・東京高判平成12年3月29日  「こどもちゃれんじすてっぷ」事件:控訴審。  原告ら(控訴人)は、言語の著作物たる「誰でもひとりで転ばずに乗れるようになる自 転車練習法」の共同著作者である。被告ら(被控訴人ら:株式会社ベネッセコーポレーシ ョン、株式会社エヌエイチケイソフトウェア)は、「こどもちゃれんじすてっぷ」ビデオ (1997年10月号)を製作販売した。その際、被告ベネッセから委託を受けた被告エ ヌエイチケイにおいて、本件ビデオの製作を担当していた訴外工藤文恵は、本件著作物の 存在を知り、その著者に、本件ビデオの自転車に乗れるこつを教えるコーナーの監修を依 頼した。  原告は、契約にもとづく対価の請求、および不当利得請求をおこなったのに対し、原審 判決は請求を棄却した。  本件控訴審判決は、控訴を棄却した。 (第一審:東京地判平成11年9月17日) ■判決文 第三 当裁判所の判断 一 当裁判所も、控訴人らの本件請求は理由がないものと判断する。  その理由は、控訴人らの当審における主張に対し、次のとおり判断するほかは、原判決 事実及び理由欄の「第三 当裁判所の判断」の記載と同じであるから、これを引用する。 但し、原判決一五頁三行目に「菅原綾乃」とあるのを「菅原彩乃」に、二八頁八行目に 「ペダルを蹴って」とあるのを「ペダルを踏んで」に、それぞれ改める。 1 控訴人らの主張1について  前示(原判決一八頁八行目から二〇頁二行目まで)のとおり、原審証人菅原彩乃の証言 並びに同人及び小佐野宴子の各陳述書(丙第二、第三号証)の記載のほか、平成九年六月 九日に控訴人らと被告ベネッセの菅原及び小佐野との面談があってから後の、控訴人らと 被告ベネッセとの間のやりとりが、専ら、控訴人らにおいて本件著作物を被告ベネッセか ら出版することを再三再四申し入れ、被告ベネッセがこれに応じられない旨繰り返し返答 することに終始していて(原判決一五頁七行目から一六頁九行目、一七頁四行目から一〇 行目)、唐澤貴夫弁護士が、小山恵子こと控訴人美惠子の代理人として、被告ベネッセ宛 ての同年九月二六日付書面(丙第一六号証)によって著作権に関する契約の締結を求める までは、控訴人らと被告ベネッセとの間に、著作権使用料に関する申入れや返答があった 事実が認められないことに照らせば、控訴人らが、前示同年六月九日の菅原及び小佐野と の面談の際に、本件著作物の著作権使用料についての話をした旨の控訴人静雄の供述及び 控訴人らの陳述書(甲第七号証)の記載を、直ちに信用することはできない。  控訴人らは、控訴人静雄において、同年六月三日に原審代理人であった唐澤貴夫弁護士 と著作権に関する事柄を含めて打合わせをしており、著作権使用料に関する話を切り出さ なかったということはあり得ないと主張するが、仮に主張の内容の打合わせがあったとし ても、控訴人静雄の原審における供述及び控訴人らの陳述書(甲第七号証)の記載によれ ば、右打合わせは、同月四日の被告エヌエイチケイの工藤及び西田との面談に備えたもの であることが認められ、したがって、右打合わせがあったからといって、同月九日の菅原 及び小佐野との面談において、著作権使用料に関する話があったことが推認されるもので はない(なお、控訴人らが、同月四日の工藤及び西田との面談において、著作権使用料に 関する話をしたかどうかは、本件における控訴人らの請求と直接関係するものではない。)。  のみならず、仮に控訴人らと菅原及び小佐野との面談において、控訴人らが著作権使用 料に関する話に及んだとしても、被告ベネッセにおいて、本件著作物の利用につき相当額 の対価を支払うことを承諾し、控訴人らと被告ベネッセとの間にその旨の合意が成立した ことを認めるに足りる証拠はないから、控訴人らの被告ベネッセに対する右合意に基づく 請求は、いずれにせよ理由がない。 2 控訴人らの主張2について  本件著作物と本件コーナーの各内容を対比した結果に照らして、本件コーナーが本件著 作物の翻案に当たるものと認めることができないことは、前示(原判決二六頁五行目から 三一頁九行目)のとおりである。  控訴人らは、被告エヌエイチケイにおいて、本件著作物を入手するまでは本件コーナー の台本の作成に取りかかれず、また、本件著作物を参考にしてもまともな台本を作成でき ずに、本件著作物の著者自らが台本を完成させた旨主張し、あるいは本件著作物の自転車 練習法が誰にでも通用し、いかなる状況の設定にも対応するものである旨主張するが、本 件著作物と本件コーナーのそれぞれの内容が前示のとおりである以上、控訴人ら主張の事 実が仮に存在するとしても、本件コーナーが本件著作物の翻案に当たることを認めるまで には至らない。 二 以上によれば、原判決は正当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却する こととし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六一条、六五条一項本文、六七条一項本文を 適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第一三民事部 裁判長裁判官 田中 康久    裁判官 石原 直樹    裁判官 清水 節