・富山地判平成12年12月6日判時1734号3頁  「jaccs.co.jp」不正競争事件:第一審。  本件は、原告(株式会社ジャックス)が、「jaccs.co.jp」というドメインネームを使 用する被告(有限会社日本海パクト)に対し、不正競争防止法にもとづく差止め等を求め た事件である。判決文中の概要によれば、「本件は、インターネット上で『http://www.j accs.co.jp』というドメイン名を使用し、かつ、開設するホームページにおいて『JACCS』 の表示を用いて営業活動をする被告に対し、『JACCS』という営業表示を有する原告が、 被告による右ドメイン名の使用及びホームページ上での『JACCS』の表示の使用は、不正 競争行為(不正競争防止法2条1項1号、2号)に当たるとして、右ドメイン名の使用の 差止め及びホームページ上の営業活動における右表示の使用の差止めを求めている事案で ある」されている。  判決は、「ドメイン名がその登録者を識別する機能を有する場合があることからすれば、 ドメイン名の登録者がその開設するホームページにおいて商品の販売や役務の提供をする ときには、ドメイン名が、当該ホームページにおいて表れる商品や役務の出所を識別する 機能をも具備する場合があると解するのが相当であり、ドメイン名の使用が商品や役務の 出所を識別する機能を有するか否か、すなわち不正競争防止法二条一項一号、二号所定の 「商品等表示」の「使用」に当たるか否かは、当該ドメイン名の文字列が有する意味(一 般のインターネット利用者が通常そこから読みとるであろう意味)と当該ドメイン名によ り到達するホームページの表示内容を総合して判断するのが相当である」としたうえで、 「この場合の本件ドメイン名は、右ホームページ中の「JACCS」の表示と共に、ホームペ ージ中に表示された商品の販売宣伝の出所を識別する機能を有しており、「商品等表示」 の「使用」と認めるのが相当である」、「本件における、被告の本件ドメイン名の使用は、 不正競争防止法二条一項二号の不正競争行為に該当する」と述べて、原告の差止請求を認 めた。 (控訴審:名古屋高金沢支判平成13年9月10日) ■評釈等 岡村久道・NBL706号14頁(2001年) 桐原和典・CIPICジャーナル109号44頁(2001年) ■主 文 一 被告は、そのホームページによる営業活動に、「JACCS」の表示を使用してはならな い。 二 被告は、社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター平成一〇年五月二六 日受付の登録ドメイン名「http://www.jaccs.co.jp」を使用してはならない。 三 訴訟費用は被告の負担とする。 ■争 点 1 本件ドメイン名の使用が、不正競争防止法二条一項一号及び二号の「商品等表示」の 「使用」に当たるか否か。 2 同法二条一項二号のその他の要件に該当するか否か。 (一) 原告の営業表示の著名性 (二) 本件ドメイン名と原告の営業表示との同一又は類似性 3 同法二条一項一号のその他の要件に該当するか否か。 4 本件ドメイン名の使用差止めの適否、本件請求は権利濫用か否か。 5 ホームページ上の「JACCS」の表示の使用差止めの適否 ■判決文 第三 当裁判所の判断 一 争点1(本件ドメイン名の使用が不正競争防止法二条一項一号及び二号の「商品等表 示」の「使用」に当たるか否か)について 1 ドメイン名は、争いのない事実等2のとおり、特定のホームページ等に到達するため コンピューターに入力する記号であり、登録申請者は、アルファベットや数字といった限 られた範囲内の記号を選択して申請し、既に同一のドメイン名が存在しない限り、登録申 請者のドメイン名として登録されるものであり、ドメイン名が、登録者の名称等登録者と 結びつく何らかの意味のある文字列であることは予定されていない。  しかしながら、ドメイン名が、常に登録者と結びつきのない無意味な文字列である訳で はなく、むしろ、登録者は、ドメイン名で使える文字を組み合せて、可能な限り、自己の 名称等を示す文字列や登録者と結びつきのある言葉を示す文字列をドメイン名として登録 している場合が多い(甲一、三二、三三、四九、五二)。そして、インターネットを利用 する者においても、ドメイン名に使用できる文字列が限定されていることやドメイン名の 登録につき先願制が採られていることなどから、ドメイン名が必ずしも登録者の名称等を 示しているとは限らないことを認識しながらも、ドメイン名が特定の固有名詞と同一の文 字列である場合などには、当該固有名詞の主体がドメイン名の登録者であると考えるのが 一般である。  そして、このように、ドメイン名がその登録者を識別する機能を有する場合があること からすれば、ドメイン名の登録者がその開設するホームページにおいて商品の販売や役務 の提供をするときには、ドメイン名が、当該ホームページにおいて表れる商品や役務の出 所を識別する機能をも具備する場合があると解するのが相当であり、ドメイン名の使用が 商品や役務の出所を識別する機能を有するか否か、すなわち不正競争防止法二条一項一号、 二号所定の「商品等表示」の「使用」に当たるか否かは、当該ドメイン名の文字列が有す る意味(一般のインターネット利用者が通常そこから読みとるであろう意味)と当該ドメ イン名により到達するホームページの表示内容を総合して判断するのが相当である。 2 そこで、本件で、被告による本件ドメイン名の使用が「商品等表示」の「使用」に当 たるか否かを検討するに、被告は、本件ドメイン名の登録を受けた後、別紙ホームページ 画面(1)記載のホームページを開設し、右画面には、「ようこそJACCSのホームページへ」 というタイトルの下に、「取扱い商品」、「デジタルツーカー携帯電話」及び「NIPPON K AISYO,INC.」のリンク先が表示されており、右リンク先の画面において、簡易組立トイレ や携帯電話の販売広告がされていた(争いのない事実)。右ホームページの表示内容(リ ンク先も含む。)は、携帯電話等の商品の販売宣伝をするものであり、右ホームページの 画面には大きく「JACCS」と表示されていて、ホームページの開設主体であることを示して おり、ドメイン名も「jaccs」で、「JACCS」のアルファベットが小文字になっているにす ぎないことからすれば、この場合の本件ドメイン名は、右ホームページ中の「JACCS」の 表示と共に、ホームページ中に表示された商品の販売宣伝の出所を識別する機能を有して おり、「商品等表示」の「使用」と認めるのが相当である。 二 争点2(不正競争防止法二条一項二号のその他の要件該当性)について 1 原告の営業表示の著名性  証拠(甲五ないし一一、三一、四一ないし四七)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実 が認められる。   原告は、割賦購入あっせん等を主たる事業とする株式会社であり、平成一〇年七月一 日時点で、全国に一二四の支社・支店・営業所を有していた。かつての商号は「北日本信 用販売株式会社」であったが、昭和五一年四月、「株式会社ジャックス」に商号変更した ものである。「ジャックス」は、「JAPAN CONSUMERS CREDIT SERVICE」からとったもので、 英文では「JACCS CO.,LTD.」と表記することとした。同じころ、本件商標を社名変更案内 に表示したのを初めとして、現在に至るまで、原告の発行するクレジットカード、新聞広 告・パンフレット・テレビコマーシャル及び原告従業員の名刺等には必ず本件商標を表示 してきた。また、原告の発行するクレジットカードには「JACCS CARD」と表示されている。 原告は、昭和五一年一一月に東京証券取引所二部市場へ上場し、昭和五三年九月には、同 一部市場に指定替えとなった。また、同じころから現在に至るまで、全国ネットのテレビ コマーシャルを放映し、一般消費者に対し、その営業の宣伝を行ってきた。右テレビコマ ーシャルにおいては、最後に、本件商標が表示されるとともに、「ジャックス」又は「ジ ャックスカード」という音声が流れるものであった。そして、本件商標は、「J」、「A」、 「C」、「C」、「S」を図案化したものであるが、「JACCS」というアルファベットを示す ものであることは一見してわかるものであり、これを「ジャックス」と称呼することも、 一般消費者に認識されていた。原告は、本件商標につき、平成九年ころ、指定役務を「三 六 債務の保証、金銭債権の取得及び譲渡、クレジットカード利用者に代わってする支払 代金の精算、資金の貸付、割賦販売利用者に代わってする支払代金の精算、生命保険契約 の締結の媒介、損害保険契約の締結の代理、集金代行」として、商標登録を受けている。 また、原告は、平成六年には、別紙商標2記載の登録商標につき、指定役務を「三五 広 告用具の貸与、タイプライター・複写機及びワードプロセッサの貸与」、「三八 電話機 ・ファクシミリその他の通信機器の貸与」、「四二 電子計算機のプログラム設計・作成 または保守、電子計算機の貸与」として、それぞれ商標登録を受けている。  以上の事実によれば、遅くとも、被告が本件ドメイン名を使用した平成一〇年までには、 「JACCS」という表示は、原告の営業表示として著名となっていたものと認められる。 2 本件ドメイン名と原告の営業表示との同一又は類似性  本件ドメイン名は、「http://www.jaccs.co.jp」であるが、前記のとおり、「http://w ww.」の部分は通信手段を示し、「co.jp」は、当該ドメインがJPNIC管理のものでかつ登録 者が会社であることを示すにすぎず、多くのドメイン名に共通のものであり、商品又は役 務の出所を表示する機能はなく要部とはいえず、本件ドメイン名と原告の営業表示が同一 又は類似であるかどうかの判断は、要部である第三レベルドメインである「jaccs」を対象 として行うべきである。  そこで、「JACCS」と「jaccs」とを対比すると、アルファベットが大文字か小文字かの 違いがあるほかは、同一である。そして、実際上、小文字のアルファベットで構成されて いるドメイン名がほとんどであること(甲二八ないし三〇、三四、三五)に照らせば、大 文字か小文字かの外観の違いは重要ではないというべきである。  したがって、原告の営業表示と本件ドメイン名は類似する。  3 以上より、本件における、被告の本件ドメイン名の使用は、不正競争防止法二条一 項二号の不正競争行為に該当する。 三 争点4(本件ドメイン名の使用差止めの適否、本件請求は権利濫用か否か)について 1 本件では、被告による本件ドメイン名の登録及び使用をめぐり、次のような事情が認 められる。 (一) 被告は、平成一〇年七月中旬ころ、原告代表者及び原告の取締役らに対し、被告が 本件ドメイン名を登録した旨及び「御社が将来的に損失を被る恐れ有りとお考えの節は、 譲渡又はレンタルそのものに応じる形もあろうかと思います。」などと記載した書面を送 付したほか、原告が本件訴訟を提起した平成一〇年一一月二七日までの間に、「ドメイン の重大性にお気付きの役員もおられることを思い、端株を持つ者として心強くも感じられ ます。」などと記載した書面や、「御社にとりましては、ネット上は不自然でみっともな い形になっておる」、「このままの状態を放置すれば、世間の物笑いの種とも成りかねま せん。」などと記載した書面を送付しており(甲一四ないし二七〈枝番号を含む〉)、原 告に対し、本件ドメイン名の対価として金銭を要求していたものと認められる(甲四八)。 (二) 被告は、約一〇社の賛同を得て企業家支援集団を結成し、これを「japan associat ed cozy cradle society」と名付け、その略称として本件ドメイン名を登録した旨主張し ているが、「cozy cradle」(ここちよい揺りかご)と他の単語との結びつきはあまりに 唐突であって、右名称自体が不自然である上、被告の開設した当初のホームページの内容 (争いのない事実等4(一)、別紙ホームページ画面(1))では、右名称の企業家支援集団 が当該ホームページを開設している趣旨は全く表れておらず、むしろ、「JACCS」のみが 強調されたかたちになっている。また、弁論の全趣旨によれば、被告がホームページの内 容を変更して「JACCS」の表示の下に「ジェイエイシーシーエス」のふりがなを記載した り(争いのない事実等4(二)、別紙ホームページ画面(2))、「JACCS」が右名称の企業家 支援集団の略称を表すことを記載した(争いのない事実等4(三)、別紙ホームページ画面 (3))のは、本件訴訟提起後であることが認められる。このようなことからすれば、被告 による本件ドメイン名の登録は、偶然ではなく、原告の営業表示である「JACCS」と同一 であることを認識しつつ行われたと認められる。そして、本件ドメイン名の登録後間もな く、前記(一)のとおり、原告に対し、本件ドメイン名に関して金銭を要求していることか らすれば、被告は、当初より、原告から金銭を取得する目的で本件ドメイン名を登録した ものと推認せざるを得ない。 2 本件における右のような事情及び被告が本件ドメイン名の使用が不正競争行為に当た ることを争っていることに照らせば、被告は、本件ドメイン名の使用を今後も継続するお それがあるというべきであり、原告の営業表示と混同されたり、原告の営業表示の価値が 毀損される可能性があり、したがって、原告の営業上の利益が侵害されるおそれがあると 認められる。  よって、被告による本件ドメイン名の使用を差し止めるべきである。 3 権利濫用について  被告は、完全な先願主義が採られているドメイン名の登録について先願申請の努力をし なかった原告が、自己の営業表示の著名性等を理由に、先願登録した被告の本件ドメイン 名の使用を差し止めるのは権利の濫用である旨主張する。  この点、前記(争いのない事実等2)のとおり、JPNIC管理のcoドメインについては完 全な先願主義が採られているが、そのことと、本件ドメイン名の使用が不正競争防止法に 触れ裁判所により差し止められるか否かとは別個の問題であり、JPNICにおいても、ドメ イン名の使用の差止めを命ずる確定判決等の提出があればドメイン名の登録を取り消すこ とができるとしていること(甲四、「ドメイン名登録等に関する規則」三〇条(3))をも 考慮すると、ドメイン名の登録が先願主義であることをもって、ドメイン名の使用の差止 め請求を阻止することはできないというべきである。そして、原告が先願申請の努力をし ていないという点についても、本件における被告のドメイン名の登録・使用をめぐる事情 (前記1認定の事情)に照らせば、右の点は権利濫用と評価される事情とは言えない。  また、被告は、原告は「jaccscard.co」ドメインを使用してインターネットでの活動を しており、本件ドメイン名を使用できなくても不都合はない旨主張するが、本件で、原告 が被告に対し本件ドメイン名の使用の差止めを求めるのは、原告が本件ドメイン名を使用 できないことを理由とするものではなく、被告による本件ドメイン名の使用が原告に対す る不正競争行為に当たること(原告の「JACCS」という営業表示の価値の毀損等)を理由 とするものであるから、原告が「jaccscard.co」ドメインを登録・使用しているからとい って、本件ドメイン名の使用差止めを求める必要性がないということにはならない。  以上によれば、本件ドメイン名の使用差止めを求めることは権利濫用には当たらない。 四 争点5(ホームページ上の「JACCS」の表示の使用差止めの適否)について 1 前記のとおり、原告の営業表示「JACCS」は著名であり、右営業表示と、争いのない 事実等4(一)(別紙ホームページ画面(1))のホームページに表れた「JACCS」の表示とは 同一であると認められる。なお、被告は、被告のホームページ上の表示と本件商標とを対 比して種々主張しているが、対比すべきは原告の「JACCS」という営業表示(本件商標の 字体や色に限定されない。)であるから、右主張は採用できない。  そして、ホームページ上の営業活動に「JACCS」の表示を使用することが「商品等表示」 の「使用」に当たることは明らかであるから、被告が右ホームページ上で「JACCS」の表 示を使用した行為は、不正競争防止法二条一項二号の不正競争行為に該当する。 2 前記三1記載の事情に照らせば、被告が、ホームページにおける営業活動に「JACCS」 の表示を再び使用するおそれもあるから、前記三2と同様に、原告の営業上の利益が侵害 されるおそれがあると認められる。  したがって、被告がホームページによる営業活動に「JACCS」の表示を使用することを 差し止めるべきである。 五 以上によれば、その余の点を判断するまでもなく、原告の本訴請求はいずれも理由が あるから認容し、主文のとおり判決する。 富山地方裁判所民事部 裁判長裁判官 徳永幸藏    裁判官 源 孝治    裁判官 冨上智子