・東京地判平成11年12月27日判決速報297号9196  「東京高島易断運命鑑定」事件。  本件は、営業において「東京高島易断運命鑑定」または「高島易断洗心館総本部」の表 示を使用する被告の行為が、(1)主位的には、不正競争防止法2条1項1号所定の不正 競争行為に該当すると主張して、(2)予備的には、被告は原告を退社した場合には「高 島易断」および「高島」の号名は一切使用しない旨を内容とする、原告被告間で締結され た契約に違反すると主張して、「高島易断運命鑑定」の表示を用いて、高島易断による易 占業務を行っている原告(株式会社高島易断総本部)が被告に対し、右表示の使用の差止 めと損害賠償の支払を請求した事案である。  判決は、(1)について、「原告の使用に係る『高島易断総本部』及び『高島易断運命 鑑定』は、いずれも、一般的意味を有する言葉である『高島易断』と『総本部』ないし 『運命鑑定』とを組み合わせたに過ぎないものであり、一般利用者に対して、その役務の 出所を表示する機能はないと解される」として、また、(2)については、「原告代表者 が高島易断総本部発真会及び原告を設立した当時、既に多数の易占業者が、その営業に 『高島易断』を含む表示を使用し、また、多くの易占業者が、『高島』の姓を使用してい たこと、前記のとおり、『高島易断』は、易占業ないし易占業の組織、団体を示す一般的 な名称であると解されること等の経緯に鑑みれば、『高島易断』及び『高島』を含む表示、 姓を、一切(期限の定めもなく)使用しないと約したものと理解される本件誓約は、被告 に対して著しく不合理な内容の義務を負わせるものといえるから、原告、被告間の右名称 不使用に関する右合意は、公序良俗に反し、無効であると解すべきである」として、原告 の請求をいずれも棄却した。 ■争 点 1 「高島易断総本部」「高島易断運命鑑定」は、原告の周知な商品等表示か。 2 「高島易断洗心館総本部」「東京高島易断運命鑑定」の各表示は、それぞれ「高島易 断総本部」「高島易断運命鑑定」に類似するか。 3 被告は、「高島易断」及び「高島」を使用しない旨の契約に違反する行為をしたか。 4 損害額はいくらか。 ■判決文 第三 争点に対する判断 一 争点1(周知な商品等表示)について 1 前記第二、一の事実及び証拠(甲一二、一三、二八、四〇、四五、四六、乙一、二、 五、七、二七、二九、三三ないし六五、七三ないし七八)によると、以下の事実が認めら れる。 (一) 高島嘉右衛門は、明治時代に、易経を研究して著書「高島易断」を著し、独自の易 占を創案した。「高島易断」の名称は、高島嘉右衛門が創案した易を示すものとして使用 された。しかし、高島嘉右衛門の没後、高島(高嶋)の名を名乗り、高島易断の名称を含 む表示を用いて、易占業を行う者が現れるに至った。これらのうち、高島嘉右衛門の縁者 ないしは門下生はいない。昭和二〇年代には、「高島(高嶋)」ないしは「高島易断(高 嶋易断)」の名称を使用する易者が、多数存在するようになった。当時、「高島易断総本 部」という名称の団体も存在し、また、「高島易断所本部神宮館」という名称の団体が毎 年高島暦を発行していた。 (二) 原告代表者は、昭和五八年、高島易断総本部発真会を設立したが、そのころまでに は、そのほかに「高嶋易断所総本部」「全日本高嶋易断總本部」「高島易断紫雲閣総本部」 「東京高島易断神相館本部」「本家高嶋聖易断総本部」「高島易断総本部神聖館」等、 「高島(高嶋)」ないしは「高島易断(高嶋易断)」を含む名称を付し、「高島(高嶋)」 の姓を名乗る易占業者が多数存在していた。現在も、「高嶋易断総本部敬神館」「高嶋易 断日聖館総本部」「高嶋易断本部神明館」等、「高島(高嶋)」ないしは「高島易断(高 嶋易断)」を含む名称で易占業を営み、「高島(高嶋)」の姓を名乗る易占業者が多数存 在する。 (三) 「高島(高嶋)」ないしは「高島易断(高嶋易断)」が含まれた登録商標としては、 「高島易断相談内容統計」「高島易断西日本総本部」「高島易断本部天聖館」「高島易断 本部」「高嶋易断三世霊宝閣総本部」「高島易断神修館」「高島易断正道会総本部」等が ある。 (四) 原告は、平成四年、「高嶋易断」「東京高島易断」の各文字からなる各商標につい て、占い業・易業を指定役務として登録出願をしたが、指定役務に使用する場合の識別力 はないとの理由で、拒絶理由通知が出されている。  また、指定役務を易とし、「高島易断総本部」の文字からなる登録商標(商標権は原告 が有していた。)に対する無効審判において、右登録商標は、需要者をして、何人の業務 に係る役務であるのかを識別することができないものであり、商標法三条一項六号に該当 するとして、右登録商標の登録を無効とする旨の審決が出され、右審決は確定している。 (五) 前記のとおり、原告代表者は、昭和五八年に高島易断総本部発真会を設立して、高 島易断の名称を含む表示を使用して易占業務を開始し、平成二年に原告を設立した。原告 は、平成五年ころから、その広告において「高島易断運命鑑定」の表示を使用するように なったが、他方、単に「運命鑑定」を表示として使用することもあった。 2 以上のとおり、高島嘉右衛門は、「高島易断」を著し、「高島易断」と称する易占を 創案したが、同人の没後ころから、同人の縁者ないし門下生ではないにもかかわらず、 「高島(高嶋)」ないしは「高島易断(高嶋易断)」を含んだ名称を使用し、また、右各 名称とともに、「総本部」ないしは「本部」付して、易占業を行う者が、多く存在するよ うになった事実経緯に照らすと、「高島(高嶋)」ないし「高島易断(高嶋易断)」は、 易占業そのもの、ないし易占業の組織、団体を指す一般的な語であり、また、「総本部」 ないし「本部」も、組織、団体の中心的機関という一般的な語であり、いずれも、特別な 意味はないと解するのが相当である。  したがって、原告の使用に係る「高島易断総本部」及び「高島易断運命鑑定」は、いず れも、一般的意味を有する言葉である「高島易断」と「総本部」ないし「運命鑑定」とを 組み合わせたに過ぎないものであり、一般利用者に対して、その役務の出所を表示する機 能はないと解される。確かに、原告は、「高島易断総本部」の表示を使用して、新聞に折 込広告を入れたり、新聞、電話帳等に広告を掲載したりするなどの宣伝活動を行い、高島 暦を発行するなどし、また、雑誌等に原告の記事が掲載されたりしたことがあることは認 められるが(甲一二、一三、二〇、二三、二四、二七、二八、三三、三四、三五、三七、 乙二七)、「高島易断」が広く一般の易占業において使用されている経緯に照らすと、右 のような原告の営業活動をもっても、「高島易断総本部」が原告の周知な商品等表示であ ると解することは到底できない。  以上のとおりであるから、不正競争防止法に基づく原告の請求は、理由がない。 二 争点3(契約違反)について  前記第二、一2のとおり、被告は、原告に入社し、平成三年三月一八日及び同月二八日 付けで、原告(ただし、書面上は「高島易断総本部発真会」あて)に対し、原告を退社し た場合には、「高島易断」及び「高島」の号名は一切使用しない旨の本件誓約書を提出し たことが認められる。しかし、前記一のとおり、原告代表者が高島易断総本部発真会及び 原告を設立した当時、既に多数の易占業者が、その営業に「高島易断」を含む表示を使用 し、また、多くの易占業者が、「高島」の姓を使用していたこと、前記のとおり、「高島 易断」は、易占業ないし易占業の組織、団体を示す一般的な名称であると解されること等 の経緯に鑑みれば、「高島易断」及び「高島」を含む表示、姓を、一切(期限の定めもな く)使用しないと約したものと理解される本件誓約は、被告に対して著しく不合理な内容 の義務を負わせるものといえるから、原告、被告間の右名称不使用に関する右合意は、公 序良俗に反し、無効であると解すべきである。  よって、契約違反を理由とする原告の請求は理由がない。 三 以上のとおりであるから、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求はい ずれも理由がないので、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第二九部 裁判長裁判官 飯村 敏明    裁判官 八木貴美子    裁判官 石村 智