・東京高判平成13年3月28日  「企業主義の興隆」事件:控訴審。  本件は、「企業主義の興隆」と題する書籍の著作者である控訴人が、「ヒューマン・キ ャピタリズム」等と題する書籍の著作者である被控訴人ロバート・S・オザキ及びその出 版社である被控訴人株式会社講談社に対し、著作権(翻案権)及び著作者人格権(氏名表 示権)の侵害を理由として、謝罪広告及び損害賠償を求めるとともに、被控訴人株式会社 講談社に対しては、書籍の製作、販売、頒布の差止めを併せて求めるものである。  判決は、「被控訴人書籍は、書籍全体としても、個別の対比箇所をそれ自体として取り 上げて検討しても、被控訴人書籍が控訴人書籍の学術に属する著作物としての表現形式上 の本質的な特徴を直接感得することができるということはできない」として控訴を棄却し た。 (第一審:東京地判平成12年1月28日) ■判決文  以上のとおり、被控訴人書籍は、書籍全体としても、個別の対比箇所をそれ自体として 取り上げて検討しても、被控訴人書籍が控訴人書籍の学術に属する著作物としての表現形 式上の本質的な特徴を直接感得することができるということはできない。  なお、控訴人は、控訴人書籍と被控訴人書籍とで多数の例示等が共通するのは偶然の一 致ではあり得ず、模倣であるとしか考えられない旨主張する。しかし、被控訴人書籍の記 述内容と控訴人書籍の記述内容との共通点に係る事実ないし着想が、控訴人書籍の記述に 負っている部分があるとしても、単なる事実や表現を伴わない着想それ自体は著作権法が 保護する対象ではない上、当該記述内容は、学術論文としての創作性を基礎づけるに足り ないものであるか、両書籍における論理上の位置づけを全く異にするものであって、被控 訴人書籍から控訴人書籍の著作物としての表現形式上の本質的な特徴を直接感得すること ができるものでないことは前示のとおりである。  そうすると、依拠性の要件について判断するまでもなく、被控訴人書籍が控訴人書籍の 翻案であって被控訴人らが控訴人の著作権(翻案権)を侵害するとする控訴人の主張は採 用することができないというべきである。また、被控訴人書籍が控訴人書籍とは全体とし て別個の独立した著作物である以上、著作者人格権(氏名表示権)の侵害をいう控訴人の 主張も採用の限りではない。