・東京地判平成12年2月25日  「大皿惣菜居酒屋遊」商標事件。  本件は、本件商標権「大皿惣菜居酒屋遊」を有する原告(日本レストランシステム株式 会社)が、被告標章「遊食市場」を使用して海鮮料理及び焼鳥等を提供する飲食店を経営 する被告(株式会社遊食綜合企画)に対し、被告標章の使用が本件商標権を侵害すると主 張して、前記第一の一ないし四のとおり被告標章の使用の差止等を求めるとともに、不法 行為による損害賠償を求めた事案である。  判決は、「本件商標と被告標章とは、外観、称呼及び観念がいずれも異なる」として、 原告の請求を棄却した。 ■判決文 第四 当裁判所の判断 一 争点一について 1 本件商標  本件商標は、別紙登録商標目録記載のとおり、黒色の長方形の中央に外周が八角形で内 周が円形の囲み枠とその内側の円を配し、その中央にやや崩した書体で他の文字よりも大 きい「遊」の文字と、円周に沿って、上側に「大皿惣菜」の文字を、下側に「居酒屋」の 文字を「遊」を囲むように横書きし、以上の囲み枠、円及び文字を赤みがかった茶色とし たものであり、文字、図形及び色彩を組み合せた商標である。  本件商標のうち、黒色の長方形の中央にある赤みがかった茶色の囲み枠の図形部分は、 その外観上の構成(色彩を含む。)及び「大皿惣菜」、「居酒屋」の文字から、これに接 する者をして、中央に「遊」の文字を配し、周囲に「大皿惣菜」及び「居酒屋」の文字を 配した大きな皿を連想させ、そのようなものとして記憶されるものと認められる。  したがって、本件商標は、図形、文字及び色彩の組み合わせ全体が、右のような文字を 配した大きな皿を連想、記憶させるものとして識別力を有するものと認められ、その構成 から「おおざらそうざい ゆう いざかや」の称呼を生ずるものと認められる。  なお、原告は、「大皿惣菜」及び「居酒屋」の部分は識別力がなく、本件商標の要部は 「遊」という文字部分であると主張する(前記第三の一1(一))が、証拠(乙七の一、二) によると、「遊」という名称を有する飲食店は多く存するものと認められるから、その文 字自体の識別力が高いとはいえない上、右認定のとおり、「遊」、「大皿惣菜」及び「居 酒屋」という各文字部分は、図形部分と組み合わされることにより、大皿の図案の一部に なっているものと認められるから、「遊」という文字部分のみが要部であるということは できず、原告の右主張は採用できない。 2 被告標章 (一) 被告標章は、別紙標章目録記載のとおり、有色の長方形の左半面下方に白抜きで正 方形の二重の囲み線を引き、その中の白抜きの正方形に「遊」の文字を大きく書き、長方 形の右半面に「遊」の文字よりやや小さく「食」と「市場」の各文字を二段に横書きし、 「場」の文字の上方に、更に小さく「海鮮。焼鳥処」の文字を縦書きし、その右に帆船の 図形を配したものである。  被告標章のうち、「海鮮。焼鳥処」の文字は他の文字に比べてかなり小さく書かれてい る上、前記第二の一2のとおり、被告標章が使用されている被告店舗は、海鮮料理及び焼 鳥等を提供する飲食店であるから、右文字は、被告店舗の業種を示すに過ぎないと認めら れる。また、帆船の図形も小さく描かれ、特に特徴のあるものとは認められない。  これに対し、「遊」、「食」、「市場」の各文字は大きく書かれ、これに接する者の注 意を惹くものと認められる。このうち、「遊」の文字は正方形の枠に囲まれており、「食」、 「市場」の各文字よりも幾分大きいが、「遊」の文字と「食」及び「市場」の各文字とは、 一連のものとして「遊食市場」と認識することを妨げるほど文字の大きさが異なるわけで はなく、この事実に、「遊」、「食」、「市場」の各文字の位置関係や「食市場」の部分 のみでは全く意味のない言葉であることを総合すると、「遊」、「食」、「市場」の各文 字は、一連のものとして「遊食市場」と認識されるものと認められる。さらに、証拠(乙 一の二ないし五)によると、被告店舗の入口上部には、すべて同じ大きさの文字及び書体 で書かれた「遊食市場」との大きな表示があり、また、入口横の壁面にある店舗の案内表 示にも、すべて同じ大きさの文字及び書体で書かれた「遊食市場」との表示が存すること が認められる。  以上の諸点を総合考慮すると、被告標章において識別力を有する要部は、「遊食市場」 と認識される文字部分であると認められ、これは、「ゆうしょくいちば」との称呼を生ず るものと認められる。  原告は、被告標章の要部は「遊」という文字部分であると主張する(前記第三の一1(一)) が、この主張を採用できないことは、右に述べたところから明らかである。 3 本件商標と被告標章との類否  右1、2を前提として本件商標と被告標章の要部を対比すると、両者は、右のとおり、 その外観及び称呼がともに大きく異なっている。また、本件商標は、文字を配した大きな 皿又は大きな皿で惣菜を出す居酒屋といった観念を生ずるのに対し、被告標章の「遊食市 場」は、「遊んで食べる市場」といった観念を生ずるものと認められるから、両者は、観 念においても異なる。  そうすると、本件商標と被告標章とは、外観、称呼及び観念がいずれも異なるから、類 似するものとは認められない。 二 以上の次第で、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも 理由がない。 東京地方裁判所民事第四七部 裁判長裁判官 森  義之    裁判官 榎戸 道也    裁判官 杜下 弘記