・東京地判平成12年8月31日  「写ルンです」事件:第一審  被告ら(ケーアンドジェー株式会社、株式会社バトリーノンノン)は、原告(富士写真 フイルム株式会社)がその有する特許権、実用新案権および意匠権の実施品として日本国 内および大韓民国で販売したレンズ付きフィルムユニット(いわゆる「使い捨てカメラ」) につき、これを購入した一般消費者が使用後に現像所に持ち込んだものをフィルムを詰め 替えるなどして再度使用ができるようにした製品を輸入、製造または販売している。本件 は、原告が、被告らによる右製品の輸入、製造および販売は原告の有する特許権、実用新 案権および意匠権を侵害するものであると主張して、輸入、製造及び販売等の差止めおよ び損害賠償を求めているのに対して、被告らが、特許権等の消尽などを主張して、これを 争った事案である。  判決は、「特許権者は、特許製品について販売先ないし使用地域から我が国を除外する 旨を譲受人との間で合意したことや右の旨を特許製品に明示したことに代えて、差止め等 を求める対象製品が、特許製品として既に効用を終えたものであること又は特許製品にお ける特許発明の本質的部分を構成する主要な部材を交換したものであることを主張立証す ることにより、当該対象製品について特許権を行使することができる」としたうえで、 「原告製品は、これを購入した消費者が内蔵されたフィルムの撮影を終えて、現像取次店 を経由して現像所に送り、現像所において撮影済みのフィルムが取り出された時点で、社 会通念上、その効用を終えたものというべきである。したがって、本件においては、原告 製品に実施されている特許権@、実用新案権AないしC及び意匠権DないしFについて、 国内消尽及び国際消尽の成立を妨げる事情が存在するというべきであるから、原告が被告 製品についてこれらの権利を行使することは許されるものである」として、差止めおよび 損害賠償請求を認容した。 (控訴審:東京高判平成13年3月22日) ■評釈等 桐原和典・CIPICジャーナル106号67頁(2000年) ■争 点 1 被告製品は、特許権@の技術的範囲に属するかどうか(特許権@に係る明細書の特許 請求の範囲1項及び2項の記載のうち、「撮影後にフィルムを取り出したのちは再使用で きないようにされたレンズ付きフィルムユニット」の構成を充足するかどうか。)。 2 原告製品の日本国内及び韓国における販売により本件諸権利は消尽したかどうか。 3 本件における原告の本件諸権利の行使は、権利濫用(民法一条三項)に当たるかどう か。 4 原告の被った損害額はいくらか。 ■判決文 第三 当裁判所の判断 一 争点1(被告製品の特許権@の充足性)について  特許権@に係る明細書の特許請求の範囲1項及び2項には、「撮影後にフィルムを取り 出したのちは再使用できないようにされたレンズ付きフィルムユニット」の記載があるが、 同明細書の詳細な説明には、従来技術の問題点を解決する試みの例として「レンズ付きフ ィルムユニットに三五ミリ幅のフィルム(一三五フィルム)を用いる試みがなされている。 また、この三五ミリ幅のフィルムとして、国際標準規格(ISO:一〇〇七ー一九七九年 版)で規定されたパトローネ付きのものを用いて、レンズ付きフィルムユニットを分解又 は破壊しなくては、これを取り出せないような構造にしておくと、ユーザーには再利用で きず、フィルム現像所では現行の現像処理システムを使用することができるレンズ付きフ ィルムユニットが考えられる。」との記載があり(特許公報(甲四の二)4欄39行〜5欄 5行)、また、本件特許発明の実施例の説明として、「裏蓋3は、本体基部2に超音波溶着 などによって固着され、ユーザーはこれを取り外すことができないようになっている。」と の記載がある(同特許公報8欄15行〜17行)。これらの記載に照らせば、特許請求の範囲 1項及び2項における「再使用できない」というのは、レンズ付きフィルムユニットを購 入した一般消費者によって再使用できないという意味である。  別紙目録(一)ないし(三)の記載によれば、被告製品は、前カバー10と裏カバー11が本体 9に前後から一部はフック13で連結された後に遮光性粘着テープで固着されるなどの構 成をとるものであって、一般消費者がフィルムを露光させることなく詰め替えることが困 難な構造となっているから、撮影後にフィルムを取り出した後は再利用できないものとい うべきである。したがって、被告製品は、特許請求の範囲1項及び2項における「撮影後 にフィルムを取り出したのちは再使用できないようにされたレンズ付きフィルムユニッ ト」という構成を充足するものであり、特許権@の発明の技術的範囲に属する。 二 争点2(国内消尽及び国際消尽の成否)について 1 国内消尽について  (1) 特許権者又は特許権者から許諾を受けた実施権者が我が国の国内において当該特 許発明に係る製品(以下「特許製品」という。)を譲渡した場合には、当該特許製品につい ては特許権はその目的を達したものとして消尽し、もはや特許権の効力は、当該特許製品 を使用し、譲渡し又は貸し渡す行為等には及ばないものというべきである(最高裁平成七 年(オ)第一九八八号同九年七月一日第三小法廷判決・民集第五一巻六号二二九九頁参照)。  (2) しかしながら、特許製品がその効用を終えた後においては、特許権者は、当該特許 製品について特許権を行使することが許されるものと解するのが相当である。けだし、@  一般の取引行為におけるのと同様、特許製品についても、譲受人が目的物につき特許権者 の権利行使を離れて自由に業として使用し再譲渡等をすることができる権利を取得するこ とを前提として、市場における取引行為が行われるものであるが、右にいう使用ないし再 譲渡等は、特許製品がその効用を果たしていることを前提とするものであり、年月の経過 に伴う部材の摩耗や成分の劣化等によりその効用を果たせなくなった場合にまで譲受人が 当該製品を使用ないし再譲渡することを想定しているものではないから、その効用を終え た後の特許製品に特許権の効力が及ぶと解しても、市場における商品の自由な流通を阻害 することにはならず、A 特許権者は、特許製品の譲渡に当たって、当該製品が効用を終 えるまでの間の使用ないし再譲渡等に対応する限度で特許発明の公開の対価を取得してい るものであるから、効用を終えた後の特許製品に特許権の効力が及ぶと解しても、特許権 者が二重に利得を得ることにはならず、他方、効用を終えた特許製品に加工等を施したも のが使用ないし再譲渡されるときには、特許製品の新たな需要の機会を奪い、特許権者を 害することとなるからである。  右にいう特許製品がその効用を終えた場合とは、年月の経過により特許製品の部材が物 理的に摩耗し、あるいはその成分が化学的に変化したなどの理由により当該製品の使用が 実際に不可能となった場合がその典型であるが、物理的には複数回の使用が可能であるに もかかわらず保健衛生上の観点から再度の使用が禁じられているもの(例えば、使い捨て 注射器や使い捨てコンタクトレンズ等)など、物理的にはなお使用が可能であっても一定 回数の使用により社会通念上効用を終えたものと評価される場合をも含むものと解される (物理的な摩耗や成分変化等により使用が不可能となった特許製品は、通常、廃棄される ので、特許法上の問題を生ずることはほとんど想定できないが、社会通念上効用を終えた にもかかわらず物理的には使用が可能な製品については、その再使用や再譲渡に対して、 特許権者からの権利行使が許されるかどうかが問題となり得る。)。このような場合におい て、特許製品が効用を終えるべき時期は、特許権者ないし特許製品の製造者・販売者の意 思により決せられるものではなく、当該製品の機能、構造、材質や、用途、使用形態、取 引の実情等の事情を総合考慮して判断されるべきものである。  (3) また、当該特許製品において特許発明の本質的部分を構成する主要な部材を取り除 き、これを新たな部材に交換した場合にも、特許権者は、当該製品について特許権を行使 することが許されるものと解するのが相当である。けだし、このような場合には、当該製 品は、もはや特許権者が譲渡した特許製品と同一の製品ということができないからである。 もっとも、特許発明を構成する部材であっても消耗品(例えば、電気機器における電池や フィルターなど)や製品全体と比べて耐用期間の短い一部の部材(例えば、電気機器にお ける電球や水中用機器における防水用パッキングなど)を交換すること、又は損傷を受け た一部の部材を交換することにより製品の修理を行うことによっては、いまだ当初の製品 との同一性は失われないものと解すべきである。  (4) 主張立証責任に関しては、特許権者による権利行使に対して、相手方は、抗弁事実 として、その対象となっている製品が特許権者等により譲渡された特許製品に由来するこ とを主張立証すれば、消尽を理由として特許権者の権利行使を免れることができ、これに 対して、特許権者は、再抗弁事実として、当該対象製品が、特許製品として既に効用を終 えたものであること又は特許製品における特許発明の本質的部分を構成する主要な部材を 交換したものであることを主張立証することにより、消尽の成立を否定することができる ものと解するのが相当である。 (4) そして、右の(1)ないし(3)に述べたところは、特許権のみならず、実用新案権及び意 匠権についても同様に当てはまるものである。 2 国際消尽について  我が国の特許権者又はこれと同視し得る者が国外において特許製品を譲渡した場合にお いては、特許権者は、譲受人に対しては、当該製品について販売先ないし使用地域から我 が国を除外する旨を譲受人との間で合意した場合を除き、譲受人から特許製品を譲り受け た第三者及びその後の転得者に対しては、譲受人との間で右の旨を合意した上特許製品に これを明確に表示した場合を除いて、当該製品について我が国において特許権を行使する ことは許されないものと解するのが相当である(前掲最高裁第三小法廷平成九年七月一日 判決)。しかしながら、右のような場面においても、当該特許製品がその効用を終え、ある いは特許製品において特許発明の本質的部分を構成する主要な部材が交換されたときには、 特許権者による権利行使は許されると解するのが相当である。けだし、@ 国外での経済 取引においても、譲受人は譲渡人が有していたすべての権利を取得することを前提として 取引行為が行われるものであり、その点は特許製品についても同様であるが、それは、特 許製品がその効用を果たしていることを前提とするものであるから、その効用を終えた後 の特許製品に特許権の効力が及ぶと解しても、国際取引における商品の自由な流通を阻害 することにはならず、A 譲受人又は譲受人から特許製品を譲り受けた第三者が、その効 用を終えた後の特許製品を我が国に輸入し、あるいは我が国において使用ないし譲渡する ことは、特許権者において当然に予想されるところではないというべきであり、また、B  特許発明の本質的部分を構成する主要な部材を交換した製品は、もはや特許権者が譲渡し た特許製品と同一の製品ということができないからである。  したがって、特許権者は、特許製品について販売先ないし使用地域から我が国を除外す る旨を譲受人との間で合意したことや右の旨を特許製品に明示したことに代えて、差止め 等を求める対象製品が、特許製品として既に効用を終えたものであること又は特許製品に おける特許発明の本質的部分を構成する主要な部材を交換したものであることを主張立証 することにより、当該対象製品について特許権を行使することができる。そして、右の点 は、特許権のみならず、実用新案権及び意匠権についても同様に当てはまるものである。 3 本件についての検討  (一) 本件においては、原告製品は特許権@、実用新案権AないしC及び意匠権Dない しFの実施品であるところ、被告バトリーノンノンは、原告が日本国内において販売した 原告製品について、これを一般消費者が使用後に現像所に持ち込んだものを購入し、フィ ルムを入れ替えるなどの作業を行わせたものを、被告製品として販売している。被告ケー アンドジェーは、原告が韓国において販売した原告製品について、これを韓国の一般消費 者が使用後に現像所に持ち込んだものを、韓国の詰替業者が購入してフィルムを入れ替え るなどの作業を行ったものを、右業者から輸入して、販売していた。したがって、被告ら の販売する被告製品は、いずれも原告が日本国内又は韓国において販売した原告製品に由 来するものである。また、韓国における原告製品の販売に際して、原告が譲受人との間で 当該製品の販売先ないし使用地域から我が国を除外する旨を合意しておらず、また、原告 製品にその旨を表示していないことは、当事者間に争いのないところであるから、前記の ような国内消尽及び国際消尽の成立を妨げる事情が認められない限り、原告は、被告製品 につき本件諸権利を行使することができないこととなる。  (二) この点について、原告は、(1) 原告製品は再利用できない「一回使用カメラ」で あり、消費者が内蔵されたフィルムの撮影を終えて原告製品を現像所に送り、現像所にお いてフィルムが取り出された段階でその寿命は終わっている、(2) 被告製品は、特許権@ 及び実用新案権AないしCの必須の構成要素であり、技術思想の根幹をなす未露光フィル ム等を新たに付与したものであるから、原告製品との同一性を欠く、(3) 意匠権Dないし Fの意匠は、いずれもカメラ本体とそれを覆う紙箱状の外装体に係るものであるところ、 被告製品は、新たに製造した外装体によりカメラ本体を覆わせているものであるから、意 匠を新たに形成させる行為を行ったものである、などと主張している。そこで、原告の右 主張の当否について検討する。  (三) 前記の争いのない事実、証拠(甲一一、一二)及び弁論の全趣旨を総合すれば、 次の事実が認められる。  (1) 原告製品は、フィルムユニットの前カバー10と裏カバー11をフィルムユニットの 本体9に前後から連結した上、本体9の底部と裏カバー11の底部を超音波により溶着して 接合するなどされており、原告製品に内蔵されたフィルムの撮影を終えた消費者がフィル ムユニット本体から撮影済みのフィルムを露光させることなく取り出すことは困難な構造 となっている。  (2) 原告製品は、撮影後に現像所においてフィルムを取り出す際にフック等の連結部材 が破壊される上、新たなフィルムを装填するために裏カバーを本体から外すとフック、超 音波溶着部分等が破壊されることから、原告製品のフィルムを入れ替えた上で裏カバーを 再び装着した製品は、遮光性の低下など、原告製品に比べて品質、性能が劣るものとなら ざるを得ない。  (3) 原告製品は、昭和六二年の発売当初から、いわゆる「使い捨てカメラ」として販売 されている。原告製品を購入した消費者は、内蔵されたフィルムの撮影を終えた後は、こ れをフィルムユニット本体ごと現像取次店に持ち込み、現像を経て完成された写真とネガ フィルムを受領するものであって、フィルムユニット本体は返還されない。このように、 撮影後、フィルムユニット本体が消費者の手元に残らないことは、原告製品が市場におい て広く受け入れられ、大量の製品が販売されるのに伴って(ちなみに、平成九年において は五〇〇〇万個を超える売り上げを記録している。)、一般消費者の間で広く認識されるに 至り、被告らが被告製品の販売を始めた平成六年の時点においては既に社会一般における 共通認識となっていた。  (四) 右認定事実によれば、原告製品は、これを購入した消費者が内蔵されたフィルム の撮影を終えて、現像取次店を経由して現像所に送り、現像所において撮影済みのフィル ムが取り出された時点で、社会通念上、その効用を終えたものというべきである。したが って、本件においては、原告製品に実施されている特許権@、実用新案権AないしC及び 意匠権DないしFについて、国内消尽及び国際消尽の成立を妨げる事情が存在するという べきであるから、原告が被告製品についてこれらの権利を行使することは許されるもので ある。  (五) また、本件諸権利のうち意匠権DないしFに関しては、前記の争いのない事実に よれば、フィルム詰替え作業において、原告製品において右各意匠権の意匠を構成する主 要な部分である紙カバーを外した上、自ら準備した紙カバー14を取り付けたというのであ るから、被告製品は、意匠の本質的部分を構成する主要な部材を交換したもので、原告製 品と同一の製品と評価することはできず、この点からも、国内消尽及び国際消尽の成立は 否定される。  (六) 被告らは、原告製品は現像所において撮影済みフィルムが抜き取られた後も商品 としての寿命が尽きるものではなく、被告らが原告製品の紙カバーを外して、自ら準備し た紙カバー14をかぶせる行為も原告の実施したデザインの修理であると主張するが、原告 製品は、現像所において撮影済みフィルムが抜き取られた時点において、社会通念上その 効用を終えたものであり、意匠権DないしFに関しては、被告らが原告製品の紙カバーを 外して自ら準備した紙カバー14をかぶせる行為により被告製品は原告製品と同一性を失 っていることは、前に説示したとおりである。被告らの主張は、採用できない。 三 争点3(権利濫用の成否)について  前記の争いのない事実、証拠(甲九、甲一二、乙一一)及び弁論の全趣旨を総合すれば、 被告らは、消費者による原告製品の使用後、現像所においてフィルムが取り出されて、そ の効用を終え、経済的にも無価値となったものを回収した上で、フィルムを入れ替えるな どして被告製品として販売しているものであり、確かに原告自身による原告製品のリサイ クルシステムが整備されていない場合には、被告らの行為は、資源の再利用及び廃棄物の 減量化という観点から社会的に評価し得るものである。しかし、右の点を考慮しても、被 告らによる被告製品の販売等の行為に対して、原告が本件諸権利を行使することが権利の 濫用として許されないと解することはできない。  また、被告らは、ゴミ問題が深刻化する現代社会にあって、原告は、原告製品の使用後 のゴミ処理・リサイクル処理の努力を怠りながら、その一方で、本件諸権利を行使して被 告らのリサイクル活動を禁じようとしていると主張するが、証拠(甲九、一二)及び弁論 の全趣旨によれば、原告は、原告製品についてリサイクルシステムを構築、運営している ものであって、使用済みの原告製品の多くを回収し、新たに原告製品を製造するための資 源として再利用していることが認められるものであって、これによれば、被告らの主張は その前提を欠き、採用できない。 四 争点4(原告の損害額)について (一)被告ケーアンドジェーが、平成六年六月から平成九年一二月までの間、被告製品(一) ないし(三)を合計一四万二六五二個販売し、その売上高が七三〇八万七三〇五円であるこ とは、争いがない。  証拠(乙一八ないし二〇、二二)及び弁論の全趣旨によれば、被告バトリーノンノンは、 平成七年一一月から平成九年一〇月まで、被告製品(二)、(三)を、合計五三万六七三八個 (内訳、通常の詰替えカメラ三三万一一九四個、白黒セピア詰替えカメラ二〇万五五四四 個)販売し、その売上高は二億九二八五万一二〇五円(内訳、通常の詰替えカメラ一億三 九六九万二五三〇円、白黒セピア詰替えカメラ一億五三一五万八六七五円)であることが 認められる。原告は、被告バトリーノンノンは準備書面(七)(平成一〇年一月二九日付け) において販売数量を六六万四八〇五個、売上高を三億〇五六七万一〇〇〇円と主張したか ら、後にこれと異なる主張をすることは自白の撤回に該当し許されないと主張するが、右 準備書面には、「別紙被告バトリーノンノンに関する計算表について説明する(ただし、平 成八年一一月から平成九年一〇月期の決算が未了のため金額の正確性には欠ける点ご考慮 されたい。また、訴状添付目録(二)及び(三)の物品以外の物品についての金額も若干含ま れている可能性もある。)。」と記載されているものであり、また、右準備書面において主張 された販売数量、売上高は証拠(乙一八ないし二〇)により認定された前記販売数量、売 上高と異なるものであるから、前記認定と異なる限度において、被告バトリーノンノンの 主張は、真実に反し、錯誤に基づいてされたものとして撤回を許されるというべきである。 (二)次に、右の販売数量、売上高を前提として原告の被った損害額につき検討するに、 まず、本件諸権利の実施料相当額については、前記の争いのない事実に証拠(発明協会研 究所編「実施料率〔第4版〕」。甲一六)及び弁論の全趣旨により、本件諸権利の内容とそ れが原告製品において占める役割、原告製品が社会的に大きな関心を集め、市場において 好評を博して多額の売上高を記録したこと、被告製品の販売数量、売上高等の事情を総合 考慮すれば、被告製品(一)ないし(三)についての本件諸権利を合わせたものに対する実施 料相当額は、各製品につき販売額の八パーセントと認めるのが相当である。なお、被告ら は、被告製品のうち白黒セピア詰替えカメラについては、被告らの独創が売上げに寄与し ていることを考慮すべきであると主張するが、白黒セピア詰替えカメラが通常の詰替えカ メラと比較して販売額が高額であるというのであれば、右実施料率の下で白黒セピア詰替 えカメラの販売により被告らの取得する利益もそれに応じて多額になるのであるから、通 常の詰替えカメラの場合と同一の実施料率を認定する妨げとなるものではない。また、本 件損害賠償請求に係る被告ケーアンドジェーの被告製品の販売期間(平成六年六月から平 成九年一二月まで)については、特許権@(平成六年一〇月七日登録)、実用新案権C(平 成六年六月六日登録)、意匠権Dのうち類似七の意匠(平成六年八月五日登録)、意匠権E (平成六年九月九日登録)及び意匠権F(平成六年一一月二二日登録)が、期間の一部に つき登録前となるが、本件諸権利はいずれもレンズ付きフィルムユニットに関するもので あって密接に関連する内容であり、このうち特許権@が本件諸権利の中心をなす権利とし て単独でも少なくとも販売額の五パーセントを実施料相当額と認め得るものであることか らすれば、実用新案権Cの登録後で特許権@の登録前においては、登録済みの権利を合わ せたものに対する実施料相当額は五パーセント(証拠(乙二二)によれば、実用新案権C の登録前に被告ケーアンドジェーが販売した被告製品はない。)、特許権@の登録後におい ては、登録済みの権利を合わせたものに対する実施料相当額は販売額の八パーセントと、 評価し得るものと認められる。そして、証拠(乙二二)によれば、被告ケーアンドジェー が特許権@の登録日である平成六年一〇月七日より前に販売した被告製品の販売額は三〇 六万三八四五円、同日以後に販売した被告製品の販売額は七〇〇二万三四六〇円と認めら れる。  そうすると、特許法一〇二条三項、実用新案法二九条三項及び意匠法三九条三項によれ ば、原告の被った損害額は、被告ケーアンドジェーについては、特許権@の登録前の販売 額三〇六万三八四五円に五パーセントを乗じた一五万三一九二円と特許権@の登録後の販 売額七〇〇二万三四六〇円に八パーセントを乗じた五六〇万一八七六円の合計額である五 七五万五〇六八円、被告バトリーノンノンについてはその販売合計額である二億九二八五 万一二〇五円に八パーセントを乗じた二三四二万八〇九六円と認められる。  原告は、特許法一〇二条一項、実用新案法二九条一項、意匠法三九条一項に基づく損害 の主張において、原告利益が原告製品一個当たり五〇円と主張し、特許法一〇二条二項、 実用新案法二九条二項、意匠法三九条二項に基づく損害の主張において、被告利益が被告 製品の販売額の一〇パーセントと主張するが、これらを認めるに足りる証拠はない。 (三)右によれば、原告の被告ケーアンドジェーに対する損害賠償請求は理由があり、被 告バトリーノンノンに対する損害賠償請求は主文第四項記載の限度で理由がある。 五 結論  また、被告ケーアンドジェーは、被告製品の輸入、販売は既にやめており、現在はこれ を行っていないと主張するが、この点については同被告による輸入、販売が全面的に中止 されたことを認めるに足りる証拠はなく、また、被告ケーアンドジェーが販売先小売店や 消費者に対して被告製品の販売を取りやめたことを通知したなどの事実の主張立証もされ ていないから、原告が被告ケーアンドジェーに対して被告製品の輸入、販売等の差止めを 求める利益は失われていないというべきである。  以上によれば、原告の被告ケーアンドジェーに対する請求はいずれも理由があり、被告 バトリーノンノンに対する請求は、主文第二項及び第四項記載の限度で理由がある。  よって、主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第四六部 裁判長裁判官 三村量一    裁判官 和久田道雄    裁判官 田中孝一