為確認請求に係る部分は、不適法であって、却下を免れない。 二 争点1について 1 原告漫画のキャラクターと被告イラストのキャラクターには、次のような違いがある ものと認められるから、被告イラストのキャラクターが、原告漫画のキャラクターを複製 又は翻案したものであるとは認められない。なお、原告漫画のキャラクターと被告イラス トのキャラクターは、本を擬人化したという点は共通しているが、それ自体はアイデアで あって、著作権法で保護されるものではない。 (一) 原告漫画のキャラクターの本の形状は、背表紙の付近が丸みを帯び、やや本が開い た状態のものもあるが、被告イラストのキャラクターの本は、全体的に角張っており、表 表紙の上辺よりも裏表紙の上辺の方が長い独特の形状となっている。 (二) 被告イラストのキャラクターは、目が斜めに配置されているが、原告漫画のキャラ クターは、目は真横に並べられている。 (三) 被告イラストのキャラクターには、大きく鼻が描かれているのに対し、原告漫画の キャラクターには鼻が存在しない。 (四) 被告イラストのキャラクターは、本の中央から腕が生えているのに対し、原告漫画 のキャラクターは、本の表紙、すなわち顔の面から、腕が生えている。また、被告イラス トのキャラクターの腕及び手は立体的で、手は黒く塗りつぶされた丸形である(別紙目録 二記載の被告イラストに手が白い丸形のものが存するとは認められない。)が、原告漫画 のキャラクターの腕及び手は立体的でなく、手も白い丸形である。 (五) 被告イラストのキャラクターの額にあたる部分にはタウンページという文字が描か れているが、原告漫画のキャラクターには何らの文字もない。 2 原告漫画には、ストーリーがあるものと認められ、それについて、原告が主張するよ うに「起承転結」が存するとしても、被告イラストにおいては、原告が主張するような起 承転のストーリーがあるとは認められないし、また、仮に、被告イラストに何らかのスト ーリーがあるとしても、そのストーリーは、原告漫画とは異なっている。 3 原告漫画も、被告イラストも、キャラクターの目、口、腕等で表情を表現していると いうことができるが、そのこと自体はアイデアであって、著作権法で保護されるものでは なく、原告漫画と被告イラストとでは、キャラクターが異なることは、前示のとおりであ る。 4 以上述べたところを総合すると、被告イラストが原告漫画を複製又は翻案したもので あるとは認められないから、その余の点について判断するまでもなく、原告の損害賠償請 求は理由がない。 三 よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第四七部 裁判長裁判官 森  義之    裁判官 榎戸 道也    裁判官 岡口 基一