・東京地判平成11年12月21日判時1709号83頁  「パイラック」不正競争事件:第一審  原告(ネグロス電工株式会社)は、電路支持材を「パイラック」の商標を付して、製造 販売しているところ、被告電路支持材を製造、販売している被告(松下電工株式会社)に 対して、「被告が被告製品を製造、販売することは、不正競争防止法2条1項1号に該当 する。また、右行為は不法行為に当たる」と主張して、被告製品の製造等の差止め、およ び損害賠償を求めた事案である。  判決は、請求を棄却した。 (控訴審:東京高判平成14年5月31日) ■争 点 1 原告製品の形態の周知性 2 原告製品と被告製品の形態の類似性 3 原告製品と被告製品の混同のおそれ 4 被告の行為が不法行為になるか否か 5 損害の発生及び額 第四 争点に対する判断 一 争点1について 1 商品の形態は、本来商品の出所表示を目的とするものではないが、特定の商品形態が 他の業者の同種商品と識別しうる特別顕著性を有し、かつ、右商品形態が、長期間継続的 かつ独占的に使用され、又は短期間でも強力な宣伝が行われたような場合には、結果とし て、商品の形態が、商品の出所表示の機能を有するに至り、商品表示としての形態が周知 性を獲得する場合があるというべきである。 《中 略》 (四) 以上の事実によると、原告製品一は、その形態的特徴の主な部分が技術的機能に由 来するものであり、基本的な形状を同じくする同種の製品が古くから存し、遅くとも昭和 六一年ころには、日本において、原告製品一と形態が酷似した複数の製品が販売されてお り、基本的な形状を同じくする意匠に関する他の者の意匠権も登録、公開されているもの と認められる。  確かに、右2認定のとおり、原告製品一は、昭和三八年から販売されているもので、そ の販売数量等も少なくない上、原告は、製品のカタログを配布するなどして、宣伝を行っ ており、また、原告製品一の写真は、試験問題等にも取り上げられたことが認められる。 しかし、試験問題等においても、必ずしも原告の製品として取り上げられているわけでは ない。  以上述べたところを総合すると、右2認定の事実を考慮したとしても、原告製品一の形 態が、同種製品と識別しうる特別顕著性を有するもので、商品表示として周知であるとま では認められない。 《中 略》 7 以上によると、原告製品の各形態が原告の商品表示として周知であるとは認められな い。  そうすると、その余の点を判断するまでもなく、被告による被告製品の製造販売は、不 正競争行為に該当しない。したがって、原告の不正競争防止法に基づく請求はいずれも理 由がない。 二 争点4について 1 原告は、被告が原告製品と外観において実質的に同一ともいうべき被告製品を製造し、 原告製品との品番対比表を作成、配布し、かつ、原告製品よりも低い価格で販売したこと を不法行為であると主張する。  しかしながら、前記一認定のとおり、原告製品の形態は、その主な部分が技術的機能に 由来し、また、他社も原告製品に類似する形態を同種製品について使用しているのであっ て、その形態を原告のみが独占することができるというべき理由はない。  また、証拠(甲三八、三九、四六、乙四四)によると、被告が被告製品と原告製品との 品番対比表を作成したこと、被告が電設資材卸売業者に、対応する原告製品の価格よりも 値引きした金額を提示して被告製品の注文をとっていたこと、被告製品の注文書には、対 応する原告製品の品番が記載されていたこと、以上の各事実が認められるが、被告が、右 品番対比表を右業者等に配布していたことを認めるに足りる証拠はない。そして、このよ うな品番対比表の作成、注文書の記載及び値引きした金額の提示自体が、自由競争の範囲 を著しく逸脱した行為とはいえない。  以上を総合すると、被告製品が原告製品と似ているものであっても、被告による被告製 品の販売が、取引界における公正かつ自由な競争として許されている範囲を著しく逸脱し、 原告の法的保護に値する営業上の利益を侵害するものと認めることはできない。 2 そうすると、その余の点を判断するまでもなく、被告による被告製品の製造販売は、 不法行為を構成しないから、原告の不法行為に基づく請求はいずれも理由がない。 三 以上の次第で、原告の本訴請求はいずれも理由がない。 東京地方裁判所民事第四七部 裁判長裁判官 森  義之    裁判官 榎戸 道也    裁判官 岡口 基一