・東京高判平成12年1月18日判決速報298号9233  「ライバル日本史」セット事件:控訴審。  原告(Y.T.)は、平成六年、プラスマイナスギャラリーにおいて、水槽に満たした 水に光を透過させた美術作品(原告作品)を創作した。被告(日本放送協会)は、平成七 年四月ころから平成八年三月ころまで、毎週木曜日午後一〇時から午後一〇時三〇分にか けて放映されたNHK総合テレビの番組「ライバル日本史」のスタジオにおいて、水槽の 水に光を透過させたセット(被告セット)を制作した。  本件は、被告が放送番組においてセットを制作した行為が、原告の著作権を侵害すると 主張して、原告が被告に対し、損害賠償を請求した事案である。  原審判決は、原告と被告の著作物の類似性を否定するなど、原告の請求を棄却した。  本件控訴審判決は、「波紋様の光が物体及び壁面等に当てられているという抽象的な共 通性」は、「結局のところ具体的表現をする際に使用する手法ないし技法にすぎないもの というべきである。そして、右のような手法ないし技法は、それ自体では、思想又は感情 を表現したものということはできないから、著作権によって保護される対象とはならない」 と述べて、控訴を棄却した。 (第一審:東京地判平成11年7月23日) ■判決文 第三 当裁判所の判断  当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないと判断する。その理由は、次のとおり当審 における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは、原判決の事実及び理由「第三 争 点に対する判断」のとおりであるから、これを引用する。 (当審における控訴人の主張に対する判断) 一 控訴人作品と被控訴人セットとの類似性について  控訴人は、控訴人作品の属性のうち、例えば部屋の大きさや形の細部、オブジェの材質、 紗幕の配置の仕方、平面作品の図案等は、控訴人作品の本質的特徴ではないと主張する。 しかし、控訴人作品の右属性こそは、控訴人作品の具体的表現形態の特徴であって、これ が本質的特徴ではないということはできない。したがって、控訴人作品と被控訴人作品と は、これらの特徴について共通点がない以上、波紋様の光が物体及び壁面等に当てられて いるという抽象的な共通性を有するとしても、両者を類似するということはできない。  控訴人が控訴人作品の「本質的特徴」と主張するものは、結局のところ具体的表現をす る際に使用する手法ないし技法にすぎないものというべきである。そして、右のような手 法ないし技法は、それ自体では、思想又は感情を表現したものということはできないから、 著作権によって保護される対象とはならない。  そうである以上、控訴人が控訴人作品の「本質的特徴」と主張するものが、被控訴人セ ットに存在するとしても、被控訴人セットは、控訴人作品の著作権又は著作者人格権の侵 害となるものではない。 二 取材契約違反について  控訴人は、被控訴人との間で、右板垣担当の「おはよう日本」以外の番組で勝手に控訴 人作品を紹介したり、その取材結果を剽窃したりしないことを含む取材契約を締結したと 主張する。  右「取材結果を剽窃したりしない」との意味は、明確ではないけれども、これが、控訴 人が控訴人作品の「本質的特徴」と主張するところの手法ないし技法を使用しないという 趣旨であれば、右の趣旨を含む契約が締結されたことを認めるに足りる証拠はない。また、 板垣が、被控訴人から右の趣旨を含む契約を締結する代理権を与えられていたことを認め るに足りる証拠もない。  また、右「取材結果を剽窃したりしない」との意味が、控訴人作品の著作権又は著作者 人格権を侵害しないという趣旨であれば、被控訴人セットは控訴人作品の著作権又は著作 者人格権の侵害となるものではない以上、被控訴人に契約違反はないものといわなければ ならない。  なお、控訴人の主張が、被控訴人が「おはよう日本」以外の番組で控訴人作品を紹介し たとの主張を包含するものであるとしても、本件全証拠によっても、被控訴人が「おはよ う日本」以外の番組で控訴人作品を紹介したことを認めることはできない。 三 以上のとおりであるから、控訴人の主張は、採用することができない。 第四 結論  よって、本件控訴は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴 訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第六民事部 裁判長裁判官 山下 和明    裁判官 山田 知司    裁判官 宍戸 充