・東京地判平成13年4月24日  「j-phone.co.jp」事件:第一審。  本件は、「J-PHONE」等の表示を用いて営業活動を行っている原告(ジェイフォン東日 本株式会社)が、被告(株式会社大行通商)に対し、被告のインターネット上で「j-phon e.co.jp」のドメイン名を使用し、そのウェブサイトにおいて「J-PHONE」等の表示を用い て商品の宣伝等をする行為が不正競争防止法2条1項1号、2号所定の不正競争行為に該 当するとして、上記ドメイン名及び「J-PHONE」、「ジェイフォン」、「J-フォン」を横 書きにした別紙目録1ないし5の各表示の使用差止め、ウェブサイトからの本件表示の抹 消並びに損害賠償を求めている事案である。  判決は、「本件ドメイン名は、本件ウェブサイト中の「J-PHONE」の表示とあいまって、 本件ウェブサイト中に表示された商品の出所を識別する機能を有していると認めるのが相 当である。したがって、被告の本件ドメイン名の使用は、不正競争防止法2条1項1号、 2号にいう「商品等表示」の使用に該当するものというべきである」、「不正競争防止法 2条1項2号にいう「著名な商品等表示」に該当していたものと認められる」などとして、 原告請求のうち、本件ドメイン名及び本件表示の使用の差止め、本件ウェブサイトからの 本件表示の抹消を求める請求、および営業上の信用毀損による損害として200万円、弁 護士費用として100万円の合計300万円の損害賠償請求を認容した。 (控訴審:東京高判平成13年10月25日) ■争 点 (1) 被告が本件ドメイン名を使用することは、不正競争防止法2条1項1号、2号にいう 「商品等表示」の「使用」に該当するかどうか。 (2) 本件サービス名称等は原告の営業表示として「周知」ないし「著名」なものかどうか。 (3) 本件サービス名称が、「著名」ではないが「周知」であると認められる場合、被告 の行為により原告の営業との間に「混同」が生じているかどうか。 (4) 本件サービス名称は、普通名称(不正競争防止法11条1項1号)に該当するかど うか。 (5) 本件サービス名称ないし本件表示につき、被告に先使用権(不正競争防止法11条 1項3号、4号)が認められるかどうか。 (6) 被告には、不正競争行為につき「故意又は過失」が認められるか。 (7) 原告の被った損害の額はいくらか。 ■判決文  主   文 1 被告は、その営業に関し、別紙目録記載の表示及び「j-phone.co.jp」のドメイン名 を使用してはならない。 2 被告は、インターネット上のアドレス「http://www.j-phone.co.jp」において開設す るウェブサイトから、別紙目録記載の表示を抹消せよ。 3 被告は、原告に対し、300万円及びこれに対する平成12年4月24日から支払済 みまで年5分の割合による金員を支払え。 4 原告のその余の請求を棄却する。 5 訴訟費用は、これを4分し、その1を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。 6 この判決のうち第1項ないし第3項は、仮に執行することができる。 《中 略》 第3 当裁判所の判断 1 争点(1) (ドメイン名の「商品等表示」該当性)について   (1) 証拠(甲13、14、乙1、6)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実を認める ことができる。   ア インターネットにおいては、接続されたコンピュータを認識するためにIPアド レスと呼ばれる32ビットで構成された数字列を用いている。各番号はそれぞれ単独の利 用者に付与されるもので、それだけで接続された個別のコンピュータが特定される。しか し、この数字列だけでは利用者の記憶に残りにくく、電子メールなどのやり取りに不便で あることから、アルファベット、数字、ハイフン等により構成された文字列であるドメイ ン名が考案された。   イ ドメイン名は、例えば、「courts.go.jp」のように表現される。ピリオドで区切 られた最初の部分は登録者を表し、この部分を最も狭い意味でのドメイン名(第3ドメイ ン)ということが多い。次の部分(第2ドメイン)は登録者の属性を表し、例えば「co」 であれば企業、「ac」は研究機関、「go」は政府を意味する。最後の「jp」の部分(トッ プレベルドメイン)は国を表している。  このようにドメイン名にはアルファベット等の文字が使用され、利用者の記憶に残りや すいことから、自己の名称、社名、商標等をドメイン名として登録することが通常行われ ている。    ウ ドメイン名を有する団体に所属する個人は、このドメイン名の下に付与されたア ドレスが割り当てられて電子メールのやり取りが可能になる。また、ドメイン名はウェブ サイトのアドレスにも用いられる。この場合には、例えば「http://www.asahi-net.or.jp」 のように表記されるが「http://www.」の部分は通信手段を示している。   エ 我が国において、インターネットのドメイン名の登録等の業務を行う団体として JPNICがある。JPNICは「ドメイン名登録等に関する規則」(乙1)という規則 を定めており、同規則2条で、ドメイン名の登録は「インターネット上での識別子として 用いることを目的として行うもので、当センターが管理するjpドメイン名空間におけるド メイン名の一意性を意味し、これ以外のいかなる意味も有さない。」と規定されている。 そして、ドメイン名の登録は、先願主義に基づき、申請者がドメイン名を自由に選択でき るようになっているが、登録に際して既存の商標や商品等表示などに関する権利と抵触す るか否かについての審査は行われていない。   (2) 上記(1) に認定の事実によれば、本来ドメイン名は登録者の名称やその有する商 標等、登録者と結びつく何らかの意味のある文字列であることは予定されていないが、登 録者の名称、社名、その有する商標等をドメイン名として登録することが通常行われてい ることに照らせば、ドメイン名の登録につき先願主義が採られていること、登録に際して 既存の商標等に関する権利との抵触の有無についての審査は行われていないことなどから、 利用者としてはドメイン名が必ずしも登録者の名称等を示しているとは限らないことを認 識しつつも、ドメイン名が特定の固有名詞と同一の文字列である場合などには、当該固有 名詞の主体がドメイン名の登録者であると考えるのが通常と認められる。 そうすると、ドメイン名の登録者がその開設するウェブサイト上で商品の販売や役務の提 供について需要者たる閲覧者に対して広告等による情報を提供し、あるいは注文を受け付 けているような場合には、ドメイン名が当該ウェブサイトにおいて表示されている商品や 役務の出所を識別する機能をも有する場合があり得ることになり、そのような場合におい ては、ドメイン名が、不正競争防止法2条1項1号、2号にいう「商品等表示」に該当す ることになる。  そして、個別の具体的事案においてドメイン名の使用が「商品等表示」の「使用」に該 当するかどうかは、当該ドメイン名が使用されている状況やウェブサイトに表示されたペ ージの内容等から、総合的に判断するのが相当である。   (3) これを本件についてみるに、本件ウェブサイトには「J-PHONEをご利用頂きまして ありがとうございます」といった表示がされたウェブページと共に、「御注文はここを今 すぐクリック!!」という表示の下に「メディカス」、「スケルフォン」、「ノナール」 という項目があり、これをクリックすると、それぞれ、ゴルフのレッスンビデオ、いわゆ るスケルトン仕様(半透明の樹脂により透けて見える構造)の携帯電話機、アルコール消 臭・酵母食品についての販売広告が表示される体裁となっていた(甲3の1により認めら れる。)。また、「J-PHONEへのご意見・ご質問をお寄せください」「ホームページにて ご回答させていただきます」といった表示もされていた(当事者間に争いがない。)。 上記によれば、本件ウェブサイトにおいては、レッスンビデオ、携帯電話機、酵母食品等 についての販売広告とともに注文の受付がされているところ、ウェブページ上には前記の とおり「J-PHONE」の語を含む表示がされており、この表示においては「J-PHONE」の語が 本件ウェブサイトの開設者を示すものとして用いられていることが明らかである。そうす ると、本件ウェブサイトにおいて、「J-PHONE」の語は、本件ウェブサイトを開設し、ウ ェブサイト上で前記商品を販売する者を示すものとして用いられていると認められる。 そこで、次に本件ドメイン名「j-phone.co.jp」と上記表示「J-PHONE」とを比較すると、 本件ドメイン名から第2ドメイン以下の「co.jp」を除いた、登録者を示す第3ドメイン である「j-phone.」は、「J-PHONE」のアルファベットが小文字になったにすぎないもの である。  なお、本件ドメイン名は、ウェブサイトへのアクセス手段としては、「http://www.j- phone.co.jp」の形で用いられるものであるが、「http://www.」の部分は通信手段を示し、 「co.jp」は、当該ドメインがJPNIC管理のもので、かつ登録者が会社であることを 示しているにすぎず、多くのドメイン名に共通する要素であるから、商品又は役務の出所 を表示する機能は有しない。したがって、本件ドメイン名「j-phone」は、「http://www.」 の部分及び「co.jp」の部分と切り離して、それ自体で商品の出所表示となり得るものと いうべきである。  以上を総合すれば、本件ドメイン名は、本件ウェブサイト中の「J-PHONE」の表示とあ いまって、本件ウェブサイト中に表示された商品の出所を識別する機能を有していると認 めるのが相当である。したがって、被告の本件ドメイン名の使用は、不正競争防止法2条 1項1号、2号にいう「商品等表示」の使用に該当するものというべきである。  また、被告が本件ウェブサイト上に表示した本件表示は、「J-PHONE」、「ジェイフォン」、 「J-フォン」を横書きにしたものであって、本件ウェブサイト上の前記の「J-PHONE」と 同一ないし類似するものであるから、被告がこれらの表示を使用する行為も、不正競争防 止法2条1項1号、2号にいう「商品等表示」の使用に該当するものである。 2 争点(2) (周知性・著名性)について   (1) 前記の当事者間に争いのない事実に、証拠(甲1)及び弁論の全趣旨を総合すれ ば、次の事実を認めることができる。   ア 原告は、平成6年4月1日から、原告関連会社のうちジェイフォン関西株式会社 及びジェイフォン東海株式会社と提携して携帯電話に関する通信サービスを提供するよう になったが、その時点では原告の当初の商号である「東京デジタルホン」あるいは上記の 3社の当時の商号に共通する「デジタルホン」というサービス名称を用いて広告宣伝を行 っていた。   イ その後、原告は上記2社を除く原告関連会社と提携をすることとなり、それに伴 い原告の携帯電話の通話エリアが日本全国に拡大したことを契機に、平成9年2月7日か ら本件サービス名称及び本件表示5(「J-PHONE」)の使用を開始した。   ウ 原告は、本件サービス名称及び本件表示5の使用に当たり、「J-PHONE=デジタル ホン」というイメージを定着させるため、次のとおり集中的な広告宣伝を行った。   (ア)新聞広告  原告は、平成9年2月6日に、関東地方で発行されている新聞14紙 (朝日新聞東京 本社版、毎日新聞東京本社版、読売新聞東京本社版、日本経済新聞東京本社版、産経新聞 東京本社版、茨城新聞、下野新聞、上毛新聞、山梨日々新聞、東京新聞、スポーツニッポ ン、日刊スポーツ、サンケイスポーツ、報知新聞東京版)の朝刊並びに日刊ゲンダイ東京 版及び夕刊フジ東京版に別紙1の内容の全面広告(上部に「東京デジタルホンは、J-フ ォンへ。」と記載され、下部に本件表示5(「J-PHONE」)が大書されたもの)を掲載し た。この広告を掲載した新聞の発行部数は合計で2259万9730部であった。  原告は、その後も同年6月にかけて本件表示4(「J-フォン」)、同5を含む全面広告 を新聞に掲載した。原告は、同年7月以降も定期的に新しいバージョンの広告を新聞に掲 載したが、そのうち平成9年2月7日以降同年8月29日以前の発行部数は合計約690 0万部であった。前記各広告が掲載された新聞名、掲載日、広告スペース、発行部数など は別表1のとおりである。   (イ)雑誌広告  原告は、平成9年2月16日ころから4月初めころまでの約1か月半の間発行された雑 誌に本件表示5(「J-PHONE」)を含む別紙2の内容の広告(男性の立姿の写真に大書さ れた本件表示5を重ねたもの)を1頁又は2頁にわたり掲載し、本件サービス名称のイメ ージの定着を図った。この広告が掲載された雑誌には、若者向けの情報誌「ぴあ」「Toky o Walker」「SPA !」や女性向けのファッション雑誌である「JJ」「Can Cam」「an-an」 「Figaro Japon」のみならず、「日経トレンディ」「ニューズウィーク」や「AERA」 といったビジネスマン向けの雑誌も含まれていた。原告は、同年5月以降も定期的に新し いバージョンの広告を各種雑誌に掲載しており、同年8月29日以前の発行部数は合計約 2300万部であった。前記各広告が掲載された雑誌名、発売日、広告スペース、発行部 数などは別表2のとおりである。   (ウ)テレビコマーシャル  原告は、平成9年2月7日から関東全域において本件表示5(「J-PHONE」)を含む別 紙3のテレビコマーシャル(女性の映像の画面と中央に本件表示5が大書された画面とが 交互に現れるもの)を放送した。このテレビコマーシャルは、2月7日から27日までの 間、日本テレビ放送網、フジテレビジョン、テレビ東京、山梨放送、テレビ山梨において、 延べ338本放映され、GRP(出稿したスポットの視聴率の総計)の合計は2562. 6%にのぼる。原告は、その後も関東全域において様々なバージョンのテレビコマーシャ ルを放映しているが、いずれも映像中に本件表示5を含んでいる。   (エ)ラジオコマーシャル  原告は、平成9年2月から、東京、神奈川、埼玉、千葉エリアのラジオ局を中心に、ラ ジオコマーシャルを放送した。  平成9年2月を例にとると、ラジオスポットの実績は次のとおりである。   ラジオ局      本数   Inter FM  12本   FM東京      50本   J−WAVE    56本   bay FM    25本   文化放送      30本   TBSラジオ    22本   ニッポン放送    38本   NACK5     23本   エ 原告は、平成10年3月からは新しいCMキャラクターとしてタレントの藤原紀 香を起用し、ストーリー仕立てで原告及び原告関連会社のサービスを理解してもらうとい う方針で広告宣伝を行い、好評を博している。   オ 原告関連会社のうち、ジェイフォン東海株式会社及びジェイフォン関西株式会社 は、平成9年10月1日から本件サービス名称を使用して、原告と同様の広告宣伝を行っ た。さらに、この2社を除く原告関連会社も、平成11年10月1日から「デジタルツー カー」を含んだ旧商号を「ジェイフォン」を含んだ現商号に変更し、同時に本件サービス 名称及び本件表示5(「J-PHONE」)を用いた広告宣伝を展開した。  以上のような広告宣伝に伴い、原告、ジェイフォン東海株式会社及びジェイフォン関西 株式会社の3社の携帯電話サービスの累計契約数は平成9年5月の時点で200万台であ ったのが、同11年4月には400万台を突破しており、同12年1月31日現在の原告 及び原告関連会社の累計契約数は約800万台に達している。   (2) 上記(1) に認定の事実によれば、本件サービス名称は、全国的な広告宣伝活動の 結果により、現在においては原告及び原告関連関連会社の営業を示す表示として著名であ り、不正競争防止法2条1項2号にいう「著名な商品等表示」に該当するものと認められ る(なお、本件サービス名称が現在関東周辺地区において周知であることは、当事者間に 争いがない。)。  さらに進んで、本件サービス名称がどの時点で著名性を取得したかをみるに、原告によ る新聞、テレビ、ラジオによる広告宣伝は関東周辺地区に限られていたが、前記のとおり 短期間に極めて大規模に行われたものであり、首都圏を中心とした関東地区は、人口の比 重の点でも経済、文化の発信地という点でも我が国において枢要な部分を占めるものであ り、かつ、雑誌については、「SPA !」「JJ」「an-an」「Figaro Japon」「日経トレン ディ」「ニューズウィーク」「AERA」など、広範な読者層を対象とする全国誌に広告 が掲載され、その発行部数の累計は膨大な部数に上ることからすれば、本件サービス名称 は、被告が本件ドメイン名の割当てを受けた平成9年8月29日の時点において既に全国 規模で広く認識されていたものであり、この時点において不正競争防止法2条1項2号に いう「著名な商品等表示」に該当していたものと認められる。 3 争点(4) (普通名称)について  不正競争防止法11条1項1号にいう「普通名称等」とは、取引界において商品又は営 業の一般的な名称、つまり普通名詞として使用されているものをいい、商品固有の一般的 名称のほか、その略称、俗称も含むものと解されている。  なるほど、被告の指摘するように、「j-phone」のうち「j」の部分は日本の国名の英語 表記である「japan」の頭文字であり、「j-phone」の語が「japan」の頭文字と電話を表す 「phone」を組み合わせた略称として「日本の電話」という観念を生じるという可能性も、 直ちに否定することはできない。しかし、我が国の電話利用者の間で、外国の電話と区別 する趣旨で「日本の電話」という概念が存在し、その意味で「j-phone」の語が用いられ ていたと認めるに足りる事情は、何ら証拠上うかがえないところである。また、前記2(1) に認定のとおり、原告ないし原告関連会社の広告宣伝により、本件サービス名称は著名性 を取得し、原告又は原告関連会社の携帯電話サービスという営業を表すものとして識別力 を有するに至ったものであるから、このような状況の下において、これを小文字にした 「j-phone」の語が普通名称であったと認めることはできない。  なお、証拠(乙10)によれば、「J-PHONE」の名称を用いて、オーストラリアとニュ ージーランドにおいて、日本人の在住者及び旅行者を対象に携帯電話のレンタル等のサー ビスを提供している会社が存在することが認められるが、同社の営業活動は外国における ものであり、同社の存在が我が国において広く知られていたといった事情も証拠上認めら れないから、普通名称かどうかについての前記判断には影響しない。  以上によれば、「j-phone」の語が不正競争防止法11条1項1号にいう「普通名称等」 に該当する旨をいう被告の主張は、理由がない。 4 争点(5)(先使用)について   (1) 先使用の抗弁(不正競争防止法11条1項4号)が認められるためには、抗弁を 主張する者が他人の著名表示が著名となる以前よりこれを使用していることが必要である ところ、前記2(2) に認定のとおり、本件サービス名称は、被告が本件ドメイン名の割当 てを受けた平成9年8月29日の時点において既に全国規模で広く認識されていたもので あり、この時点において不正競争防止法2条1項2号にいう「著名な商品等表示」に該当 していたものと認められるから、被告の先使用の抗弁は理由がない。   (2) 加えて、本件においては、平成11年8月にデジウェブ・コムの(BBS)掲示 板で、「J-PHONE本気?」という投稿に対するコメントとして、本件ウェブサイトの管理 者と思われる「J-PHONE Master」と名乗る者が「TDPには因縁があるもんでして‥‥ インセンティブ未払い600万円払ってくれ>TDP」という書込みをしていること(甲 12の1、2により認められる。)、平成11年10月、原告代理人弁護士に対し、本件 ウェブサイトのサーバーの管理者と称するアドバンステクノロジーのAが、「被告代表者 は以前原告と代理店契約を締結したが、その報酬金の支払についてトラブルがあった。」 旨説明していること(当事者間に争いがない。)、後記のとおり、被告は、本件ウェブサ イト上において、いわゆる大人の玩具の販売広告や特定の企業を誹謗中傷する文章など原 告の信用を毀損する内容の表示をしていたことに照らせば、被告が本件ドメイン名及び本 件表示を不正の目的なくして使用していると認めることはできない。   (3) 以上によれば、被告の先使用の抗弁の主張は、理由がない。 5 差止め請求について   (1) 本件ドメイン名と本件サービス名称との同一又は類似性  本件ドメイン名「j-phone」と本件サービス名称「J-PHONE」とを対比すると、アルファ ベットが大文字か小文字かの違いがあるほかは、全く同一であるから、本件ドメイン名は 本件サービス表示と類似するというべきである。   (2) 差止めの必要性  証拠(甲3の1ないし3、4、10、同5の1、2、同6)及び弁論の全趣旨によれば、 次の事実が認められる。   ア 平成10年10月ころの本件ウェブサイトには、「おとなのJ-PHONE」と題するウ ェブページがあり、そのページは、「セクシーランジェリー」「ソフトSMグッズ」など の見出しのもとに、いわゆる大人の玩具をカタログ形式で販売する体裁になっており、カ タログの画像には女性の裸体写真も含まれていた。   イ 平成11年6月ころの本件ウェブサイトには、「三和銀行を斬る!!」と題するウ ェブページがあり、そのページには、「ついに悪の三和銀行に行政処分の鉄槌くだる」 「三和銀行の極悪経営方針について」といった見出しの下、三和銀行を激しい論調で非難 した内容のメールが掲載されているほか、末尾には「J-PHONE.CO.JPは三和銀行のこれ以 上の関東進出と悪徳営業方針を絶対許しません。」という文章が掲載されていた。   ウ 被告は、平成11年5月12日、原告あてに「弊社への問い合わせ電子メールに ついて」と題するメールを送信し、本件ウェブサイトのサーバーに原告あてと思われる間 違いメールが多数送られているので、その対応等について原告と被告とで話合いをしたい 旨を申し入れた。  しかし、被告は原告代理人弁護士から話合いに応じる旨の回答がされた後も自ら対応す ることはなく、本件ウェブサイトには少なくとも同年11月ころまでは「ツナガラナイ・ ツカエナイ・ケイタイ」と題するウェブページが存在し、原告の携帯電話サービスについ て主として夜間に電話がつながらないことを述べる苦情が全国各地の利用者から多数寄せ られていた。   エ 本件ウェブサイトは現在ではページが表示されない状態になっているが、被告は、 この措置を採った理由について、あくまでも一時的に停止したものであって、本件ドメイ ン名の使用が不正競争行為に該当するという原告の主張を認めた趣旨ではないと説明して いる。  上記認定の事実によれば、平成12年6月ころに本件ウェブサイトに「当サイトは日本 テレコム株式会社ならびに携帯電話のジェイフォン・グループとは無関係です」との表示 が付け加えられ(乙2により認められる。)、現在はその運営を一時的に停止していると いう事情を考慮しても、被告が本件ドメイン名の使用が不正競争行為に当たることを争っ ていることに照らせば、今後、被告が本件ドメイン名を使用し、本件ウェブサイト上に本 件表示を掲げるおそれがあると認められるものであって、それにより本件ウェブサイトを 開設しているのが原告であるとの誤解を受け、本件ウェブサイトの内容により一般需要者 が本件サービス表示から受ける印象が損なわれることが十分考えられるところであるから、 原告の営業上の利益を侵害されるおそれがあるものと認められる。  よって、被告に対し本件ドメイン名及び本件表示の使用の差止めを求め、本件ウェブサ イトからの本件表示の抹消を求める請求は、理由がある。 6 損害賠償請求について(争点(6)、同(7)に関して)   (1) 被告の故意・過失 前記2に認定したとおり、被告が本件ドメイン名を取得した平成9年8月末ころには、本 件サービス名称は、原告の営業を示すものとして、既に著名になっていたものであるとこ ろ、被告は本件サービス名称と類似する本件ドメイン名を使用して本件ウェブサイトを開 設し、本件ウェブサイト上に本件サービス名称と類似する本件表示を表示し、また、前記 のとおり、本件ウェブサイト上において、いわゆる大人の玩具の販売広告や特定の企業を 誹謗中傷する文章など原告の信用を毀損する内容の表示をしていたことに照らせば、被告 は、原告の営業上の利益を侵害することを認識しながら、あえて上記のような行為を行っ たものと認められるものであって、故意により不正競争行為を行ったものというべきであ る。   (2) 原告の損害額 ア 営業上の信用毀損  前記5に認定したとおり、被告は本件サービス名称と類似する本件ドメイン名を使用し て本件ウェブサイトを開設し、本件ウェブサイト上に本件サービス名称と類似する本件表 示を表示し、また、前記のとおり、本件ウェブサイト上において、いわゆる大人の玩具の 販売広告や特定の企業を誹謗中傷する文章など原告の信用を毀損する内容の表示をしてい たものであり、このような被告の行為によって、原告は、一般需要者に誤った企業イメー ジを持たれ、本件サービス名称の一般需要者に与える印象を害されたものであるところ、 原告が移動通信事業という新しい技術分野を扱う会社であり、広告宣伝の上でも企業イメ ージが重要であることを考慮すれば、上記のような営業上の信用毀損による損害賠償の額 としては200万円を相当と認める。 イ 弁護士費用  原告が本訴の提起、追行を原告代理人に委任したことは当裁判所に顕著であるところ、 本件訴訟における訴額、原告の請求の内容、訴訟手続の経緯、訴訟追行の難易度等の事情 を総合考慮すると、弁護士費用のうちの100万円をもって、被告の不正競争行為と相当 因果関係のある損害と認める。 7 結論  以上によれば、原告の本訴請求のうち、本件ドメイン名及び本件表示の使用の差止め、 本件ウェブサイトからの本件表示の抹消を求める請求は理由があり、損害賠償請求につい ては、営業上の信用毀損による損害として200万円、弁護士費用として100万円の合 計300万円及びこれに対する平成12年4月24日(訴状送達の日の翌日)から支払済 みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で、理由がある。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 三村 量一    裁判官 村越 啓悦    裁判官 和久田道雄