・東京高判平成12年11月29日  「サンドおむすび牛焼肉」不正競争事件:控訴審。  本件は、控訴人が、被控訴人ら(株式会社セブンーイレブン・ジャパン、フジフーズ株 式会社)による「サンドおむすび牛焼肉」(具の牛焼肉をサンドイッチ状にはさんだおに ぎり、以下「本件商品」という。)の製造販売行為が、不正競争行為(不正競争防止法2 条1項1号および3号)に当たり、また、控訴人の著作権(複製権)を侵害する(当審で 追加した請求)と主張して、損害賠償を求めた事案である。  判決は、「控訴人商品アイデアは、控訴人の商品として商品化されて製造販売されたこ とはなく、単なるアイデアの域にとどまったものといわざるを得ないから、控訴人商品ア イデアは不正競争防止法二条一項一号にいう『商品等表示』及び同条一項三号にいう『他 人の商品』のいずれにも当たらないというべきである」とし、また著作物性も否定したう えで、原審を維持し控訴棄却した。 ■判決文 第三 当裁判所の判断 一 不正競争防止法に基づく請求について 1 前記第二の一1の事実と証拠(甲四、五、六の1、2、一六の1、2)及び弁論の全 趣旨を総合すれば、控訴人は、平成六年九月七日に本件考案につき特許出願をした後、平 成七年九月ころから、コンビニエンスストアのフランチャイズ本部の商品企画担当者らに 宛てて、控訴人商品アイデアを記載し、その商品化について検討を促す書面を送付したが、 自らは、控訴人商品アイデアを控訴人の商品として商品化し市場で流通に供されることを 目的として製造販売したことはないことが認められる。  そして、本件考案は右特許出願の実用新案登録出願への出願の変更に基づき実用新案登 録もされたが、後にこの実用新案登録を無効にすべき旨の審決が確定したことは前示のと おりである。 2 右認定の事実に照らすと、控訴人商品アイデアは、控訴人の商品として商品化されて 製造販売されたことはなく、単なるアイデアの域にとどまったものといわざるを得ないか ら、控訴人商品アイデアは不正競争防止法二条一項一号にいう「商品等表示」及び同条一 項三号にいう「他人の商品」のいずれにも当たらないというべきである。  控訴人は、控訴人商品アイデアについて、見本市に出展するなど販売を前提とした準備 行為を行い、その商品化を完了していた旨主張するが、右1の事実をもってしても販売を 前提とした準備行為が行われたとはいえないし、他に控訴人の右主張事実を認めるに足り る証拠はない。  したがって、被控訴人らによる本件商品の製造販売行為が、控訴人に対する関係で不正 競争防止法二条一項一号及び三号の不正競争行為となる余地はない。 3 よって、控訴人の不正競争防止法に基づく請求は、その余の点について判断するまで もなく理由がない。 二 著作権侵害に基づく請求(当審で追加した請求)について 1 控訴人は、本件公開公報の記載は著作物であって、被控訴人らによる本件商品の製造 販売行為は、その複製に当たる旨主張する。しかし、著作権法上の保護を受ける著作物と は、思想又は感情を創作的に表現したものであって、アイデアや着想がそれ自体として著 作権法の保護の対象となるものではない。したがって、仮に、本件公開公報の記載の著作 物性をひとまず前提とするとしても、その保護の対象となるのは、控訴人商品アイデアそ れ自体ではなく、そのようなアイデアないしアイデアに基づく物品を説明、図示した本件 公開公報の記載にその表現の形式及び内容に従って存在すべき創作的な表現の部分にほか ならない。ところが、本件商品は、原判決別紙物件目録一のとおりに特定される物品であ って、これ自体が、本件公開公報の記載にその表現の形式及び内容に従って存在すべき創 作的な表現の部分を有形的に再製したものと認めるに足りる証拠は全くないから、被控訴 人らによる本件商品の製造販売行為が本件公開公報の記載の複製に当たるということはで きず、控訴人の前記主張は採用することができない。 2 よって、控訴人の著作権侵害に基づく請求は、その余の点について判断するまでもな く理由がない。 三 結論  以上のとおり、控訴人の被控訴人らに対する不正競争防止法に基づく請求を棄却した原 判決は相当であって、控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、また、 控訴人の当審で追加した請求も棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法六 七条一項本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第一三民事部 裁判長裁判官 篠原勝美    裁判官 石原直樹    裁判官 宮坂昌利