・東京地判平成12年6月28日判時1713号115頁  リーバイスステッチ事件:第一審。  原告(リーバイ ストラウス アンド カンパニー)は、原告は、原告商品のバックポケ ット部分に、ステッチ(刺繍、針目の意味で用いる。)によって原告標章一および二を付 し、また、これを宣伝広告に使用するなどしており、他方、被告(株式会社エドウィン商 事)は、ジーンズのバックポケット部分に付した「サムシング」と呼ばれるジーンズを製 造販売しているところ、@別紙原告標章目録記載の各標章が原告の商品等表示として周知 ないし著名であるが、被告はこれと類似する別紙被告標章目録記載の各標章を付した商品 を販売し、また、右各標章を宣伝広告及び販促資材に使用しているので、原告の商品との 混同のおそれがある旨、およびA被告の右行為は原告の有する商標権の侵害に当たる旨を 主張して、被告に対し、不正競争防止法および商標権にもとづき、右行為の差止め等を求 めた。判決は、被告標章一、二についてのみ、不正競争防止法および商標法にもとづく差 止請求を認容した。 (控訴審:東京高判平成13年12月26日) ■争 点 1 原告標章一、二と被告標章一ないし四について(弓形ステッチ) 2 原告標章三、四と被告標章五について(501、505) 3 原告標章五と被告標章一、三のタブ部分及び被告標章六、七、一〇について(タブ) 4 原告標章六と被告標章八、九について(ハウスマークロゴ) 5 商標的使用 6 商標の類似性 ■判決文 第三 争点に対する判断 〔不正競争防止法に基づく請求〕 一 争点1(原告標章一、二と被告標章一ないし四)について 1 商品等表示性、著名性、周知性について  《中 略》  以上認定した事実によれば、原告標章一、二は、原告の商品又は営業表示として需要者 に広く認識され、周知となっているものと認められる。なお、右原告標章が、原告の商品 又は営業表示として、著名であるとまでは認めることはできない。  《中 略》 2 類似性 (一) 原告標章一、二と被告標章一、二を対比する。原告標章一、二と被告標章一、二と は、以下の点が共通する。すなわち、@ジーンズのバックポケットに付されたステッチで あること、A左右二つのアーチからなること、B左右二つのアーチは線対称であること、 Cそれぞれのアーチは、ほぼ平行な二本の曲線からなること、D二本の曲線は、両端部分 から中央部分に向かって、円弧を描くようにして次第に下降し、中心部で交差しているこ と等の点で共通する。右の共通点に照らすならば、両標章は、類似しているということが できる。  これに対し、被告は、原告標章一、二と被告標章一、二とは、@原告標章は、被告標章 と比べて、両端部分と中央部分との高低差が大きいこと、A原告標章は、二本の曲線が中 央部で互いに交差し、中央部にひし形の図形を形成しているのに対し、被告標章は、その ような図形がない等の点で相違する旨主張する。しかし、@、Aいずれの相違も僅かな点 にすぎず、前記の多くの共通点に照らして、前記結論を左右するものとはいえない。 (二) 原告標章一、二と被告標章三、四を対比する。原告標章一、二と被告標章三、四と は、以下の点が共通する。すなわち、@ジーンズのバックポケットに付されたステッチで あること、A左右二つのアーチからなること、Bそれぞれのアーチは二本の曲線からなる こと、C二本の曲線は、両端部分から中央部分に向かって、円弧を描くようにして次第に 下降し、中心部で交差していること等の点で共通する。  他方、両者は、以下の点で相違する。すなわち、@原告標章は、二本の曲線が平行であ るのに対し、被告標章は、両端部と中央部とでは、二本の曲線の距離が異なり、平行でな い、A原告標章は、左右二つのアーチが線対称であるのに対し、被告標章は、左右二つの アーチが線対称でない、B原告標章は、バックポケットの両端部分からステッチの中央部 にかけてほぼ下向きの曲線で構成されているのに対し、被告標章は、二つのアーチの一方 が、端部から中央部へ上方へ進んだ後、下方に進むという弓形曲線で構成されている点で 大きく相違する。  右のとおり、両者は、共通している点もあるが、重要な点において相違していることに 照らすと、両者は全体として類似しないというべきである。 3 混同  前記1、2のとおり、原告標章一、二は、原告の商品又は営業を表示するものとして相 当程度広く認識されていること、右原告標章と被告標章一、二とは、重要な点において多 く共通し、類似性が強いことが認められ、前記の認定事実に照らすならば、需要者が、原 告と被告の間で、商品又は営業を誤認混同したり、少なくとも被告標章一、二が付された 商品を製造販売する者が原告と何らかの資本関係、提携関係等を有するのではないかと誤 認混同するおそれがあると認められる。  これに対し、被告は、ジーンズの一般の販売形態、被告がある程度の期間被告標章一、 二を使用していること等から混同のおそれはない旨主張するが、原告標章一、二を強調し て展開した原告の宣伝広告活動等の状況に照らすならば、被告の主張する事情を考慮に入 れてもなお、前記の結論を左右するものとはいえない。 4 結論  以上のとおり、原告の請求中、不正競争防止法に基づき、被告標章一、二の使用の差止 めを求める部分は理由があるが、被告標章三、四の使用の差止めを求める部分は理由がな い。 二 争点2(原告標章三、四と被告標章五)について 1 原告標章三について (一) まず、商品等表示性、著名性、周知性を判断する。  《中 略》  以上認定した事実によれば、原告標章三は、原告の商品又は営業表示として需要者に広 く認識されており、周知となっているものと認められる。なお、右原告標章が、原告の商 品又は営業を示すものとして著名であるとまでは認めることはできない。 (二) そこで、進んで、両標章の類否について判断する。  前記のとおり、原告が原告標章三を永年使用することによって、「501」という数字 から構成される右標章は、原告の商品又は営業を示すものとして、特別な識別力が生じた ものと解することができる。他方、商取引において、特定の数字を特定人の独占的使用に ゆだねることに弊害があることは容易に推測できるところである。したがって、数字で構 成される標章について、特別な識別力が生じたとしても、その独占的使用を許すべき類似 の範囲は、厳格に解すべきであって、同一又は実質的に同一といえる範囲に限られるもの と解するのが相当である。このような観点から、原告標章三「501」と被告標章五「5 05」を対比すると、その外観、称呼、観念のいずれの点においても類似しないので、両 標章は非類似である。原告は、上二桁が共通するから両標章は類似する旨主張するが、右 主張は採用の限りでない。 2 原告標章四について  本件全証拠によっても、原告が、「505」という数字から構成される原告標章四につ いて、一般の製品番号とは異なり、特定の商品又は出所を示すものとして、継続的な宣伝 広告をした等の事実を認めることはできない。したがって、原告標章四は、原告の商品又 は営業を示す機能を有しない。したがって、原告標章四について、商品等表示性を獲得し たことを前提とする原告の主張は採用できない。 3 結論  以上のとおり、不正競争防止法に基づき、被告標章五の使用の差止めを求める部分は理 由がない。 三 争点3(原告標章五と被告標章一、三のタブ部分、被告標章六、七及び一〇)につい て 1 商品表示性、著名性、周知性について  《中 略》  以上認定した事実、原告が、タブの色彩を原告の商品等表示として強調するような宣伝 広告を格別実施していたものでないこと、被告及び第三者が一九六〇年ころから長期間に わたって、赤色のタブを継続的に使用し、原告のみが赤色ないしオレンジ色のタブを使用 してきたというような事情はないことに照らすならば、赤色ないしオレンジ色のタブの色 彩が、その色彩上の特徴の故に、原告の商品等表示として著名ないし周知であるというこ とはできない。したがって、原告標章五ー一は、原告の商品等表示には当たらない。  なお、原告標章五ー二ないし四には、「LEVI’S」又は「Levi’s」という原 告の通称が付されているから、全体として原告の著名な商品等表示であることは明らかで ある。 2 類似性について  前記のとおり、原告標章五ー二ないし四は、原告の商品等表示として著名かつ周知であ るが、赤色ないしオレンジ色のタブの色彩は、原告の商品等表示としての特徴部分である とはいえないことに照らし、その要部は、原告の通称として著名である「LEVI’S」 又は「Levi’s」との記載部分であるといえる。  そして、被告標章一、三のタブ部分、被告標章六、七及び一〇は、いずれも原告標章五 の二ないし四の要部を備えていないから、両者は類似しない。 3 結論  以上のとおり、不正競争防止法に基づき、被告標章一、三のタブ部分、被告標章六、七 及び一〇の使用の差止めを求める部分は理由がない。 四 争点4(原告標章六と被告標章八、九)について 1 商品等表示性、著名性、周知性について  証拠(甲一二ないし二二、二四ないし三一、三四、四二、四三、四五、五二、五四、五 六、五八、六〇、六三、六四、六六、六八、七〇、八〇、八一、八三、八九、九一、九二、 一〇二、一〇九、一一二ないし一二一、一二三ないし一二六、一二九、一三四、一五三、 一五五、一六二、一六八、一六九、一八五、一八七ないし一九一、一九三ないし二一四) 及び弁論の全趣旨によれば、原告は、遅くとも一九七一年以降継続的に、原告商品の宣伝 広告のために、原告標章六を積極的に使用してきたこと、その全体形状は、上部が水平の 直線、左右の辺が下方に進むにしたがって狭まった直線、下部が二個の円弧で構成され、 バックポケットに付けられたステッチ模様を連想させる独特の形からなること、原告標章 六には、原告の通称として著名である「Levi’s」の文字が表記されていることに照 らすと、原告標章六は、全体として原告の商品等表示として著名であるといえる。 2 類似性について  そこで、進んで、両標章の類否について判断する。  原告標章六と被告標章八、九とを対比すると、原告標章六の文字部分が「Levi’s」 であるのに対して、被告標章八、九の各文字部分はそれぞれ「NEW Vintage  505(三行書き)」、「NEW Vintage(二行書き)」、「NEW Vint age EDWIN(三行書き)」、「EDWIN」であり、両者は外観、称呼、観念の いずれの点においても類似しない。  のみならず、原告標章六と被告標章八、九について、文字部分を除く図形部分を比較し ても、両標章は類似しない。  すなわち、原告標章六と被告標章八を対比すると、@原告標章六は左右の辺が斜めであ るのに対し、被告標章八は垂直である、A原告標章六は左右の辺の長さが同一であるのに 対し、被告標章八は、左辺が短く右辺が長い、B原告標章六は、下部が二個の円弧からな るのに対し、被告標章八は、下部が三個の円弧からなる、C原告標章六は、円弧が正円の 一部であるのに対し、被告標章八は、円弧が右に傾いた楕円の一部である、D原告標章六 は、下部の頂点(左辺・右辺の下端を除く)が、左辺・右辺の下端を結ぶ直線上か内側に 位置するのに対し、被告標章八は、下部の頂点(左辺・右辺の下端を除く)が、左辺・右 辺の下端を結ぶ直線より外側に位置している等の相違点があり、全体として異なる印象を 与える。  また、原告標章六と被告標章九を対比すると、@原告標章六は、上辺の左右の頂点の角 度が、被告標章九の角度よりも大きい、A原告標章六は、左右下端の頂点の角度が鋭角で あるのに対し、被告標章九は、左右下端の頂点の角度が鈍角である、B原告標章六は、下 部に円弧が二つ並列配置されているのに対し、被告標章九は、下部に直線が二本配置され、 さらに、左右の辺及び下部の二本の直線で、アルファベットの「W」形状を形成している 等の相違点があり、全体として異なる印象を与える。 3 結論  以上のとおり、不正競争防止法に基づき、被告標章八、九の使用の差止めを求める部分 は理由がない。 〔商標権に基づく請求関係〕 五 争点5(商標的使用)について  商標法二条三項一号は、標章の使用を「商品又は商品の包装に標章を付する行為」とし ている。被告は、被告商品のバックポケット上にステッチにより被告標章一ないし四を付 しているから、およそ商品又は出所を表示する機能を果たしていないというような特段の 事情がない限り、被告が同標章を商標として使用しているといえるところ、本件において は、特段の事情の存在は窺われない。  これに対し、被告は、被告標章一ないし四を、専ら装飾的に使用しているので、商標と して使用していない旨主張する。しかし、前掲各証拠によれば、原告、被告も含めたジー ンズメーカーは、バックポケットのステッチをジーンズの自他識別機能を有するものとし て重視し、商品カタログや雑誌やテレビコマーシャル等において、ステッチが目立つよう な宣伝広告方法を工夫していること、被告も、ポケットのステッチによる標章につき登録 商標を有していることが認められ、そうすると、被告が被告標章一ないし四を、装飾的に のみ用いていないことは明らかであって、被告のこの点についての主張は採用できない。 六 争点6(商標の類似性)について  前記のとおり、@原告商標一、二と被告標章一、二は類似するが、他方、A原告商標一、 二と被告標章三、四、A原告商標三と被告標章五、B原告商標四と被告標章六、七、一〇、 C原告商標六と被告標章八、九は、いずれも類似しない。  結局、商標権に基づく請求は、原告商標一、二に基づき、被告標章一、二の使用の差止 めを求める部分のみ理由がある。 〔結論〕  以上のとおり、原告の請求のうち、不正競争防止法又は商標権に基づき、被告標章一、 二の使用の差止めを求める部分は理由があり、その余は理由がない。 裁判長裁判官 飯村 敏明    裁判官 石村  智