・東京高判平成12年4月19日  共有著作権持分譲渡事件:控訴審。  本件は、株式会社イメージボックス(以下「イメージボックス」という。)の破産管財 人である原告が、イメージボックスが被告(アストロ・システム・ジャパン株式会社)と 持分各二分の一で共有していた本件著作物に関する著作権の共有持分を株式会社ピーエス ジーに譲渡しようとしたところ、共有者である被告が右譲渡に必要な同意(著作権法65 条1項)を拒んだため、原告が、被告に対し、同意を求めた事案であり、判決は、諸般の 事情を考慮したうえで、「被告が、原告からピーエスジーに対する破産者持分の譲渡につ いて同意を拒む正当な理由があるとは認められない」として、原告の請求を認容し、「被 告は、原告が株式会社ピーエスジーに対し、別紙目録記載の著作物に関する著作権のうち 二分の一の持分を譲渡することに同意せよ」という主文を言い渡した。  本件控訴審は、控訴棄却した。 (第一審:東京地判平成11年10月29日) ■判決文 第三 当裁判所の判断 一 当裁判所も、被控訴人の本件請求は理由があるものと判断する。  その理由は、控訴人の当審における主張に対し、次のとおり判断するほかは、原判決事 実及び理由欄の「第三 争点に対する判断」の記載と同じであるから、これを引用する。 1 控訴人の主張1について  共有著作権者が、その持分を譲渡する際に、他の共有者の同意を得るための努力をしな かったことが、他の共有者において、持分譲渡についての同意を拒否する正当な理由とな ることがあり得るとしても、そのような努力は、持分譲渡をしようとする共有著作権者に 一方的に求められるものではなく、具体的事情の下において、他の共有者にもこれに必要 な協力をすることが求められるものであり、持分譲渡をしようとする共有著作権者に要求 される努力の内容・程度は、他の共有者におけるこのような協力の有無・程度と相対的な 関係をもって定まるものと解するのが相当である。  しかして、本件において、控訴人は、誰に対し、あるいはどのような者に対し、破産者 持分が譲渡されるのかを知らされないまま、持分譲渡についての同意を求められたことを もって、被控訴人が、控訴人の同意を得るための努力をしたとはいえないとし、控訴人に は同意を拒否する正当な理由があると主張するところ、被控訴人が、平成一一年五月六日 に、控訴人に破産者持分譲渡についての同意を求めるに際して、その譲渡先がピーエスジ ーであることを知らせなかったことは、当事者間に争いがない。  しかしながら、前示争いのない事実(原判決三頁四行目から七行目まで)によれば、被 控訴人が、イメージボックスの破産管財人として、同破産財団に属する財産である破産者 持分を、できるだけ早期に換価する必要があることは明らかであるところ、前示(原判決 一〇頁八行目から一二頁七行目)の事実関係に照らせば、被控訴人は、その換価のための 譲渡の相手方を決定するに当たっては、控訴人を含む関係者に対し、平成一一年四月一九 日に破産者持分を買い受けるかどうかの問合せをし、さらに、控訴人に対して、同年五月 六日に破産者持分譲渡についての同意を求めた際に、控訴人が当該譲渡代金と同額で買い 受けるのであれば、売却する用意がある旨を併せて通知して、本件著作権の他の共有者で ある控訴人に破産者持分取得の機会を与え、その立場に配慮を示しているのに対し、控訴 人は、同年五月六日に右同意を求められた際、破産者持分の譲渡先を知ることが必要であ れば、被控訴人にそれを問い合わせることは容易であったと考えられるのに、かかる問合 せをしなかったのみならず、翌七日には、被控訴人に対し、イメージボックスの倒産によ って自己が単独著作権者となったこと、市場の混乱を収め、消費者に誤解を与えないため には著作権を分散させない必要があること等により、右同意をしないとの通知をしたもの であって、かかる控訴人の言動は、前示のような、被控訴人における破産者持分譲渡の必 要性や、被控訴人の示した配慮に対する理解を全く欠いており、客観的には不当な主張を 伴う理由によって、破産者持分の譲渡先が誰であるかを問わず、その譲渡に対する同意を すべて拒否することを明らかにしたものといわざるを得ない。そして、破産者持分の譲渡 についての、右のような被控訴人、控訴人双方に関する事由を考慮すれば、被控訴人が、 同年五月六日に、控訴人に破産者持分譲渡についての同意を求めるに際して、その譲渡先 がピーエスジーであることを控訴人に知らせなかったからといって、持分譲渡の必要性が ある被控訴人が、他の共有者である控訴人の同意を得るための努力をしなかったものとい うことができず、控訴人において持分譲渡についての同意を拒否する正当な理由がある場 合に当たるものとは、到底認めることができない。  したがって、控訴人の主張1は失当というべきである。 2 控訴人の主張2について  控訴人は、本件著作物の無断販売の防止や、販売価格の統一について、控訴人がピーエ スジーと共に行うことが困難であるから、控訴人には破産者持分譲渡についての同意を拒 否する正当な理由があると主張する。  しかしながら、控訴人がその困難性の根拠として挙げる事由のうち、ピーエスジーが、 被控訴人との間の破産者持分譲渡の協議について控訴人に知らせなかったことは当事者間 に争いがないが、前示(原判決一〇頁八行目から一二頁七行目)の事実関係によれば、ピ ーエスジーと被控訴人との間の破産者持分譲渡の協議は、被控訴人が控訴人を含む関係者 に対し、破産者持分を買い受けるかどうかの問合せをした際に、その回答期限とした平成 一一年四月二五日以降に開始されたものと推認されるところ、右時点において、破産者持 分を買い受ける機会があったにもかかわらず、既にそれを逸している控訴人に対し、ピー エスジーが、被控訴人との間で右協議がなされていることを知らせなかったとしても、そ れが控訴人に対する背信行為といえないことは、前示(原判決一四頁八行目から一五頁三 行目まで)のとおりである。  また、控訴人は、前示の困難性の根拠となる事由として、平成一一年六月一〇日に控訴 人代表者がピーエスジー代表者小林実に対し、本件著作権についての協議を求めたものの、 小林が、ピーエスジーと被控訴人との間の破産者持分の売買契約が既に効力を生じ、ピー エスジーが破産者持分を取得したかのような主張をしたために、協議ができなかったと主 張するが、かかる事実を認めることができないことも、前示(原判決一五頁四行目から一 六頁四行目まで)のとおりである。  控訴人は、さらに、前示の困難性の根拠となる事由として、原審での和解の協議におい て、ピーエスジーの申入れにより合意が成立しなかった旨主張するところ、甲第九号証及 び弁論の全趣旨によれば、右和解協議に利害関係人として加わったピーエスジーは、被控 訴人から控訴人の同意を得て取得した破産者持分を控訴人に譲渡したうえ、その後五年間 限り本件著作権の独占的利用許諾を受け、かつ、右譲渡代金と利用許諾料とを同額として 相殺する案(すなわち、実質的に、ピーエスジーが破産者持分を無償で控訴人に譲渡する 代償として、五年間の独占的利用権を無償で取得する案)に同意したことが認められ、そ うであれば、ピーエスジーが、右五年間の独占的利用許諾期間中は、控訴人による本件著 作物の販売についてもピーエスジーの右利用権に基づくことを申し入れたとしても、破産 者持分と控訴人の本件著作権の持分がともに二分の一であること等に照らして、格別、不 当であるとか、背信的である等ということはできず、和解の合意が成立しなかったことを ピーエスジーの責めに帰せしめることはできない。  右のとおり、本件著作物の無断販売の防止や、販売価格の統一について、控訴人がピー エスジーと共に行うことが困難である根拠として、控訴人が挙げる事由は、その存在が認 められないものであるか、又は、少なくともピーエスジーに責めを負わせるべき事由では なく、そうであれば、かかる事由を根拠とするような困難性は、控訴人が破産者持分譲渡 についての同意を拒否する正当な理由とはなり得ないものというべきである。 二 以上によれば、原判決は正当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却する こととし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六一条、六七条一項本文を適用して、主文の とおり判決する。 東京高等裁判所第一三民事部 裁判長裁判官 田中 康久    裁判官 石原 直樹    裁判官 清水  節