・東京地判平成12年7月12日  「アール・ジー・ビー・アドベンチャー」キャラクター事件:第一審。  本件は、原告(トニー・ウエイマン・クー)が被告(株式会社エーシーシープロダクシ ョン製作スタジオ)に対し、原告が被告会社において訴外(株式会社セガ・エンタープラ イゼス)のプレゼンテーション用ゲームソフト「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」のサブキ ャラクターとして作成した本件図画に係る著作権(複製権、翻案権)および著作者人格権 にもとづいて、本件図画を使用したアニメーション作品「アール・ジー・ビー・アドベン チャー」の頒布、頒布のための広告および展示の差止めおよび損害賠償の支払を請求した 事案である。原告は、中国(香港)国籍を有するデザイナーであるが、被告の下において、 デザイン画作成等の業務に従事したのち、平成八年六月六日付けで被告を退職した。  判決は、「被告は、原告に対し、デザイン作成について、個別的具体的な指示をし、そ の指示に従って、原告が作業をしていること等の事情を総合的に考慮すると、原告と被告 との間に締結された契約は、雇用契約であると解するのが相当である。以上によれば、本 件図画は原、被告間の雇用関係に基づいて作成されたというべきであるから、本件図画は 法人等の業務に従事する者が職務上作成したものというべきである」として、「前記認定 の事実に照らし、本件図画の作成は法人である被告の発意に基づくものであり、かつ、本 件図画は被告の法人名義の下に公表することが予定されているものであるといえる」とし て、原告の請求を棄却した。 (控訴審:東京高判平成12年11月9日、上告審:最判平成15年4月11日) ■争 点 1 本件図画は、原、被告間の雇用契約に基づいて、職務上作成されたか。 2 損害賠償額はいくらか。 ■判決文 一 争点1(雇用契約の成否等)について  《中 略》 2 右認定した事実を基礎に検討すると、以下のとおり、原告と被告との間に、平成五年 七月一五日ころ、雇用契約が締結されたと解することができる。すなわち、@被告の代表 者である菅谷は、原告と契約を締結するに当たって、あらかじめ勤務時間、給与等の諸条 件を説明し、原告もこれを了解しているが、その合意の内容は、雇用契約と解するのが合 理的であること、A被告から原告に対しては、原告がデザインを作成した出来高と関係な く、給与等の名目で毎月定額が支払われており、給与支払明細書が同時に交付され、また、 その後、雇用保険料及び所得税の源泉徴収がされているが、このような措置に対して、原 告は一切異議を述べたことはないことに照らすと、原告が支給を受けた金員の性質につい て、請負等の業務に対する対価と解する余地は全くないこと、B被告から原告に対し支給 された金額の多寡については、原告に対して賄い付きの下宿を提供していたこと、被告が 原告の日本式のアニメーションに関する技術習得の希望に沿って協力していた事情に照ら すと、給与として必ずしも低額とはいえないこと、C作業の状況をみると、就業に必要な 作業場所、道具についてはすべて被告が用意していること、被告は、原告に対し、デザイ ン作成について、個別的具体的な指示をし、その指示に従って、原告が作業をしているこ と等の事情を総合的に考慮すると、原告と被告との間に締結された契約は、雇用契約であ ると解するのが相当である。  以上によれば、本件図画は原、被告間の雇用関係に基づいて作成されたというべきであ るから、本件図画は法人等の業務に従事する者が職務上作成したものというべきである。  そして、前記認定の事実に照らし、本件図画の作成は法人である被告の発意に基づくも のであり、かつ、本件図画は被告の法人名義の下に公表することが予定されているもので あるといえる(なお、被告の就業規則中には、著作物の作成者に著作権を留保する旨の別 段の定めはなく、かえってその著作権を被告に帰属させる趣旨の定めがあることは前記認 定のとおりである。)。  そうすると、本件図画は、被告に著作権が帰属することになるから、原告に著作権が帰 属することを前提とする本件請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がない。 裁判長裁判官 飯村 敏明    裁判官 八木 貴美子    裁判官 石村 智