・東京地判平成12年1月17日判時1708号146頁  ポップ用書体不正競争事件。  原告(株式会社ポップ研究所)はポップ用書体を創作し、原告(株式会社ニィス)は、 原告ポップ研究所から許諾を受けて、右書体をもとにアウトラインフォント「NISーP OP書体」を開発した。被告ら(株式会社創英企画、株式会社ティーアールエスプランニ ング)は、右書体と同一もしくは類似した各ポップ用書体を制作・販売した。原告らは、 被告らに対し、右行為が不正競争防止法2条1項1号または不法行為に該当すると主張し て、被告ポップ文字を入力した各記憶媒体の製造、販売の禁止、および損害賠償を求めた 事案である。  判決は、「原告ポップ文字の形態上の特徴は、いずれも、原告ポップ文字のみに特有の 形態であるということはできないこと、仮に、個々の形態の組合せに独自性があったとし ても、原告ポップ文字を搭載した印刷関連機器の販売数及び宣伝等の状況に照らすと、そ のような組合せにおける独自性により、需要者に強い印象を与えることはないと解され、 そうすると、原告ポップ文字の形態上の特徴が、その特徴をもって、原告らの出所表示な いし商品等表示となり、かつ、その点が周知であったと解することはできない」などとし て、原告の請求をすべて棄却した。 ■争 点 1 原告ポップ文字の形態は、周知な商品等表示か。 2 被告ポップ文字は、原告ポップ文字と同一又は類似であり、かつ、出所等を混同する おそれがあるか。 3 被告らの行為は不法行為を構成するか。 4 原告らの被った損害額はいくらか。 ■判決文 第三 争点に対する判断 一 争点1(原告ポップ文字の周知商品表示性)について 1 前提となる事実、証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下のとおりの事実が認められ、 これを覆すに足りる証拠はない。 《中 略》 2 右に認定した事実を基礎として、原告ポップ文字の形態が、周知な商品等表示となっ たか否かについて検討する。  商品の形態は、必ずしも商品の出所を表示することを目的として選択されるものではな いが、商品の形態が他の商品と識別し得る独特の特徴を有し、かつ、商品の形態が、長期 間継続的かつ独占的に使用されるか、又は、短期間であっても商品形態について強力な宣 伝等が伴って使用されたような場合には、商品の形態が商品等表示として需要者の間で広 く認識されることがあり得る。そこで、右の観点から、原告ポップ文字について、そのよ うな事実があったといえるか否かを判断する。  前記1(一)記載のとおり、原告ら主張に係る原告ポップ文字の形態上の特徴は、いずれ も、原告ポップ文字のみに特有の形態であるということはできないこと、仮に、個々の形 態の組合せに独自性があったとしても、原告ポップ文字を搭載した印刷関連機器の販売数 及び宣伝等の状況に照らすと、そのような組合せにおける独自性により、需要者に強い印 象を与えることはないと解され、そうすると、原告ポップ文字の形態上の特徴が、その特 徴をもって、原告らの出所表示ないし商品等表示となり、かつ、その点が周知であったと 解することはできない。 以上のとおりであるから、その余の点を判断するまでもなく、原告らの不正競争防止法に 基づく請求は理由がない。 二 争点2(不法行為の成否)について  原告らは、原告ポップ研究所が発行した「POP文字」に掲載された各文字をトレーシ ングペーパーで引き写すことにより、原告ポップ文字を模倣し、被告ポップ文字を完成さ せ、これを「創英ポップ体1」の名称で、第三者に許諾して使用させたり、自ら販売した りした被告らの行為が、不法行為を構成する旨主張する。しかし、原告らの主張を前提と しても、(その主張に係る)被告らの行為が原告らの法的利益を侵害するものと解するこ とはできないので、原告らの主張は、それ自体失当であるのみならず、本件全証拠によっ ても、右主張に係る事実を認めることはできない。  よって、この点に関する原告らの請求は失当である。 三 したがって、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求は、いずれも理 由がない。 東京地方裁判所民事第二九部 裁判長裁判官 飯村 敏明    裁判官 八木貴美子    裁判官 石村 智