・大阪高判平成13年5月10日  特許を受ける権利共有事件。  原告・被控訴人(附帯控訴人)は、チェーン及び運搬機械部品の製造販売等を目的とす る株式会社である。被告・控訴人(附帯被控訴人)は、Dの従業員として稼働していたが、 その後Dの事業を承継した者である。原告の当時の代表者であるEは、Dに対し、平成8 年6月から8月にかけて又は7月ころ、チェーンカバーの金型の製作を依頼し、原告に納 入された。その後、被告は、別紙目録一の1記載の発明につき特許出願等を行った。他方、 原告は、別紙目録二記載の発明につき特許出願を行った。原告は、Eが本件両発明を発明 し、Eから本件両発明の特許を受ける権利を譲り受けたとして、被告に対し、その権利を 有することの確認を求めたが、原判決は、Eが本件特徴@、A、Dを着想し、Dが同B、 Cを着想したものであるから、本件両発明は、EとDの共同発明であると認定し、原告は 上記権利の2分の1の共有持分を有すると確認した。これに対し、被告が控訴を、原告が 附帯控訴をそれぞれ提起した。  本件判決は、本件両発明の特徴@、DはEが着想し、同B、CはDが着想したものであ り、EとDは、本件両発明が発明された時点で、本件両発明の特許を受ける権利を持分各 2分の1の割合で共有取得するに至ったものとしたうえで、原告が、Eから、本件両発明 の特許を受ける権利の共有持分を有効に譲り受けたということはできないとして、控訴人 の敗訴部分を取り消した。 ■争 点 (1) 本件訴えは訴えの利益があるか。 (2) 原告は本件両発明の特許を受ける権利を有するか。 ■判決文 第3 争点に対する判断 1 先願発明、本件第1発明及び本件第2発明の関係について  当裁判所も、先願発明、本件第1発明及び本件第2発明は、いずれも実質的に同一の発 明であると判断する。その理由は、原判決の「事実及び理由」中の「第四 争点に対する判 断」の一に記載のとおりであるから、これを引用する。 2 争点(1)(訴えの利益の有無)について  当裁判所も、原告の本訴請求は訴えの利益(確認の利益)があると判断する。その理由 は、原判決の「事実及び理由」中の「第四 争点に対する判断」の二に記載のとおりであ るから、これを引用する(ただし、原判決28頁1行目の「しかしながら、」の次に「あ る発明に関して特許を受ける権利が誰に帰属するかという問題と、当該特許が有効か否か という問題とは直接に結びつくとはいえないだけでなく、」を加え、30頁末行の「前記 第三一を」を「前記第三、一」と改める。)。 3 争点(2)(原告は本件両発明の特許を受ける権利を有するか)について  (1) 争点(2)は、更に@Eが本件両発明を発明し、その特許を受ける権利を取得したか 否か、これが肯定される場合、A原告がEから本件両発明の特許を受ける権利を有効に譲 り受けたか否かの二つの争点に分けられる。  そのうち、@の争点について、当裁判所は、本件両発明の特徴@、DはEが着想し、同 B、CはDが着想したものであり(同Aは、いずれの着想であるかを定めることはできな い。)、EとDは、本件両発明が発明された時点で、本件両発明の特許を受ける権利を持 分各2分の1の割合で共有取得するに至ったものと判断する。 《中 略》  (8) 本件両発明の特許を受ける権利の共有持分割合について  前述したとおり、本件両発明の特徴のうち本件特徴Aについては、EとDのいずれが着 想したものであるかを定めることはできないと考えるが(このような場合、両名の共同に より着想したものと推認すべきである。)、これらの特徴の中では本件特徴@が最も重要 な特徴であること、本件特徴A自体は、大同サンプルの欠点を解消するという本件発明の 課題の解決には直接の関係がないことに照らすと、EとDが共有取得した本件両発明の特 許を受ける権利の共有持分割合は、結局、各自2分の1とするのが相当であると考える。  (9) 原告がEから本件両発明の特許を受ける権利を有効に譲り受けたか否かについて  弁論の全趣旨によると、Eと原告との間で、本件第2発明の特許出願に先だって、本件 両発明の特許を受ける権利について、これをEから原告に譲渡する旨の合意の存したこと を認めることができるが、その権利は、前述したとおり、Dと2分の1の割合で共有する 持分であった。  ところで、特許法33条3項は、「特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、 他の共有者の同意を得なければ、その持分を譲渡することができない。」と定めているが、 本件において、原告は、特許を受ける権利の共有持分の譲渡について、共同発明者の同意 の存することの主張、立証をしないので、原告が、Eから本件両発明の特許を受ける権利 の共有持分を有効に譲り受けたと認めることはできないと判断する。以下、その理由を述 べる。  ア 特許法33条3項が、特許を受ける権利が共有に係る場合に、各共有者がその持分 権を譲渡するためには他の共有者の同意を得ることを要するとしたのは、特許権が共有に 係るときには、各共有者は他の共有者の同意を得ないでその特許発明を実施することがで きるから(同法73条2項)、どのような者が共有者となるかは、当該発明を実施して市 場利益を得ようとする他の共有者にとって重大な競争上の利害関係を有することを考慮し たことによるものである。また、上記の趣旨から考えると、この同意は、特許を受ける権 利の譲渡についての対抗要件ではなく、効力発生要件であると解すべきである。  そして、前述したとおり、原告は、共同発明者であるDの同意を得たことについて何ら 主張、立証をしないのであるから、Eから原告への本件両発明の特許を受ける権利(共有 持分)の譲渡を認めることができない。  イ ところで、前記認定事実と弁論の全趣旨によると、Eは、本件両発明の発明当時、 チェーンの製造販売業を営んできた原告の代表者であったこと、Dは、そのことを十分認 識しながら、Eからの依頼に応じ、金型を製作した後、本件両発明の実施品を原告に納入 していたことが認められる。  また、被告も、先願発明及び本件第1発明につき、Dから特許を受ける権利を譲り受け たとして、自らを出願人として特許出願を行っているが、原判決は、これらのことを理由 として、信義則上、Eが原告に対し自己の有する特許を受ける権利の共有持分を譲渡した ことについて異議を述べることができないと判断した。  ウ しかし、弁論の全趣旨によると、被告は、Dが本件両発明を単独で発明したと考え、 Dから特許を受ける権利を全部譲り受けた上、特許出願し、自らこれを実施し又は第三者 に実施させることを考えていたと思われる。  そうすると、Dにおいて、Eと原告との関係を十分認識し、また、本件両発明の実施品 を原告に納入していたからといっても、将来特許権の帰属如何によっては、D又は被告が、 原告による特許発明の実施を望まず、Eから原告への特許を受ける権利の共有持分の譲渡 について同意しない可能性も十分あるというべきである。そして、上記特許法33条3項 の趣旨を考えたとき、D又は被告のそのような意思を無視することはできないと考える。  一方、Dから被告への譲渡について、Eがこれを同意するか否かについても、Eの判断 に委ねられるべきであり、場合によっては、お互いが特許を受ける権利の共有持分の譲渡 に同意しないこともあり得ると考える。したがって、Dから被告への特許を受ける権利の 共有持分の譲渡行為があったということを理由として、被告が、Eから原告への特許を受 ける権利の共有持分の譲渡に同意しないことを、直ちに信義則に違反するということはい えない。  なお、特許法38条は、「特許を受ける権利が共有に係るときは、各共有者は、他の共 有者と共同でなければ、特許出願をすることができない。」と定めているが、原告及び被 告が、それぞれ行った特許出願について、出願人を変更するか否かはそれぞれの判断する ところによるべきと考える。  エ 以上を総合すると、原告が、Eから、本件両発明の特許を受ける権利の共有持分を 有効に譲り受けたということはできない。 4 結 論   以上によると、原告の請求は理由がないのでこれを棄却すべきところ、これと異なる 原判決を取り消し、主文のとおり判決する。  (当審口頭弁論終結日 平成13年2月22日) 大阪高等裁判所第8民事部 裁判長裁判官 竹原 俊一    裁判官 若林 諒    裁判官 山田 陽三