・東京高判平成12年5月30日  タウンページ・キャラクター事件:控訴審。  控訴棄却。 (第一審:東京地判平成11年12月21日) 第三 当裁判所の判断  当裁判所も、控訴人の本訴請求のうち、本件著作権侵害行為確認請求は不適法であるか ら却下を免れず、損害賠償請求は理由がないので棄却すべきであると考える。その理由は、 次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の事実及び理由の「第四 当裁判所の判断」欄 記載のとおりであるから、これを引用する。 一 著作権侵害行為確認請求について  原判決一一頁六行目の「特定されていないので、」の次に「原審において、」を加え、 七行目の「特定しないので、」を「特定せず、当審においてもこれを特定しないので、」 と訂正する。 二 損害賠償請求について 1 甲第七、第一二号証と弁論の全趣旨によれば、被控訴人が、控訴人主張の内容のコマ ーシャルすなわち被控訴人CM1及び同2を作成し、テレビで放送していたことが認めら れる。 2 被控訴人CM1について (一) 控訴人は、被控訴人CM1の上から一番目の枠が、控訴人漫画の二段目の中枠と、 キャラクターの配置や眉毛の形において類似する旨主張する。 しかしながら、被控訴人CM1の同枠では、キャラクターが一見横一列に並んでいるかの ように見える構図であるのに対し、控訴人漫画の同枠では、二体のキャラクターが一体の キャラクターの上方に位置していることが、一見して明白な構図であって、両者の間に類 似性は認められない。控訴人は三体のキャラクターのうち手前に一体が配置されている点 において共通性が認められると主張するが、複数のキャラクターのうち強調するものを前 方に配置することはよくある一般的な手法にすぎず、この程度のことが共通しているから といって、直ちに両者が類似しているとすることはできない。  また、後方右端のキャラクターの眉毛の形については、両者ともハの字を逆にした形を しているとはいえるものの、控訴人漫画の前記枠では、眉毛の角度が急で怒りの感情を表 現していると認められるのに対し、被控訴人CM1の前記枠では眉毛の角度がゆるやかで、 使命感を帯びた厳めしさを表現しているものと認められ、そこに怒りの感情を読みとるこ とはできないから、両者のキャラクターの表情は、大いに異なるというべきであり、これ らが類似しているとはいえない。また、眉毛の形によってキャラクターの感情を表現する ことはよくある一般的な手法であって、このような手法が共通しているからといって、直 ちに両者が類似しているとすることはできない。 (二) 控訴人は、被控訴人CM1の上から四番目の枠は、一番目の枠と合わせて見ると、 背景の本棚から本が飛び出すというアイディアを用いたものであると見ることができ、控 訴人漫画の一段目の左枠とアイディアが共通している旨主張する。しかし、被控訴人CM 1の四番目の枠と、一番目の枠とを対比しても、背景の本棚から本が飛び出したことが表 現されていると見ることはできないから、両者が類似しているとは認められない。 (三) 控訴人は、被控訴人CM1の上から三番目の枠が、三体のキャラクターが上下にず れた並び方において控訴人漫画の一段目の右枠と類似する旨主張するが、このような並び 方はキャラクターの配置としてはありふれたものであって、この程度のことが共通してい るからといって直ちに両者が類似しているとすることはできない。そして、控訴人漫画の 同枠では、キャラクターがいずれも正面を向いて別の相手を非難していることを表現して いるのにのに対し、被控訴人CM1の同枠では、手前のキャラクターが後ろを向いて後方 のキャラクターと話をしていることを表現しており、両者の表現は明らかに異なっている。 (四) 以上によれば、被控訴人CM1は、控訴人漫画と類似しているとは認められないか ら、控訴人のその余の主張につき検討を加えるまでもなく、被控訴人CM1が控訴人漫画 に依拠したものであるとの控訴人の主張は失当なことが明らかである。 3 被控訴人CM2について (一) 控訴人は、被控訴人CM2の上から二番目の枠が、控訴人漫画の一段目の右枠と、 キャラクターの配置や眉毛の形において類似する旨主張する。 しかしながら、被控訴人CM2の同枠では、キャラクターが一見横一列に並んだかのよう に見える構図であり、左端のキャラクターは後方を向いて他の二体と話し合っていること が伺われるのに対し、控訴人漫画の同枠では、キャラクターは横一列に並んでおらず、二 体のキャラクターが一体のキャラクターの上方に位置していることが一見して明白なうえ、 いずれのキャラクターも正面を向いて別の相手を非難していることを表現しており、両者 の間に類似性は認められない。 また、キャラクターの眉毛の形が類似しているとはいえないこと、そもそも、眉毛の形に よってキャラクターの感情を表現する手法が共通していることをもって、直ちに両者が類 似しているとすることができるものではないことは、前記2(一)で説示したところと同様 である。 (二) 控訴人は、被控訴人CM2の上から三番目の枠が控訴人漫画の二段目の左枠及び中 枠に依拠している旨主張する。しかしながら、控訴人漫画の前記左枠のキャラクター及び 中枠の手前の一体のキャラクターは、泣いた表情をして左手に筆記具を持ち、手前の原稿 用紙に文章を記入ないし記入しようとしているのに対し、被控訴人CM2の前記枠では、 手前の一体のキャラクターは、泣いた表情をしておらず、手に筆記具を持たずに手前の手 帳類を見ており、同手帳に何かを記入しようとするそぶりを全く見せていないことからす れば、控訴人漫画の前記各枠と被控訴人CM2の前記枠とは類似していないというべきで ある。控訴人は、控訴人漫画の二段目の中枠の手前のキャラクターと被控訴人CM2の上 から三番目の枠の手前のキャラクターとは口が丸形をしている点において共通している旨 主張するが、イラストや漫画でキャラクターの口を丸で表現することはよく用いられる一 般的な手法であるから、このような手法が共通しているからといって、これを両者が類似 していることの根拠とすることはできない。 このほか、控訴人は、控訴人漫画の二段目の中枠と被控訴人CM2の上から三番目の枠に つき、キャラクターの配置や眉毛の形が共通している旨主張するが、前記2(一)で説示し たところと同様の理由から、両者の間に類似性は認められないというべきである。 (三) 以上によれば、被控訴人CM2は、控訴人漫画と類似しているとは認められないか ら、控訴人のその余の主張につき検討を加えるまでもなく、被控訴人CM2が控訴人漫画 に依拠したものであるとの控訴人の主張は失当なことが明らかである。 4 被控訴人イラストの独創性に関する主張について  控訴人は、被控訴人イラストがコンピュータを用いて容易に作成できるもので独創性を 欠く旨主張するが、仮に被控訴人イラストが独創性を欠くものであったとしても、そのこ とが同イラストが控訴人漫画に依拠したとの結論に直ちに結びつくものではないから、右 主張は主張自体失当である。 第四 結論  よって、原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につ き民事訴訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。 裁判長裁判官 山下 和明    裁判官 宍戸 充    裁判官 阿部 正幸