・東京高判平成12年11月30日  アサバン印刷電話帳事件:控訴審  控訴棄却。  判決は、「控訴人電話帳(第一分冊)は、控訴人ら主張の内面的表現形式(発行方針) について検討しても、格別の創作性を認めることはできない。そのほか控訴人電話帳(第 一分冊)の表現の本(もと)となる発想に格別の創作性が存在することを認めさせる資料 は、本件全証拠によっても見出すことができない。そうすると、控訴人電話帳(第一分冊) の保護の範囲は、いわゆるデッドコピーを許さないというほどではないにせよ、狭いもの になるといわざるをえないのである。……控訴人電話帳(第一分冊)は、現実に具体的に 表現されたもの自体としては、創作性が認められ、著作権法による保護に値するというこ とができるものの、控訴人ら主張の内面的表現形式は、それ自体としては、著作権法によ る保護の対象とはなり得ないものという以外になく、また、その保護の範囲は、狭いもの とならざるを得ないのである」としたうえで、「被控訴人電話帳に現実に具体的に表現さ れたものから、控訴人電話帳(第一分冊)に現実に具体的に表現されたものを直接感得す ることができると認めることを可能とする資料は、本件全証拠を検討しても見出すことが できない。被控訴人電話帳に複製権侵害ないし翻案権侵害を認めることはできない」とし て原審を維持して控訴を棄却した。 (第一審:東京地判平成10年7月24日) ■判決文 第三 当裁判所の判断  当裁判所は、控訴人らの本訴請求は、当審における控訴人会社の新請求も含めて、いず れも理由がないものと判断する。その理由は、次のとおりである。 一 対象となる著作物について  著作権法二条一項一号が、「著作物」を「思想又は感情を創作的に表現したものであっ て、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」と規定していることからす れば、著作権法によって保護される「著作物」とは、「表現したもの」であること、言い 換えれば、著作者の思想又は感情が外部に認識できる形で現実に具体的な形で表現された ものであることを要するものというべきである。  本件において、控訴人電話帳の第二ないし第六分冊が、いまだ作成されていないことは 当事者間に争いがない。そうすると、控訴人電話帳の第二ないし第六分冊は、右の意味で 「表現したもの」となっていないのであるから、著作権法上の保護の対象とならないこと が明らかである。  控訴人らは、控訴人電話帳の第二ないし第六分冊が未完成であっても、その創作性がこ れを見る者にとって明らかな程度に達していれば、未完成部分も含めた控訴人電話帳の全 体が編集著作物として法的に保護されるべきである旨主張する。  しかしながら、著作権法によって保護されるのは、創作性そのものではなく、前記のと おり、「表現したもの」、すなわち、現実になされた具体的表現を通じて示された限りに おいての創作性であり、その意味では、著作権法によって保護されるのは、現実になされ た具体的な表現のみであるというべきである(具体的表現が存在するとき、それに対する 保護の範囲をどこまで拡張すべきか、保護の範囲を拡張するに当たり、何に対してどのよ うな役割を与えるべきかは、別の問題である。)。  控訴人電話帳の第二ないし第六分冊がいまだそのものとしては存在しておらず、したが って、右の意味で、思想又は感情を創作的に「表現したもの」となっていない以上、仮に、 近い将来完成される予定であり、どのような編集方針に基づいて編集され、どの区を掲載 対象とし、どのような内容となるのかなどが事前に示されていたとしても、控訴人ら主張 の電話帳としての具体的な表現が存在しないのであるから、著作権法上の保護を受ける余 地はないものといわざるを得ない。  控訴人らの主張は、採用できない。 二 創作性について 1 著作権法は、その二一条で「著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。」と 規定し、その二七条で「著作者は、その著作物を・・・若しくは変形し、・・・その他翻 案する権利を専有する。」と規定して、著作者に「著作物」を「複製する権利」(複製権) や変形などの方法で「翻案する権利」(翻案権)を与えている。  前述のとおり、著作権法によって保護されるのが、「表現したもの」すなわち現実にな された具体的な表現のみであることからすれば、思想又は感情自体に保護が及ぶことがあ り得ないのはもちろん、思想又は感情を創作的に表現するに当たって採用された手法や表 現を生み出す本(もと)になったアイデア(着想)も、それ自体としては保護の対象とは なり得ないものというべきである。そして、この理は、対象が編集著作物であっても同様 であると解すべきである。  すなわち、著作権法は、編集著作物について、「編集物(データベースに該当するもの を除く。以下同じ。)でその素材の選択又は配列によって創作性を有するものは、著作物 として保護する。」(一二条一項)と規定しているものの、編集物もまた、「著作物」の 一種にほかならず、そこでは、著作物性の根拠となる創作性の所在が素材の選択又は配列 に求められているというだけで、前述した「著作物」の意義に鑑みれば、たとい素材の選 択又は配列に関する「思想又は感情」あるいはその表現手法ないしアイデアに創作性があ ったとしても、それが「思想又は感情」あるいは表現手法ないしアイデア(以下、これら をまとめて「発想」ということがある。)の範囲にとどまる限りは、著作権法の保護を受 けるものではなく、素材の選択又は配列が現実のものとして具体的に表現されて、はじめ て、表現された限りにおいて、著作権法の保護の対象となるものと解すべきである。逆に、 編集著作物にあっては、その素材の選択又は配列に関する発想において創作性を有しなく ても、これに基づく現実の具体的な素材の選択又は配列に何らかの創作性が認められるな ら、その限りにおいて著作権法の保護を受け得ることになるのである。 2 証拠(甲第一号証の一ないし六、第一四号証、第一五号証、第一七号証)によれば、 控訴人電話帳(第一分冊)は、東京二三区のうち台東区、葛飾区、墨田区、江戸川区の四 区を一つのグループとしてまとめた職業別電話帳であり、基本的には、表表紙と裏表紙、 五〇音別職業索引、職業別電話番号掲載ページから成っており、その他に、会議メモのペ ージ、住所電話書抜欄のページ、求人広告欄のページなどが加えられたり、適宜、一般広 告及び割引券付き広告などが掲載されたりしていること、職業別電話番号掲載ページには、 右四区内の電話加入者の氏名又は名称と住所と電話番号が職業別、右四区の区の別に順に 掲載されていることが認められる(認定事実中には当事者間に争いがないものもある)。  右認定の事実によれば、控訴人水上は、その精神活動に基づいて、東京二三区のうち台 東区、葛飾区、墨田区、江戸川区の四区を選び、会議メモのページ、住所電話書抜欄のペ ージ、求人広告欄のページなどを加えつつ、また、一般広告のほか割引券付き広告をも掲 載しつつ、右四区内の電話加入者に係る控訴人電話帳(第一分冊)を作成したというので あるから、素材の選択又は配列を含めた電話帳全体に控訴人水上の思想又は感情が表現さ れているものということができ、この具体的な表現は、誰が行っても同じになるであろう といえるほどにありふれたものとはいえないから、控訴人電話帳(第一分冊)には、表現 されたものの全体として創作性が存在するものと認めるのが相当である。 3 控訴人らは、控訴人水上は、昭和四三年当時に電電公社から発行されていた職業別電 話帳における種々の問題の解決を、すなわち、検索上の不便という矛盾の解消、無駄な広 告料負担の軽減、大冊化による分厚い見にくいという弊害の解消を、実現しつつ、一冊の 電話帳で利用者の用が足りることを中心的な考え方として、買い物・仕入のガイドブック としての機能をよりよく実現するために、東京二三区の職業別電話帳を適切な近隣地域ご とに分冊すべく、また、右分冊するに当たって、分冊による掲載業種の偏りを防止すると の観点から、できるだけ多くの業種を網羅できるように工夫すべく、ターミナルを中心と した具体的な発行の方針を策定したうえ、控訴人電話帳を作成したとし、これこそが控訴 人電話帳の内面的表現形式(発行方針)というべきものであり、それ自体、著作権法によ る保護に値する旨主張する。 (一) しかしながら、控訴人ら主張の控訴人電話帳の内面的表現形式(発行方針)は、つ まるところ、電話帳を作成するに当たっての発想、すなわち、思想又は感情あるいは表現 手法ないしアイデア、というべきものであるから、それ自体としては、著作権法上の保護 の対象とはなり得ないものである。この発想が現実に具体的に表現され、表現されたもの のうちに著作者の創作性が表われているとき、その限りにおいて、それが著作権法上の保 護の対象となるものである。  したがって、控訴人らの右主張は、主張自体失当というべきである。 (二) 右のとおり、著作権法が保護の対象としているのが現実になされた具体的な表現の みであるとしても、現実になされた具体的な表現に創作性が認められる場合に、次に問題 となるのは当該著作物の保護の範囲であり、保護の範囲の広狭を検討するに当たって、本 来は著作権法上の保護の対象とならない発想、すなわち、思想又は感情あるいは表現手法 ないしアイデア自体の創作性が影響を及ぼすことがあることは、否定できないところであ る。すなわち、一般的にいって、発想に卓越した創作性が存在する場合には、保護の範囲 は広いものとなるであろうし、単に著作者の個性が表われているだけで、誰が行っても同 じになるであろうといえるほどにありふれたものとはいえないといった程度の創作性しか 認められない場合には、保護の範囲は狭いものとなり、ときにはいわゆるデッドコピーを 許さないという程度にとどまることもあり得るであろう。  そこで、本件について、控訴人ら主張の内面的表現形式(発行方針)にどの程度の創作 性があるのかについて検討する。 (1) まず、東京二三区の職業別電話帳を適切な近隣地域ごとに分冊するという発想につい て検討する。  証拠(乙第六号証の二ないし四、第七号証の一ないし三、第八号証の一ないし一〇、第 一八号証、第一九号証)によれば、電電公社は、昭和四〇年には、岡山県の五〇音別番号 簿及び職業別番号簿を、岡山市(周辺局を含む)、岡山県東部、岡山県西部の三つの地域 に区分して、地域ごとに分冊して発行し、また、山口県の職業別番号簿を、下関市、山口 県東部(広島県大竹市を含む)、山口県西部の三つの地域に区分して、地域ごとに分冊し て発行し、遅くとも昭和四三年には、大阪府の職業別番号簿を、大阪市、大阪府北部、大 阪府南部の三つの地域に区分して、地域ごとに分冊して発行したこと、電電公社は、岡山 県の五〇音別番号簿及び職業別番号簿を分冊にするに当たって、「電話がふえるにつれ、 ますます、厚く重くなってまいりますので、いっそう、引きやすく、見やすい電話番号簿 にするため、原則として、五十音別番号簿(白色ページ)と職業別番号簿(黄色ページ) を分冊し、さらに、それぞれをいくつかの地域に分けて発行することにいたしました。」 などと記載した案内文を添付したこと、同公社は、昭和四三年、大阪府の職業別番号簿の 分冊を頒布するに当たって、「電話番号簿の発行につきましては「正確で見やすく引きや すい番号簿」をモットーに鋭意改善を重ねておりますが、電信電話の長期拡充計画の進展 に伴い加入電話は飛躍的に増加しており、このため電話番号簿の発行部数、ページ数等が 急激にふえ、従来の発行方法では印刷製本が困難となり、発行経費も増大し、・・・これ らの問題を解消し今までどおり無料で配布できるよう、また電話番号調べにご不便となら ない範囲で地理的、経済的に関係の深い地域ごとに分冊して発行することにいたしました。」 などと記載した案内文を添付したこと、電電公社は、昭和四〇年、山口県の職業別番号簿 の分冊を頒布するに当たって、「電話番号簿は、これまで県単位に発行していましたが、 電話が増えるにつれて、ますます厚く重くなってまいりますので、いっそうひきやすく、 見やすいものにするため、五十音別と職業別に分冊し、さらに、それぞれをいくつかの地 域に分けて発行することにいたしました。」などと記載した案内文を添付したことが認め られる。  右認定の事実によれば、ますます厚く重くなっていく電話番号簿を薄く軽くし、ひきや すく見やすくするために、一県(府)の電話番号簿を複数の地域ごとに分冊するという発 想は、昭和四〇年以降、既に、電電公社において、山口県、岡山県、大阪府で採用してい たことが明らかである。  そうすると、東京二三区の職業別電話帳を適切な近隣地域ごとに分冊するという発想自 体は、電話帳に関するものとしてありふれた発想を単に東京二三区の職業別電話帳に適用 したというにすぎないから、これに格別の創作性を認めることはできない。 (2) 次に、買い物・仕入のガイドブックとしての機能という発想について検討する。  証拠(乙第一二号証)によれば、昭和四四年に電電公社によって発行された東京二三区 版の職業別電話帳には、「お買いもの・ご商売・レジャーのガイドブック」との見出しの 下に、「もくじ」の項目と「ひきかた」の項目が設けられ、「ひきかた」の項目の下に、 「お医者をさがすとき」、「運搬、引越しをたのむとき」、「家具を買いたいとき」、 「レジャーの予約・ご相談に」という例をあげて、それぞれの場合における電話帳の引き 方が記載されているうえ、「名前と職業をご存知のときは、50音別電話番号簿でひくよ りたやすくさがせて、お役にたちます。」、「広告は、あなたの注文先をさがすのに役だ ちます。」、「同じ職種の中では、掲載名を50音順に配列してあります。日常生活に直 接関係のある病院などの職種については、東京23区の区別(区名は50音順)に配列し てあります。」などという記載があることが認められる。  右認定の事実によれば、昭和四四年発行の電電公社の職業別電話番号簿が買い物・仕入 のガイドブックとしての機能を有していたことは明らかである。そして、このような機能 は、多かれ少なかれ、すべての職業別電話帳が備えているものである。したがって、たと い、控訴人電話帳(第一分冊)が買い物・仕入のガイドブックとしての機能を持たせると いう発想に基づいて作成されているとしても、その発想自体には、格別の創作性を見出す ことができないものといわざるを得ない。 (3) 控訴人らは、ターミナルを基準にそこから放射線状に伸びる鉄道線路に沿った周辺 三区ないし五区を組み合わせるという分冊の基準を採用して、東京二三区を近隣の有効広 告範囲の地域別にグループ化して、控訴人電話帳の分冊としているとして、右基準の採用 自体に創作性がある旨主張する。  しかしながら、控訴人電話帳(第一分冊)は、客観的には、近接する台東区、葛飾区、 墨田区、江戸川区の四区を一つの地域としているのみとみることの可能なものであって、 表現されたもの自体から、ターミナルを基準にそこから放射線状に伸びる鉄道線路に沿っ た周辺三区ないし五区を組み合わせるという分冊の基準をうかがうことはできない。また、 仮に、表現されたものから右基準をうかがうことができるとしても、同基準自体、分冊の 基準としてはごくありふれたものということができるから、その採用に格別の創作性があ るといえないことは明らかである。 (三) 以上、検討したところによれば、控訴人電話帳(第一分冊)は、控訴人ら主張の内 面的表現形式(発行方針)について検討しても、格別の創作性を認めることはできない。 そのほか控訴人電話帳(第一分冊)の表現の本(もと)となる発想に格別の創作性が存在 することを認めさせる資料は、本件全証拠によっても見出すことができない。  そうすると、控訴人電話帳(第一分冊)の保護の範囲は、いわゆるデッドコピーを許さ ないというほどではないにせよ、狭いものになるといわざるをえないのである。 (四) 控訴人らは、原判決の、他府県が先行して電話帳を分冊していたことを東京二三区 の電話帳に創作性がないことの根拠とする考え方は、著作権法上の「創作性」の判断基準 に、特許法上の「新規性」と同様の要件を持ち込むものであり、法解釈を誤っている旨主 張する。  確かに、電電公社が先行して他府県の電話帳を分冊していたことを東京二三区の電話帳 に創作性がないことの根拠とする考え方は、誤りである。  しかしながら、そもそも、控訴人電話帳の内面的表現形式(発行方針)自体について著 作権法による保護を求めようとする控訴人らの主張は、控訴人らの言い方を借りるならば、 著作権法上の「創作性」の判断基準に、特許法上の抽象的な「技術的思想」と同様の要件 を持ち込もうとするものであることは、前述のとおりである。原判決を攻撃する控訴人ら の右主張は、一方で、特許法の下におけると同じように発想自体の保護を求めつつ、他方 で、先行する電話帳の存在を指摘されるや、特許法下の保護と著作権法下の保護との相違 を強調し、特許法上の「新規性」と同様の要件を持ち込むことは許さないとして、これを 論難するものであって、論理が一貫しているとはいいがたく、失当である。  なお、あえて特許法と関連づけて述べるならば、前述したとおり、著作権法が保護の対 象とするのは「表現されたもの」に限られるのであるから、著作権法においては、保護の 対象となるのは、いわば、特許法における「実施例」に対応するもののみであり、この、 「実施例」に対応する現実になされた具体的表現を出発点として、その表現の本となって いる発想等を考慮しつつ、保護の範囲をどこまで拡張すべきかが判断されることになる、 というべきである。 4 結局のところ、控訴人電話帳(第一分冊)は、現実に具体的に表現されたもの自体と しては、創作性が認められ、著作権法による保護に値するということができるものの、控 訴人ら主張の内面的表現形式は、それ自体としては、著作権法による保護の対象とはなり 得ないものという以外になく、また、その保護の範囲は、狭いものとならざるを得ないの である。 三 複製権・翻案権侵害について 1 著作権法における著作物及び創作性について一及び二で述べたところを前提にすると、 著作権法にいう複製あるいは翻案とは、既存の著作物に依拠してこれと同一のものあるい は類似性のあるものを作製することであり、ここに類似性のあるものとは、「既存の著作 物の、著作者の思想又は感情を創作的に表現したものとしての創作性の認められる部分」 についての表現が共通し、表現が共通しているその結果として、当該作品から既存の著作 物を直接感得できると判断できるものであって、この判断には、表現の本となる発想自体 の創作性が影響を与え得る、と解すべきである。  これを本件についていえば、控訴人電話帳(第一分冊)は、前記認定のとおり、現実に 具体的に表現されたものの全体として著作物性を有するものであるから、控訴人電話帳 (第一分冊)と被控訴人電話帳とを、表現されたものの全体として対比したとき、具体的 に表現されたもの自体に共通性が認められ、その共通性の結果として後者から前者を直接 感得できると判断できる場合に、複製権侵害あるいは翻案権侵害が成立するものというべ きである。そして、その場合、前述のとおり、控訴人電話帳は、それを作成する上での発 想(控訴人らのいう内面的表現形式)に格別の創作性が認められず、その保護の範囲も狭 いものであることからすれば、たとい、両者を作成する上での発想(控訴人らのいう内面 的表現形式)に共通するところがあったとしても、そのことが、控訴人電話帳の著作物に ついての保護の範囲を考えるうえで、当該保護の範囲を拡張する方向に働くものとなるこ とは、あり得ないものというべきである。 2 証拠(乙第一〇号証の一ないし六)によれば、被控訴人電話帳は、東京二三区を、千 代田区、中央区、墨田区、江東区、江戸川区の地域(エリア1)、港区、品川区、目黒区、 大田区の地域(エリア2)、新宿区、渋谷区、世田谷区、中野区、杉並区の地域(エリア 3)、豊島区、文京区、北区、板橋区、練馬区の地域(エリア4)、台東区、荒川区、足 立区、葛飾区の地域(エリア5)に区分して、電話番号簿を五分冊にするとともに、エリ ア2に中央区、渋谷区を、エリア4に千代田区、新宿区を、エリア5に千代田区、中央区 を、それぞれ追加収録していることが認められる。 3 控訴人電話帳(第一分冊)と被控訴人電話帳とを対比すると、前者が、台東区、葛飾 区、墨田区、江戸川区を一つの地域としているのに対し、後者においては、エリア1が、 千代田区、中央区、墨田区、江東区、江戸川区を一つの地域とし、エリア5が、台東区、 荒川区、足立区、葛飾区を一つの地域として、これに千代田区、中央区が追加収録されて いるのであって、分冊の内容が大きく異なっており、それに伴い、電話番号簿の表現内容 も大きく相違していることが明らかである。  そして、このような状況を前提にして、なお、被控訴人電話帳に現実に具体的に表現さ れたものから、控訴人電話帳(第一分冊)に現実に具体的に表現されたものを直接感得す ることができると認めることを可能とする資料は、本件全証拠を検討しても見出すことが できない。被控訴人電話帳に複製権侵害ないし翻案権侵害を認めることはできない。 四 請求原因の追加について  前記の認定判断に照らすと、控訴人会社の新請求(損害及び損害額の追加等)は、すべ て、理由がないことが明らかである。 五 以上のとおり、控訴人らの請求は、当審における控訴人会社の新請求も含めて、いず れも理由がない。控訴人らの請求(新請求を除く。)を棄却した原判決は結局において相 当であって、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、あわせて、当審にお ける控訴人会社の新請求を棄却することとし、控訴費用の負担について、民事訴訟法六七 条、六一条、六五条を適用して、主文のとおり判決する。 東京高等裁判所第六民事部 裁判長裁判官 山下和明    裁判官 山田知司    裁判官 宍戸 充