・東京高判平成12年11月28日  「ユーザー車検」商品等表示事件:控訴審。  控訴棄却。 (第一審:東京地判平成12年5月30日) ■判決文 第三 当裁判所の判断 一 当裁判所も、控訴人の本訴請求は理由がないと思料する。その理由は、次のとおり当 審における控訴人の主張に対する判断を付加するほかは、原判決の事実及び理由「第三  争点に対する判断」と同じであるから、これを引用する。 二 控訴人は、「ユーザー車検」は、控訴人の略称として周知の商品等表示である旨主張 する。 1 証拠(甲第一一、第一二号証)及び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、昭和五八年に、 それ以前には行われていなかった新しい車検手続の代行方式として、自動車の所有者が自 分で点検した車を預かり、車検場に持ち込むことだけを代行することによって、従来の自 動車整備業者よりも廉価に車検手続を行うという業務方法を案出し、この方式を「ユーザ ー車検代行」方式と名付け、控訴人自身が、これを行う企業名として、「ユーザー車検代 行会」と名乗って車検手続の代行業務を開始したこと、控訴人は、開業後間もなく、それ までになかった車検手続代行業務を行う業者として、テレビ、新聞、週刊誌等マスコミに 報道されたことが認められる。右事実によれば、控訴人の名称である「ユーザー車検代行 会」及び名称の一部である「ユーザー車検」の語は、開業当初の時点において、全国的に 一定の知名度を得たということができる。  しかしながら、控訴人がその業務を開始した昭和五八年から今日に至るまでの間のいず れの時点においても、「ユーザー車検」の語が控訴人の略称として周知となったことは、 本件全証拠によっても認めることができない。まず、証拠(乙第四号証の一ないし四)及 び弁論の全趣旨によれば、控訴人は、車検場に前記ユーザー車検方式による車検手続を受 け付ける窓口がなかったため、開業当初ころから、陸運支局等にその受付窓口の設置を働 きかけたこと、その結果、間もなく、一部地域を除き、全国各地の車検場に「ユーザー車 検」と記載された窓口が順次設けられるに至ったことが認められる。同窓口が、控訴人だ けのために設けられたものではなく、控訴人以外の車検代行業者による車検手続やユーザ ー自身による車検手続をも受け付けるためのものであることは明らかであり、このような 窓口が公務署に設けられたこと自体、「ユーザー車検」の語がもともと控訴人の独占を許 すべき性質のものでないと考えられていたことを示すものである。そして、現実にも、原 判決第三の一1で認定されているとおり、ユーザー車検の語は、「認定工場に車検の手続 を委託することなく、ユーザー自らが車検場と呼ばれる運輸省の陸運支局や自動車検査登 録事務所へ出向いて継続検査」を受けることを示す一般的名称として、事典や運輸省発行 のパンフレットにおける説明を含む種々の形で、広く用いられてきていることが明らかで ある。 2 控訴人は、今日に至るまで、「ユーザー車検」は控訴人の略称として周知である旨主 張し、証拠(甲第一、第三、第四号証、第一〇号証)によれば、控訴人は、前記開業後、 フランチャイズチェーンとしてグループ店を全国展開し、「ユーザー車検代行会」の名称 で宣伝広告をしていること、平成七年に車検に関するテレビ番組において、ユーザー車検 の創始者であるユーザー車検代行会代表として取材を受け、そのことが放映されたことが 認められる。しかしながら、前記のとおり「ユーザー車検」の語が一般的名称として種々 の形で広く用いられてきていることに照らすと、控訴人が「ユーザー車検代行」方式の創 始者であり、現在も右方式による業務を行っていることが一般に知られているとはいえて も、逆の方向の認識、すなわち、「ユーザー車検」といえば控訴人の略称であるとの認識 が一般人や車検業者において形成されたとまでは認めることができない。したがって、 「ユーザー車検」が控訴人の商品等表示として需要者の間に広く認識されているとはいえ ない。控訴人の主張を採用することはできない。 第四 結論  以上によれば、原判決は相当であって、本件控訴及び控訴人の当審で拡張した請求は、 いずれも理由がない。そこで、これらをいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につ き民事訴訟法六七条、六一条を適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第六民事部 裁判長裁判官 山下和明    裁判官 山田知司    裁判官 阿部正幸