・東京高判平成12年2月23日  人物イラスト事件:控訴審。  控訴人(原審原告・有限会社田代卓事務所)が、被控訴人(原審被告・アイク株式会社) の使用するイラストが、原告の著作権を侵害すると主張して求めた差止めおよび損害賠償 請求を棄却した原審が維持された。 (第一審:東京地判平成11年6月14日) ■判決文  理  由 一 当裁判所も、控訴人の本訴請求はいずれも理由がないものと判断する。  その理由は、当審における主張について、項を改めて説示するほか、原判決の「理由」 欄と同じであるから、これを引用する。 二 当審における主張について 1 本件キャラクターの著作物性について  控訴人は、本件キャラクターが、本件著作物目録に示された男の子と女の子の絵柄(原 告イラスト)のうち、それぞれ顔の部分を指しており、その創作性のある独自の表現の特 徴である前記@ないしEは、具体的表現であることが明らかである旨主張する。  しかしながら、田代の制作に係る原告イラスト自体が著作物であることは格別、そこに 表されたとされる表現上の特徴@ないしEにより構成される本件キャラクターについては、 原告イラストを含めて田代の制作した各人物イラストから抽出したとされる一般的・抽象 的概念であって、具体的表現そのものではなく、その特徴的表現の範囲内においても、各 人が様々な人物の顔を描くことが可能であることは明らかであり、これらが全て本件キャ ラクターとして控訴人の著作物に属するものと認めることができないことはいうまでもな いから、原判決が、本件キャラクターについて、「当該人物イラストから離れた抽象的概 念ないし画風というべきものであって、具体的表現そのものではなく、それ自体が思想又 は感情を創作的に表現したものということができない」(原判決九頁九〜一一行)と判断 したことに誤りはなく、控訴人の主張を採用することはできない。  また、控訴人は、「画風」が、一般的に絵の作風や作品の傾向のことをいうのに対し、 本件キャラクターは、人物の顔という一つの対象に集中しているから、原判決のいう「画 風」とは異なる旨主張する。  しかし、原判決は、前示のとおり、本件キャラクターとされる特徴@ないしEが具体的 表現から離れた抽象的概念である旨を説示するため「画風」との語を用いたものであり、 それが人物の顔に係わることを否定するものではないから、控訴人の主張は原判決を正当 に理解しないものであって、これを採用することはできない。 2 複製権侵害について  控訴人は、別件判決においても、そのキャラクターについての著作物性を否定しながら、 複製に該当するか否かの判断は、漫画の特定のこまに描かれた具体的表現と離れて行われ ており、それと同様に、被告イラストについても、本件キャラクターの複製に当たるかど うかの判断をすべきであると主張する。  しかしながら、控訴人主張の別件判決においては、一話完結形式の連載漫画における登 場人物のキャラクターとしての著作物性が否定されるとともに、著作権侵害は各完結した 漫画それぞれについて成立し得ると判示されたものであって、本件キャラクターに基づく 著作権侵害を主張するのみで原告イラスト自体の著作権を主張していない本件訴訟とは、 事案の内容を異にするものであるから、控訴人の主張は失当であり、これを採用する余地 はない。  また、控訴人は、専門学校の入校案内パンフレットのイメージキャラクターに関するコ ンペにおいて、控訴人が不採用となった理由の一つに、控訴人の作品が被控訴人のイメー ジキャラクター的な扱いとして広告に使用されたことが挙げられており、このことは被告 イラストが控訴人の作品を描いたものであることを知り得る事実を示すものである旨主張 する。  しかし、当該コンペの担当であった広告代理店から控訴人に宛てた書面(甲第五〇号証 の二)によっても、被告イラストを田代が制作したものと第三者が判断したことが明確に 認められるものではない上、仮に、被告イラストが控訴人の作品を描いたものであると認 識される場合があるとしても、そのことと本件キャラクター自体が抽象的概念であって具 体的表現ではないこととは別異の問題であるから、控訴人のこの点に関する主張も採用す ることはできない。 三 以上によれば、控訴人の本訴請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は正 当であって、控訴人の本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の 負担につき、民事訴訟法六一条、六七条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第一三民事部 裁判長裁判官 田中 康久    裁判官 石原 直樹    裁判官 清水 節