・大阪高判平成11年12月27日  エアガン部品営業誹謗事件:控訴審。  本件は、遊戯銃のカスタムパーツの製造・販売を業とする原告(株式会社シェリフ)が、 遊戯銃及びその部品の製造・販売等を業とする被告(株式会社ウエスタン・アームス)に 対し、被告が原告の取引先に対してした「原告部品はすべて不正競争防止法によって規制 される被告部品の形態模倣品である。」旨の口頭の告知行為(本件告知行為)が虚偽の事 実を内容としており、原告の営業上の信用を害するものであって、不正競争防止法2条1 項11号の不正競争行為(営業誹謗行為)に該当するとして、右行為の差止め、損害賠償、 および謝罪広告の掲載を求めた事案である。  原判決は、被告の営業誹謗行為を認め、被告に対し、損害賠償として151万953円 の支払を命じ、原告のその余の請求を棄却したところ、被告から控訴の申立て、原告から 附帯控訴の申立てがなされた。  本件控訴審判決は、「当裁判所も、被告代表者の本件告知行為は、営業誹謗行為として 本法2条1項11号の不正競争行為に該当し、不法行為を構成すると判断する」として、 控訴人の控訴を棄却し、被控訴人の付帯控訴にもとづいて、損害額を192万214円に 変更した。 (第一審:大阪地判) ■判決文 第三 当裁判所の判断 一 争点1(被告が行った本件告知行為は「虚偽の事実」を内容とするものか。)及び争点 2(被告は原告部品の販売を承諾していたか。また、被告の本件告知行為は禁反言の原則 に反するか。)について  当裁判所も、被告代表者の本件告知行為は、営業誹謗行為として本法二条一項一一号の 不正競争行為に該当し、不法行為を構成すると判断する。  その理由は、次に付加訂正するほか、原判決の理由説示一ないし三(原判決七〇頁六行 目から一三三頁九行目まで)のとおりであるから、これを引用する。  1 原判決の訂正等 (一) 原判決七二頁一行目と五行目の「乙22」をいずれも「乙21」と改める。 (二) 原判決八二頁一〇行目の「カスタムパーツ」の前に「被告エアガン用の」を、同八 三頁七行目の「事実を」の次に「含めて」を、それぞれ加える。 (三) 原判決八六頁八行目から九行目の「従前取引があったものが平成八年八月から取引 が途絶したこと(甲32)から推認することができるが」を「従前取引があったものが、大 友商会及び桑田商会と同時期の平成八年八月から取引が途絶したこと(甲32)から、右二 社に対するのと同様の告知行為があったことを推認することができるが」と改める。 (四) 原判決八七頁七行目から九四頁一〇行目まで((一)ないし(三)の部分)を次のとお り改める。  「(一) 本号が、他人の商品形態を模倣した商品の販売行為等を不正競争行為とする趣 旨は、先行者の商品形態を模倣する後行者は、先行者が商品開発に要した時間、費用や労 力を節約でき、しかも商品開発に伴うビジネスリスクを負うことも回避できる一方で、先 行者の市場先行のメリットが著しく損なわれることにより、後行者と先行者との間に競業 上著しい不公平が生じるが、このような行為は、他人が資金や労力を投下した成果を盗用 するものとして競争上不正な行為であるという点に基づくと解される。  したがって、まず、その形態が本号によって保護される「商品」であるためには、当該 商品が市場において独立の取引の対象となっているものであることを要するものと解され るところ、被告は、本体としての被告エアガンとは別に被告エアガン用の部品も販売して いることが認められ(乙1添付のパーツリスト、証人辻元の証言、弁論の全趣旨)、右の事 実によれば、被告部品は、本体たる被告エアガンとは別個に市場において取引の対象とな っているものと推認することができるから、被告部品は、そのそれぞれが本号の「商品」 に該当し、その形態は、被告エアガンとは別に保護の対象となるものといえる。 (二) 次に、本号は、「当該他人の商品と同種の商品(同種の商品がない場合にあっては、 当該他人の商品とその機能及び効用が同一又は類似の商品)が通常有する形態」(以下「同 種の商品が通常有する形態」という。)を保護の対象から除外しているが、その趣旨は、@ 同種の商品においてありふれた形態は、その開発に特段の費用や労力の投下及びリスク負 担が行われたわけではないのが通常である上に、A同種の商品が機能及び効用を発揮する ために不可避的に採らざるを得ない形態までも特定の者に専用させることは、機能や効用 自体を特定の者に専用させることとなり、かえって同種の商品間における発展的な競争を 阻害するということに基づくものと解される。  したがって、「同種の商品が通常有する形態」とは、同種の商品の場合であれ、機能及び 効用が同一又は類似の商品の場合であれ、それらの商品においてありふれた形態をいうも のと解されるが、何をもってありふれた形態というべきかについては、その商品の機能及 び効用をも考慮して判断すべきものと解される。そして、右趣旨に照らせば、当該商品が 全く新たな種類のものであって、同種の商品や、機能及び効用を同じくする商品がそれま で世の中に存在していなかった場合であっても、なお、当該商品の機能及び効用を発揮さ せるために不可避的に採らざるを得ない形態として、「同種の商品が通常有する形態」に該 当し、本号の保護の対象から除外される場合もあり得るものと解される。  また、ある商品の形態がすべて同種の商品が通常有する形態から構成されることはまれ であり、通常は、そのような形態を基礎として、独自に付加的ないしは付随的な要素を加 えて全体の形態が構成されているものであるところ、本号は、全体としての商品の形態を 保護するものであるから、当該商品の形態が「同種の商品が通常有する形態」に該当する かどうかは、右の付加的ないし付随的要素を加味した全体としての形態を基準として判断 すべきものと解するのが相当である。 (三) これを本件についてみると、後掲各証拠によれば、 (1) 遊戯銃の一種であるエアソフトガンは、ガスの圧力によりプラスチック弾を発射する ものであるが、需要者である愛好者からは実銃と可能な限り類似した外観や操作性が求め られる反面、その発射原理は実銃と全く異なるため、その開発においては、外観は実銃の モデルにできるだけ似せつつ、その内部には精度の高いガス発射機構を組み込まなければ ならないという制約を受けることとなること(乙13、弁論の全趣旨)、 (2) 被告は、エアソフトガンの発射原理について、マグナブローバックシステムという方 式を開発し、これによって初めて、エアソフトガンにおいて実銃と外見上同様の作動を実 現することが可能となり、この方式を実施するための部品構造を設計、開発して、被告エ アガンに採用したこと(乙12、乙13、弁論の全趣旨)、 (3) エアソフトガンの愛好者の間では、その楽しみ方として、その性能、機能や外観を変 えたり、改善したりすること(カスタムやチューンアップと呼ばれる。)が行われており、 その需要に応えるために、本体としてのエアソフトガンに対応したカスタム用の部品(カ スタムパーツ)が、エアガン本体の製造販売メーカーとは異なるメーカーから販売されて いるところ、本件で問題となっている原告部品は、被告エアソフトガン用のカスタムパー ツであること(甲20、弁論の全趣旨)、  以上の事実が認められる。  そうすると、前記のように、被告部品を被告エアガンとは別個の独立した「商品」とし て把握した場合、右(1)ないし(3)で認定した事実からすると、その「商品」としての機能 及び効用は、まさに被告エアガン中に組み込まれてその機構の一部を構成する点にあるの であって、エアソフトガンの愛好者は、そのような機能と効用を有する被告部品やカスタ ムパーツの中から自己が購入する部品を選択するものと認められるから、被告部品の形態 が「同種の商品が通常有する形態」であるか否かを検討するに当たっては、各被告部品に ついて、当該部品が被告エアガンの中で果たす機能や効用をも踏まえて、その部品の形態 がエアソフトガンの部品形態としてありふれた形態であるか否かを検討することが必要で ある。」 (五) 原判決九七頁八行目から同一〇〇頁一〇行目までの各「別紙図面6」(一六箇所)を いずれも「本判決添付別紙図面6」と改め、原判決別紙図面6を本判決別紙図面6に差し 替える。 (六) 原判決一〇四頁八行目の「あるが、」の次に「これを全体的に観察すると、別表L記 載のとおり、」を加える。 (七) 原判決一〇八頁四行目から一〇九頁三行目までを次のとおり改める。 「構成されていると解するのが相当である(この点について、被告は、被告チェンバーカ バーの形態は、被告がマグナブローバックシステムを実施するに当たって新規に考案した 形態である旨主張するが、本号は技術ないし考案そのものを保護する趣旨の規定ではない から、右の主張は失当である。)。  しかしながら、被告チェンバーカバーの形態を全体的に観察すると、別表M記載のとお り、その模様や色彩の点においてなお独自性を有する部分もあるから、その形態が全体と して同種の商品が通常有する形態であるとまではいえない。」 (八) 原判決一一〇頁二行目から一一二頁六行目までを次のとおり改める。  「これに対し、被告ハンマーの形状のうち、フルコックノッチの幅がハンマー幅の半分 である点及びリバウンドロックノッチが設けられている点は、実銃のハンマーにも従来の エアガンのハンマーにも見られない新規な点である。  そして、前記(1)で認定した事実によれば、被告エアガンにおけるハンマーの機能は、発 射準備完了時においてはシアーによってコックされ、発射時においてはコックが解除され てファイアリングピンを打撃する点にあるが、乙13によれば、フルコックノッチの幅がハ ンマー幅の半分である理由は、被告エアガンのシアーは、ディスコネクターと並列して配 置してあるために、その幅が実銃と異なり半分しかないことに対応したものであることが 認められる。そうすると、フルコックノッチの幅の点については、被告エアガンにおいて ハンマーがディスコネクターと抵触せずにシアーによってコックされるために工夫された 独自の形態というべきである。  また、乙13によれば、リバウンドロックノッチが設けられている理由は、被告エアガン を使用しないときにハンマーが誤ってファイアリングピンを押すことがないように、両者 が接触する直前の位置でハンマーを固定しておく点にあるものと認められるところ、リバ ウンドロックノッチは、非使用時に誤ってファイアリングピンを押さないようにするとい う技術的目的を達成するための手段であることからすると、その形状にはおのずと制約が あると考えられるが、被告の右リバウンドロックノッチは、その限られた選択の幅の中か ら具体的に選ばれた長さや幅・高さを有する形状であって、そこには被告独自の工夫に基 づく形態的特徴があると認めることができる。  以上によれば、被告ハンマーの形態は、基本的には同種の商品が通常有する形態である といえるが、右にみたフルコックノッチの幅及びリバウンドロックノッチの付設のほか、 その模様や色彩等独自性を有する部分もあるから、全体として同種の商品が通常有する形 態であるとはいえない。」 (九) 原判決一一四頁三行目から同頁末行までを次のとおり改める。 「したがって、被告フローティングバルブの形態は、右の限度で同種の商品が通常有する 形態であるということができるが、しかし、右の形態を子細に観察すると、バルブ(円盤 状の弁)部分の細かな形態やバルブの両側の部材の形状(三枚から成る羽根の数や長さな ど)、模様や色彩など独自に工夫した部分も存在するから、右の形態は、全体として同種の 商品が通常有する形態であるとまではいえない。  被告は、フローティングバルブがブローバックシステムを実現するために考案された全 く新たな部品であることを理由に、その形態すべてに独自性があると主張するが、全く新 たな商品であっても、その機能及び効能を発揮するために不可避的に採らざるを得ない形 態については、同法の保護が及ばないと解すべきことは前記のとおりである。」 (一〇) 原判決一一七頁三行目の「外観」の次に「、材質」を加え、同頁四行目の「形態」 を「形状」と改める。 (一一) 原判決一二三頁二行目の冒頭から四行目の「したものである。」までを「フルコッ クノッチの幅、リバウンドロックノッチの付設、模様や色彩の部分であるが、これらの点 を原告ハンマーと比較すると、前二者についてはほぼ同一であるといえるものの、後者の 模様や色彩の点において異なっており、また、このような相違は主として材質の相違を反 映したものである。」と改める。 (一二) 同一二六頁三行目末尾の「ま」から五行目末尾までを削る。 2 当審における主張について (一) 原告は、被告部品は被告エアガンの純正部品であるから本法二条一項三号の保護の 対象となり得ないと主張する。  しかし、前記1(四)((三)の項)でみたエアソフトガンの取引の実情に照らすと、被告 部品が被告エアガンの純正部品であるからといって、本法二条一項三号の保護の対象から 除外されることにはならないというべきである。 (二) 被告は、被告が銃刀法及び日本遊戯銃協同組合の自主規制による材料の制限等を遵 守しているにもかかわらず、原告がそのことを悪用し、形態模倣品を法外な価格で販売す ることは、本法が保護しようとする「公正競争」に該当せず、本法により保護すべき実質 的理由はないと主張する。  しかし、原告の右販売が許されるか否かは、それぞれの法律によって、それぞれの理由 から規制されているのであって、被告の主張する事由が存することをもって、本法上の要 件の解釈が左右されるとは考えられない。 二 争点4(賠償すべき損害の額及び謝罪広告の要否)について  当裁判所は、被告が原告に対して賠償すべき損害の額は一九二万〇二一四円をもって相 当とし、また、謝罪広告を認めるまでの必要性及び相当性はないものと判断する。  その理由は、次に付加訂正するほか、原判決の理由説示五(原判決一三五頁一行目から 一四八頁二行目まで)のとおりであるから、これを引用する。 1 原判決一三五頁七行目の「被告エアガン」の前に「スプリングなどの若干の例外を除 き、」を加える。 2 原判決一三七頁四行目、同一四〇頁九行目、同一四一頁五行目・九行目(二箇所)、同 一四二頁一行目・六行目・九行目の各「別表P」の前に「本判決添付」を加え、原判決添 付別表Pを本判決添付別表Pと差し替える。 3 原判決一四〇頁一〇行目から一一行目にかけての「合計八七二万九三二四円」を「合 計八五三万九〇二四円」と、同一四二頁一〇行目から一一行目にかけての「一八万八九〇 〇円」を「一八万七九三三円」と、それぞれ改める。 4 原判決一四三頁七行目から同一四四頁三行目までを次のとおりに改める。  「(三) そこで、原告の得べかりし売上額を検討するに、前記のとおり、非模倣品全体 の得べかりし月間売上高は、一八万七九三三円であると認められるところ、原告が本件に おいて損害賠償の対象として請求しているのは、平成八年八月から平成一〇年一一月まで の二八か月間(なお、平成一〇年一一月二六日に原審判決が言い渡されたことを考えると、 少なくとも同月末日までは、本件告知行為の影響は継続していたと認められる。)であるか ら、この間の非模倣品全体の得べかりし売上高は、五二六万二一二四円から、前記仮処分 決定によって仮処分対象品が販売できなかった一か月分の売上高(本判決添付別表Pによ ると、一五万四二一七円であると認められる。)を控除した五一〇万七九〇七円であると認 められる。   (187,933×28−154,217=5,107,907)」 5 原判決一四六頁一〇行目の「五一万九五三円」を「七二万〇二一四円」と、同末行の 「(3,623,783×[1-0.859]=510,953)」を「(5,107,907×[1-0.859]=720,214)」と、それ ぞれ改める。 6 原判決一四七頁四行目の次に、改行して、「(七) 本件一、二審の弁護士費用として、 二〇万円を認めるのが相当である。」を加え、同五行目の「(七)」を「(八)」と、同六行目 の「一五一万九五三円」を「一九二万〇二一四円」と、それぞれ改める。 三 結 論  以上によると、原告の本件請求は、被告に対し、金一九二万〇二一四円及びその遅延損 害金の支払を求める限度で理由があるから、原判決を変更して、主文のとおり判決する。 大阪高等裁判所第八民事部 裁判長裁判官 鳥越 健治    裁判官 小原 卓雄