・東京地判平成12年1月26日判決速報298号9263  「だんご3兄弟」事件。  本件は、「だんご3兄弟」なる標章の使用を訴外株式会社バンダイおよび訴外株式会社 イングラムに許諾した被告(株式会社エヌエイチケイソフトウェア)の行為が、主位的に は、原告(有限会社ダンゴ)の有する商標権(「dango」の欧文字を横書きした文字 部分と、三つの円を横並びにして、その中心部分を線分で貫いた図形部分とからなる)を 侵害すると主張して、予備的には、原告のブランドイメージを保持する利益を侵害すると 主張して、原告が被告に対し、損害賠償の支払と、謝罪広告の掲載を請求した事案である。 なお、損害賠償は、一部請求である。  判決は、原告と被告の標章は類似しないなどとして、原告の請求をすべて棄却した。 ■争 点 1 被告各標章は、本件登録商標と類似するか。 2 被告の行為につき、原告のブランドイメージを保持する利益を侵害したことによる不 法行為が成立するか。 3 損害額はいくらか。 ■判決文 第三 争点に対する判断 一 争点1(被告各標章と本件登録商標との類否) 1 本件登録商標及び被告各標章の詳細は、以下のとおりである。 (一) 本件登録商標は、欧文字の「dango」を横書きした文字部分と、その下側に、 三つの白抜きの円(ただし、一番右側の円は、右半分に斜線が引かれている。)を、互い に間隔を置いて横に並べ、これらの中央を突き抜くように黒い直線が一本横に引かれた図 形部分とからなる。本件登録商標は、文字部分がローマ字で「だんご」と読むことができ、 また図形部分が三つ串に刺さった三つの団子を描いた図柄であると一般に理解される。本 件登録商標からは、「だんご」の称呼を生じ、「団子」の観念を生ずる。 (二) 被告標章一は、「だんご」の文字と「3兄弟」の文字を二段に横書きしたものであ り、その字体はデザイン化され、「3」の文字だけが白抜きとされ、また、「3兄弟」の 上部には「さんきょうだい」とルビが付されている。  被告標章二は、手書き風の三つの円が、右斜め上方に向かって互いに接して並べられ、 これらの中央を突き抜くように一本の黒い直線が描かれ、各円には、眉、目、鼻、口がほ ほえんでいるようにコミカルに描かれた特有の図形であり、顔の絵が描かれた団子三つが 串に刺さっている図形と一般に理解される。  被告標章三は、手書き風の三つの白抜きの円を、ほぼ上方に向かって、互いに接して並 べ、これらの中央を突き抜くように一本の白い線が描かれた図形部分と、その右側下方に 配された被告標章一と同一形状の文字部分とからなる。図形部分は、団子が三つ串に刺さ っている図柄と一般に理解される。 (三) 「だんご3兄弟」は、平成一一年一月に、NHK教育テレビの「おかあさんといっ しょ」の番組において、「一月の歌」として放送された歌曲であり、その後CD化され、 同年三月三日に発売が開始されると、同年四月五日までに、シングルとアルバム合計三〇 〇万枚近くも売れるヒット曲となった。被告標章一と被告標章二及びその動画は、右放送 及びCDの表紙等で使用され、右歌曲の題名ないしは特有の図柄として広く知られるに至 った(乙三ないし七)。 2 被告標章一と本件登録商標とを対比する。被告標章一は、デザイン化された独特の文 字からなるのに対し、本件登録商標は、欧文字の「dango」を横書きした文字部分と 図形の組合せであるので、外観において類似しない。また、被告標章一は、前記1(三)の とおり、テレビ番組及び歌曲がヒットした経緯に照らすと、「だんごさんきょうだい」の 称呼を生じ、テレビ番組の一部ないし歌曲の「だんご3兄弟」の観念を生じるのに対し、 本件登録商標は、前記のとおり「だんご」の称呼を生じ、「団子」の観念を生ずるので、 称呼及び観念において類似しない(なお、被告標章一と本件登録商標の文字部分のみを対 比しても、外観、称呼、観念のいずれにおいても類似しない。)。よって、被告標章一は 本件登録商標と類似しない。  次に、被告標章二と本件登録商標とを対比する。被告標章二は、手書き風の三つの団子 を連想させる円が、右斜め上方に向かって互いに接して並べられ、これらの中央を突き抜 くように串を連想させる一本の黒い直線が描かれ、各円には、眉、目、鼻、口がほほえん でいるように描かれた特有な図柄であるのに対し、本件登録商標は、三つの白抜きの円が、 互いに間隔を置いて横に並べられ、これらの中央を突き抜くように黒い直線が一本横に引 かれた図形と欧文字「dango」との組み合わせであるので、外観において類似しない。 また、被告標章二は、前記1(三)のとおり、「だんご3兄弟」の歌曲の特有な図柄として 広く知られている経緯に照らすと、被告標章二は、「だんごさんきょうだい」の称呼を生 じ、テレビ番組の一部ないし歌曲の「だんご3兄弟」の観念を生じるのに対し、本件登録 商標は、前記のとおり「だんご」の称呼を生じ、「団子」の観念を生ずるので、称呼及び 観念において類似しない(なお、被告標章二と本件登録商標の図形部分のみを対比しても、 外観、称呼、観念のいずれにおいても類似しない。)。よって、被告標章二は本件登録商 標と類似しない。  さらに、被告標章三と本件登録商標とを対比する。被告標章三は、手書き風の三つの白 抜きの団子を連想させる円が、ほぼ上方に向かって、互いに接して並べられ、これらの中 央を突き抜くように、串を連想させる一本の白い線が描かれた図形部分と、その右側下方 に配された被告標章一と同じ文字部分とからなるのに対し、本件登録商標は、欧文字の 「dango」を横書きした文字部分と図形の組合せであるので、外観において類似しな い。また、被告標章三は、前記のとおり、「だんごさんきょうだい」の称呼を生じ、テレ ビ番組の一部ないし歌曲の「だんご3兄弟」の観念を生じるのに対し、本件登録商標は、 前記のとおり「だんご」の称呼を生じ、「団子」の観念を生ずるので、称呼及び観念にお いて類似しない。よって、被告標章三は本件登録商標と類似しない。  以上のとおりであるので、本件商標権侵害を理由とする原告の請求は理由がない。 二 争点2(ブランドイメージを保持する利益の侵害による不法行為)について  前記一のとおり、被告各標章は本件登録商標と類似するとは認められないので、第三者 に対して被告各標章の使用を許諾する被告の行為が違法であると解することはできない。 本件全証拠によるも、被告の右許諾行為について、違法性を有する行為であると解するに 足りる事情は認められない。よって、被告の右許諾行為は不法行為を構成しない。  したがって、ブランドイメージを保持する利益を侵害したとの原告の主張は失当である。 三 以上のとおり、その余の点について判断するまでもなく、原告の本訴請求はいずれも 理由がない。主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第二九部 裁判長裁判官 飯村 敏明    裁判官 八木貴美子    裁判官 沖中 康人