・東京地判平成12年7月14日判時1734号121頁  熱転写プリンタ実用新案事件。  原告(横河電機株式会社)は、熱転写プリンタに関する実用新案権を有する。被告 (カシオ計算機株式会社)は、補助参加人(アルプス電気株式会社)から熱転写プリン タを購入し、これを組み込んだワードプロセサを販売している。本件は、原告が、被告 に対し、被告の右ワードプロセサの販売行為が、右実用新案権を侵害すると主張して、 実施料相当額三億一五〇〇万円の不当利得の返還を請求し(甲事件)、補助参加人が、 原告に対し、「右実用新案権に係る考案は出願前に原告によって公然実施されているか ら、右実用新案権に基づく権利行使は権利濫用になる」などと主張して、右実用新案権 に基づく、原告の補助参加人に対する右熱転写プリンタの製造販売の差止め、損害賠償 及び不当利得返還を請求する権利の不存在確認を求めた(乙事件)事案である。  判決は、本件実用新案の出願前に製造された実機において、本件考案が実施されてお り、この実機が出願日前に市場において販売されていたものとし、実用新案に向こう理 由が存在することがあきらかであるとしたうえで、そのような実用新案権にもとづく請 求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たるとして、原告の請求を棄却し、補助 参加人の請求を認容した。 ■判決文 二1 実用新案の無効審決が確定する以前であっても、実用新案権侵害訴訟を審理する 裁判所は、実用新案に無効理由が存在することが明らかであるか否かについて判断する ことができると解すべきであり、審理の結果、当該実用新案に無効理由が存在すること が明らかであるときは、その実用新案権に基づく差止め、損害賠償等の請求は、特段の 事情がない限り、権利の濫用に当たり許されないと解するのが相当である。 2 前記一のとおり、本件実用新案は、原告が製造し、NECに対してOEM供給した 製品において、その出願前に公然実施されていたものであるから、本件実用新案には無 効理由が存在することが明らかである。  したがって、このような本件実用新案権に基づく差止め並びに損害賠償及び不当利得 返還の請求は、特段の事情がない限り、権利の濫用に当たり許されないところ、本件に おいては、特段の事情を認めるべき事実は認められない。