・東京地判平成12年8月29日  「ダリの世界」展カタログ事件:第一審  被告ら(財団法人ミモカ美術振興財団、株式会社松坂屋、株式会社近鉄百貨店、株式会 社伊勢丹、ガラ・サルバドール・ダリ財団、広島県)が「シュルレアリスムの巨匠展」「ダ リの世界」「ダリ美術館展」をそれぞれ開催したところ、原告(デマート・プロ・アルト ベ ー・ヴイ)は、本件契約によりダリの作品の著作権をすべて譲り受けたと主張して、被告 ガラ・サルバドール・ダリ財団に対して、(1)本件書籍(一)における本件絵画(一)の 複製および本件書籍(一)の頒布ならびに(2)本件書籍(一)における対象絵画の著作 権表示に関する損害賠償を求めるとともに、被告らに対して、著作権にもとづいて、@本 件書籍(二)における本件絵画(二)の複製およびA本件書籍(二)の頒布の差止めなら びに本件書籍(二)の廃棄を求め、さらに、右@およびAの行為に関する損害賠償を求め た事案である。  判決は、本件契約について、「本件契約は、信託契約ではなく、ダリの作品に関する著作 権を原告に対して時間的に一部譲渡する契約であると解するのが相当である」としたうえ で、複製による著作権侵害、知情頒布によるみなし侵害、頒布の機会および場所の提供に よる著作権侵害行為の幇助侵害を認定し、本件書籍の販売等の差止めおよび損害賠償の各 請求を認容した。 (控訴審:東京高判平成15年5月28日) ■争 点 1 対象絵画(本件絵画(一))及び本件絵画(二)の著作権者は誰か、原告は、被告らに 対して、対象絵画(本件絵画(一))及び本件絵画(二)の著作権を行使することができる か 2 被告らの著作権侵害行為の成否 3 損害の額等 ■判決文 第四 当裁判所の判断 一 ダリの著作物に関する我が国著作権法上の保護について  日本及びスペイン国は、いずれも文学的および美術的著作物の保護に関するベルヌ条約 パリ改正条約の締結国であるから、同条約三条(1)項a及び我が国の著作権法六条三号によ り、スペイン国民であったダリの著作物である本件絵画は、我が国の著作権法による保護 を受ける。 二 争点一について 1 証拠(甲一、二、四、甲六の一、二、乙二ないし四の各一ないし三)及び弁論の全趣 旨によると、以下の事実が認められる。  《中 略》 2 本件契約の法的性質、本件契約の終了の有無及び原告による著作権の行使について (一) 右1認定の事実によると、原告とダリとの間に、本件契約及び本件追加契約が成立 し、その効力を生じたものと認められる。  証拠(甲一、乙二の一ないし三)によると、本件契約当事者は、本件契約の準拠法をス ペイン法とすることに合意した(本件契約一〇条)ものと認められ、本件追加契約におい ても、この点は異なるところはないというべきである。 (二) そこで、本件契約の法的性質について検討する。 (1) 証拠(甲一、甲六の一、二、乙二、三の各一ないし三)及び弁論の全趣旨によると、 本件契約では、「著作者の権利の期間を定めた譲渡」(契約書表題)、「著作者の権利の期間 を定めた譲渡」(一条見出し)、「著作者の権利の譲渡の性質」(二条見出し)、「前条に定義、 記載された権利は・・・譲渡される。」(二条一項)、「譲渡期間」(三条見出し)、「暫定的に 譲渡された権利」(三条)、「譲渡の対価」(四条見出し)、「譲渡された権利にかかわる活動、 契約、交渉及び事柄」(五条一項)、「当該会社に譲渡された権利」(一一条二項)等、特に 限定を付さない「譲渡」(スペイン語で「CESION」)という用語が用いられているこ と、本件追加契約においても、本件契約に関して、「著作権の期間を限定した譲渡」である と表現されていること、これに対して、本件契約及び本件追加契約には、「信託」という用 語は、全く用いられていないこと、以上の事実が認められる。 (2) 右1(一)認定の本件契約三条の規定によると、本件契約の当事者は、本件契約は、当 事者が任意に解除することができないものであって、二〇〇四年五月一一日まで存続し、 ダリの作品の著作権は、契約期間満了時に、ダリ、ダリの相続人又は他の承継人に帰属す る旨を約定していたものと認められる。しかるところ、証拠(乙一の一ないし三)及び弁 論の全趣旨によると、右約定は、委託者による解除が認められないという点において、ス ペイン法における信託契約に関する理解と異なるものと認められる。そうすると、本件契 約の右約定は、本件契約が信託契約ではないことを示しているというべきである。 (3) 証拠(甲五、甲六の一、二、甲七、乙六ないし一一の各一ないし三、乙一六、一七) 及び弁論の全趣旨によると、スペイン国政府は、一九九一年(平成三年)ころまでは、原 告がダリの作品の著作権の譲受人であり、ダリの作品の著作権の利用については、原告の 事前の承認が必要である旨認めており、被告ダリ財団も同様の立場を採っていて、本件契 約が信託契約であるというような主張を全くしていなかったこと、ところが、スペイン国 政府は、一九九四年(平成六年)ころから、本件契約はダリの死亡によって終了し、ダリ の作品の著作権はスペイン国に帰属するとの立場を採るようになり、被告ダリ財団も、同 様の主張をするようになったこと、以上の事実が認められる。以上の事実によると、スペ イン国政府や被告ダリ財団は、もともと、原告がダリの作品の著作権の譲受人であること を認めており、本件契約が信託契約であるというような主張を全くしていなかったところ、 ある時期から、本件契約はダリの死亡によって終了したとの主張をするようになったこと が認められる。そのように主張が変化した理由については、本件全証拠によるも明らかで はない。 (4) 右1(一)認定のとおり、本件契約四条は、譲渡の対価について定めているところ、右 1(二)認定のとおり、本件追加契約一条は、「本件契約第四条は、いかなる場合にも、当該 権利の管理及び利用から生じる純収入全部の唯一の受益者が、ダリ氏又は被告ダリ財団で あると解釈されるものとする。」と規定している。  そして、右1(一)認定のとおり、本件契約四条二項は、譲渡の対価として、原告は、ダ リの作品について著作権を行使することによって得た純利益を、ダリの作品の研究紹介に 関連した活動に使用することに同意すると規定していること、右1(二)認定のとおり、本 件追加契約は、本件契約中の合意のいくつかの内容及び解釈を明確にするために締結され たものであることからすると、本件追加契約一条は、本件契約四条の右規定の趣旨を確認 したものと解される。そうすると、本件追加契約一条は、本件契約における譲渡の対価の 内容を確認したものと解されるから、同条から本件契約が信託契約であると認めることは できない。 (5) 以上の(1)ないし(4)で述べたところを総合すると、本件契約は、信託契約ではなく、 ダリの作品に関する著作権を原告に対して時間的に一部譲渡する契約であると解するのが 相当である。  なお、被告らは、各種法律意見書(甲六の一、二、甲八、乙一、九、一〇の各一ないし 三)を根拠として、本件契約の性質は信託契約である旨主張するが、右各法律意見書をも っても、右認定事実を覆すに足りるものということはできない。 (三) そうすると、原告は、時間的な制限があることを除けば、他に制限のない、ダリの 作品に関する著作権者であるから、被告らに対し、対象絵画及び本件絵画(二)を含むダリ の作品に関する著作権を行使することを妨げられることはないというべきである。また、 本件契約がダリの死亡により終了する理由はないから、本件契約がダリの死亡により終了 したということもできない。 (四) 被告らは、原告が被告ダリ財団に対して負っている各種義務に違反していることを 理由として、原告が本件契約に基づく自己の権利を主張するのは権利の濫用である旨主張 するが、右義務違反については、これを認めるに足りる的確な証拠はない(監査法人の臨 時報告書(乙二〇の一ないし三)が存するが、これのみでは、いまだ右義務違反を認める に足りる的確な証拠ということはできない。)。したがって、被告らの右主張は採用するこ とができない。 三 争点二について 1 本件巨匠展に関する被告ダリ財団の行為について (一) 前記第二の一3の事実に弁論の全趣旨を総合すると、北九州市は、平成一〇年一〇 月二三日から同年一一月二九日までの間、北九州市にある北九州市立美術館において、本 件巨匠展を開催したこと、北九州市は、本件絵画(一)を本件書籍(一)に複製掲載して、右 展覧会場で販売したこと、本件書籍(一)には、対象絵画について、原告及び被告ダリ財団 が著作権者である旨の記載がされていること、以上の事実が認められる。 (二) 原告は、被告ダリ財団は、原告が本件絵画(一)の著作権者であることを知りながら、 被告ダリ財団が本件絵画(一)の著作権者である旨述べて原告の許諾を得ないように教唆し、 北九州市をして、原告の許諾を得ずに、本件書籍(一)に本件絵画(一)を複製掲載させ、本 件書籍(一)を本件巨匠展の会場で販売させたと主張する。  確かに、被告ダリ財団が、北九州市に対して、本件絵画(一)の著作権者について、自己 の見解を述べるといったことがあったかもしれないが、さらに進んで、被告ダリ財団が、 北九州市に対して、本件絵画(一)について原告の許諾を得ることなく本件書籍(一)に複製 掲載するよう求め、北九州市をして、原告の許諾を得ることなく本件絵画(一)を本件書籍 (一)に複製掲載させたとまで認めるに足りる証拠はない。したがって、原告主張に係る教 唆の事実は、認めることができない。 (三) 原告は、被告ダリ財団は、原告が対象絵画の著作権者であることを知りながら、被 告ダリ財団が原告と並んで対象絵画に著作権を有する旨の虚偽の表示をするように教唆し、 北九州市をして、本件書籍(一)に、被告ダリ財団が原告と並んで対象絵画に著作権を有す る旨の虚偽の表示をさせたと主張する。  右(一)認定のとおり、本件書籍(一)には、対象絵画について原告と被告ダリ財団が著作 権を有する旨の記載があることが認められるところ、前記二で述べたところからすると、 右記載のうち被告ダリ財団に関する部分は真実に反する記載であると認められるが、この ような記載をしたからといって、そのことが原告の著作権を侵害するということはできな い。また、右記載は、被告ダリ財団のみならず原告も著作権者として記載されていること、 右記載によって原告が何らかの具体的な被害を被ったことを認めるに足りる証拠がないこ とからすると、右の記載をしたことが直ちに不法行為に当たるということはできず、その 他、右記載について不法行為の成立を認めるべき事情は認められない。さらに、被告ダリ 財団が原告と並んで対象絵画に著作権を有する旨の虚偽の表示をするように教唆した事実 を認めるに足りる証拠もない。 (四) したがって、本件巨匠展に関する被告ダリ財団に対する原告の請求は理由がない。 2 本件ダリ展における被告らの行為について (一) 前記第二の一4の事実に証拠(甲二、一三ないし三三、三七ないし三九、甲四〇、 四一の各一、二、甲四二の一ないし三、甲四三、丙二ないし四、丁一ないし三)及び弁論 の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められる。 (1) 本件書籍(二)は、被告ダリ財団が編集、製作、発行したものであって、本件書籍(二) には、本件絵画(二)が複製掲載されている。 (2) 被告ミモカ、被告松坂屋、被告近鉄百貨店、被告伊勢丹は、本件ダリ展の各会場にお いて、本件書籍(二)を、定価二二〇〇円で、被告ミモカは九八三冊、被告松坂屋は一九〇 四冊、被告近鉄百貨店は二六五六冊、被告伊勢丹は一万二五九〇冊それぞれ販売した。 山梨県立美術館協力会は、山梨県立美術館における本件ダリ展開催中、同会場において、 本件書籍(二)を、定価二二〇〇円で、八〇〇冊販売した。 被告ダリ財団は、広島県立美 術館における本件ダリ展開催中、同会場において、本件書籍(二)を、定価二二〇〇円で、 少なくとも二〇〇〇冊販売した。 (3) 平成九年九月五日、東京地方裁判所は、原告が、ダリの作品の著作権を有すると主張 して、朝日新聞社等に対し、損害賠償等を請求した事件(平成三年(ワ)第三六八二号事件。 以下「朝日新聞社事件」という。)において、本件契約は、著作権の時間的一部譲渡契約で あるとして、ダリの著作物について、原告に著作権が帰属する旨判示し、同判決は、一審 で確定した。 (4)@ 原告の代理人は、山梨県立美術館に対し、平成一一年三月一八日、原告がダリの作 品の著作権者であるので、ダリの作品を複製掲載した図録等を作成販売する場合には、原 告に対して許可申請をする必要があることを述べて、許可申請することを求めた通告書を 送付した。原告の代理人は、その中で、朝日新聞社事件の判決について言及している。  また、原告の代理人は、被告山梨県に対して、平成一一年四月八日、右通告書と同内容 の通告書を送付した。原告の代理人は、その中でも、朝日新聞社事件の判決について言及 している。  A 原告の代理人は、被告ミモカ、被告松坂屋、被告近鉄百貨店、被告伊勢丹、被告広 島県に対して、平成一一年五月六日、右@と同内容の通告書を送付した。原告の代理人は、 その中で、朝日新聞社事件の判決について言及している。  B 原告の代理人からの右通告に対し、被告ミモカ、被告松坂屋、被告近鉄百貨店、被 告伊勢丹、山梨県立美術館館長及び広島県立美術館館長は、ダリの作品の著作権に関する 問題については、原告と被告ダリ財団との問題であること、右の点に関しては、被告ダリ 財団又は被告ダリ財団の代理人に問い合わせ、協議されたい旨の回答書を送付した。 (5)@ 広島県立美術館は、平成七年一二月二〇日、原告の我が国における代理人である古 木弁護士に対して、ダリが一九三七年に著作した「ヴィーナスの夢」を同美術館開館準備 ニュースへ掲載するための許可手続を依頼した。  古木弁護士は、同年一二月二七日、原告から掲載の許諾があった旨の書面を広島県立美 術館宛に送付した。  A 広島県立美術館は、平成八年八月二二日及び平成九年一月二三日にも、右著作物に 関し、古木弁護士に対して、原告の許可手続を依頼し、平成九年三月一四日には、古木弁 護士に対して、右著作物及びダリが一九三四年に著作した「マルドロールの歌」について、 同様の手続を依頼した。  原告は、右の各手続において、古木弁護士を通じて許諾をした。 (二) 被告ダリ財団らの行為について (1) 右(一)認定の事実によると、被告ダリ財団は、本件書籍(二)に本件絵画(二)を複製掲 載したこと、被告ミモカ、被告松坂屋、被告近鉄百貨店及び被告伊勢丹は、本件書籍(二) を本件ダリ展の各会場で頒布したこと、以上の事実が認められる。 (2) 右(一)(3)認定のとおり、ダリの作品に関して本件契約に基づく原告の著作権の有無 が争われた朝日新聞社事件において、原告が著作権者である旨の判決がされたことが認め られる。同事件と本件を比較すると、本件では、被告らは、本件契約が信託契約であるこ と、原告に義務違反があることを主張しているところ、証拠(甲二)によると、朝日新聞 社事件において、同事件の被告であった朝日新聞社らは、本件契約が委任契約であるとの 主張をしており、原告に義務違反があるとの主張はしていなかったことが認められる。し かし、本件契約を信託契約である主張するか、委任契約であると主張するかは、法的な評 価に関する主張であって、特に事実の点で異なる主張をしているものではなく、スペイン 民法の規定によって委託者の死亡により終了する旨の主張など、主張として重なる部分も 多い。また、被告らは、本件において、原告に義務違反があるとの主張をしているが、既 に述べたとおり、それを認めるに足りる証拠はほとんど提出されていない。そうすると、 朝日新聞社事件の判決を検討することによって、本件における被告らの主張が認められな いことを認識することができたというべきである。  そして、以上の事実に、右(一)(4)認定のとおり、被告山梨県、被告ミモカ、被告松坂屋、 被告近鉄百貨店、被告伊勢丹及び被告広島県は、それぞれ、本件ダリ展開催に先立って、 原告から、本件絵画(二)の著作権者は原告であり、本件絵画(二)の掲載については原告に 対する許諾手続が必要である旨の通告を受けており、その中では、朝日新聞社事件の判決 が言及されていたこと、右通告に対して、右被告らは、いずれも被告ダリ財団と協議され たい旨回答していたことの各事実と弁論の全趣旨を総合すると、被告ダリ財団は、原告が 本件絵画(二)の著作権者であることを知りながら、本件書籍(二)に本件絵画(二)を複製し て本件書籍(二)を作成し、本件絵画(二)に対する原告の著作権を侵害したものと認められ、 また、被告ミモカ、被告松坂屋、被告近鉄百貨店及び被告伊勢丹は、それぞれ、本件書籍(二) が原告の本件絵画(二)に対する著作権を侵害して作成されたものであることを知りながら、 本件書籍(二)を本件ダリ展の各会場において頒布したものと認められ、この行為は原告の 著作権を侵害するものとみなされる。 (三) 被告山梨県及び被告広島県の行為について (1) 右(一)認定の事実によると、山梨県立美術館協力会は、山梨県立美術館における本件 ダリ展の会場において、本件書籍(二)を頒布したこと、被告ダリ財団は、広島県立美術館 における本件ダリ展の会場において、本件書籍(二)を頒布したこと、以上の事実が認めら れる。 (2) 被告山梨県は、右(二)(2)で述べたところからすると、本件書籍(二)が原告の本件絵 画(二)に対する著作権を侵害して作成されたものであることを知っていたと認められる。 また、右(二)(2)で述べたところに、右(一)(5)認定のとおり、広島県立美術館は、本件ダ リ展より前に、原告に対して、ダリの作品に関する許諾手続を行っていたことを総合する と、被告広島県は、本件書籍(二)が原告の本件絵画(二)に対する著作権を侵害して作成さ れたものであることを知っていたものと認められる。  証拠(丁一)によると、山梨県立美術館協力会は、その事務所を同美術館内に置き、同 美術館と協力して活動している団体であるから、右のとおり、被告山梨県について、本件 書籍(二)が原告の本件絵画(二)に対する著作権を侵害して作成されたものであることを知 っていたものと認められる以上、山梨県立美術館協力会についても、本件書籍(二)が原告 の本件絵画(二)に対する著作権を侵害して作成されたものであることを知っていたものと 推認することができる。 (3) 被告山梨県及び被告広島県は、右(1)のとおり、自ら本件書籍(二)を頒布したもので はないが、証拠(甲一六、三八、四三)及び弁論の全趣旨によると、被告山梨県及び被告 広島県は、それぞれ本件ダリ展の主催者の一人であり、会場である山梨県立美術館は被告 山梨県が、広島県立美術館は被告広島県がそれぞれ管理する施設であると認められるから、 被告山梨県や被告広島県の許可なしには、本件ダリ展において本件書籍(二)を販売するこ とはできないものと考えられる。しかるところ、右のとおり、現実に本件書籍(二)が販売 されているのであって、この事実に右(2)で述べたところを総合すると、被告山梨県及び被 告広島県は、本件書籍(二)が原告の本件絵画(二)に対する著作権を侵害して作成されたも のであることを知りながら、本件ダリ展における本件書籍(二)の頒布を許し、頒布の機会 及び場所を提供したものと認められる。そうすると、被告山梨県及び被告広島県は、本件 ダリ展の会場における本件書籍(二)の頒布による著作権侵害行為を幇助したものというこ とができる。 四 争点三について 1 本件ダリ展に関する損害賠償請求について (一) 前記二2(一)(2)認定のとおり、被告ミモカ、被告松坂屋、被告近鉄百貨店、被告伊 勢丹は、本件ダリ展の各会場において、本件書籍(二)を、定価二二〇〇円で、被告ミモカ は九八三冊、被告松坂屋は一九〇四冊、被告近鉄百貨店は二六五六冊、被告伊勢丹は七〇 七四冊それぞれ販売したこと、山梨県立美術館協力会は、山梨県立美術館における本件ダ リ展の会場において、本件書籍(二)を、定価二二〇〇円で、八〇〇冊販売したこと、被告 ダリ財団は、広島県立美術館における本件ダリ展の会場において、本件書籍(二)を、定価 二二〇〇円で、少なくとも二〇〇〇冊販売したこと、以上の事実が認められる。  弁論の全趣旨によると、本件書籍(二)における本件絵画(二)の著作権使用料は、定価の 一〇パーセントが相当であると認められる。 (二) 以上によると、原告が被告らの著作権侵害行為により被った損害は、以下のとおり であると認められ、被告らは、原告に対し、右金額の範囲で損害賠償責任を負う。 (1) 被告山梨県関係の各賠償額(被告山梨県及び被告ダリ財団)       二二〇〇円×八〇〇冊×一〇パーセント=一七万六〇〇〇円 (2) 被告ミモカ関係の各賠償額(被告ミモカ及び被告ダリ財団)    二二〇〇円×九 八三冊×一〇パーセント=二一万六二六〇円 (3) 被告松坂屋関係の各賠償額(被告松坂屋及び被告ダリ財団)       二二〇〇円×一九〇四冊×一〇パーセント=四一万八八八〇円 (4) 被告近鉄百貨店関係の各賠償額(被告近鉄百貨店及び被告ダリ財団)       二二〇〇円×二六五六冊×一〇パーセント=五八万四三二〇円 (5) 被告伊勢丹関係の各賠償額(被告伊勢丹及び被告ダリ財団)       二二〇〇円×七〇四七冊×一〇パーセント=一五五万三四〇円 (6) 被告広島県関係の各賠償額(被告広島県及び被告ダリ財団)       二二〇〇円×二〇〇〇冊×一〇パーセント=四四万円  なお、右(1)ないし(6)については、右各被告らが、右各金額を不真正連帯債務として負 担するというべきである。 (三) 被告らは、本件追加契約書一条の規定を根拠として、原告に損害が発生することは ないと主張するが、前記二認定のとおり、本件契約は、ダリの作品に関する著作権を原告 に対して時間的に一部譲渡する契約であって、本件追加契約書一条の規定は、その譲渡の 対価の内容を確認したものと解されるから、著作権者である原告に損害が発生しないとい うことはできない。 (四) なお、遅延損害金の起算点は、不法行為の終わった日である各展覧会終了日とする のが相当であるので、原告主張の起算点が展覧会の終了日より後の場合は、原告主張の日 とし、展覧会の終了日より前の場合は、展覧会の終了日とする。 2 本件書籍(二)の複製頒布禁止及び廃棄請求について (一) 既に述べたとおり、被告ダリ財団は、原告が本件絵画(二)の著作権者であることを 知りながら、本件書籍(二)に本件絵画(二)を複製掲載したのであるから、同被告に対する 本件書籍(二)の複製頒布禁止及び廃棄請求は理由がある。 (二) 被告ミモカ、被告松坂屋、被告近鉄百貨店及び被告伊勢丹は、いずれも本件ダリ展 の各会場において、本件書籍(二)を頒布し、被告山梨県及び被告広島県は、本件ダリ展の 会場における本件書籍(二)の頒布を幇助したのであるが、これらの者が本件書籍(二)に本 件絵画(二)を複製掲載したとは認めらないし、また、右の頒布も、本件ダリ展開催期間中 に限られるものと解されるから、本件ダリ展が終了した現時点において、右被告らが、本 件書籍(二)を頒布するおそれがあるとは認められない。そうすると、右被告らに対する本 件書籍(二)の複製頒布禁止及び廃棄請求は理由がない。 五 結論  以上の次第で、原告の本件各請求は、主文掲記の範囲で理由がある。  東京地方裁判所民事第四七部 裁判長裁判官 森 義之    裁判官 内藤裕之    裁判官 杜下弘記