・東京地判平成13年5月18日  「どすこい!わんぱく土俵」事件。  原告(有限会社光商会)と被告(株式会社バンダイ)は、原告が被告に対して本件キャ ラクターを使用した本件キャラクター商品「どすこい!わんぱく土俵」を製造販売するこ とを許諾することを内容とする商品化権使用許諾契約を締結した。ところが、A、Bらは、 原告および被告に対し、本件キャラクター商品の販売禁止等を求める仮処分の申立てをし た(財団法人日本相撲協会が利害関係人として参加した)。その後、本件仮処分事件が取 り下げられた後、相撲協会らと被告との間で和解契約が成立した。原告と被告は、上記和 解契約を前提とする被告の製造販売数量の減少等を内容とする合意書を作成した。  そこで、原告は、@被告は、本件契約15条により別紙「商品化申請目録」記載の本件 キャラクター商品を製造する義務があるから、その許諾料を支払う義務がある、A被告は、 本件契約に違反して、本件キャラクター商品を製造販売した、B被告が本件契約に違反し て本件キャラクター商品を製造販売した行為は、原告が有する本件キャラクターに係る著 作権を侵害すると主張し、主位的には本件契約に基づいて許諾料を請求し、予備的には本 件契約の債務不履行又は著作権侵害を理由として損害賠償を請求した事案である。  判決は、本件契約にもとづく許諾料の支払い請求を認容し、原告の著作権にもとづく損 害損害賠償請求については、原告の損害額が上記金額を超えるものとは認められないとし て退けた。 ■争 点 (1) 本件契約15条によって、被告は別紙「商品化申請目録」記載のキャラクター商品 に関して製造義務を負うかどうか等 (2) 被告は、別紙「商品化申請目録」記載の本件キャラクター商品を製造販売したかどう か (3) 被告による上記(2)の製造販売は、原告主張に係る本件キャラクターに関する著作権 を侵害するかどうか (4) 原告が被った損害額 ■判決文 第4 当裁判所の判断 《中 略》 2(1) 原告は、本件契約15条は、被告に対して許諾商品の製造義務を定めたものであ り、原告は、被告が製造義務を負う商品の許諾料を請求する権利を有する旨主張する。 確かに、本件契約15条の文言では、「3か月以内に製造しなければならない」となって いる。しかし、前記1(1)ア認定のとおり、本件修正合意前契約の契約期間は、平成6年 5月までであり、延長することができたこと、前記(2)ア認定のとおり、被告が、平成5 年8月に送付した「潟oンダイ 『どすこい!わんぱく土俵』商品化申請」と題する書類 には、総額75億円余りの商品が記載されていたが、証拠(証人Eの証言)によると、売 行きをみることなく、このような大量の商品を契約後3か月間で製造することはあり得ず、 もしそうであれば、被告は、本件契約を締結しなかったものと認められること、前記1(3) (4)認定のとおり、被告と相撲協会らとの間の合意によって製造期間は、平成7年3月まで となり、原告と被告との契約の契約期間も延長され、前記1(6)認定のとおり、被告は、原 告に対し、別紙「被告製造報告一覧表」記載のとおり本件キャラクター商品を製造販売し たとして報告していること、この報告が行われていた間に、原告が、被告に対して特段異 議を述べたことを認めるに足りる証拠はないことからすると、本件契約15条は、被告が 製造に着手すべき時期を定めたものであって、3か月以内に製造を完了することまで定め たものではないと認められる。  また、前記1(1)ア認定のとおり、本件契約中には、被告が支払うべき最低保証料が定 められているとともに、被告に、製造数量等の報告義務が課されており、被告は、最低保 証料を超えて製造する数量については、追加製造後30日以内に許諾料を支払うものとさ れていること、実際にも、前記1(6)認定のとおり、被告は、原告に対し、別紙「被告製 造報告一覧表」記載のとおり報告し、製造販売した数量分の許諾料のみを支払っており、 この間に、原告が、被告に対して特段異議を述べたことを認めるに足りる証拠はないこと、 原告は、平成12年4月14日付け準備書面における主張までは、本件契約15条によっ て被告が製造義務を負う商品の許諾料を請求する権利を有する旨の主張をしていなかった こと(当裁判所に顕著な事実)からすると、本件契約において、被告は、最低保証料のほ かは、製造数量に応じて許諾料を支払う義務を負っているものと認められ、許諾を得たが 実際に製造していないものについてまで許諾料の支払義務が発生するとは認められない。  (2) 以上からすると、本件契約15条を根拠とする原告の主張は理由がない。  そして、前記1で認定した事実によると、原告は、被告に対し、本件修正合意により確 認された別紙「調整数量一覧表」記載に係る商品アイテム及び数量の範囲内において本件 キャラクター商品の製造販売を許諾したと認められ、被告は、その範囲内であれば、本件 キャラクター商品を製造販売することができ、実際に製造販売した数量分の許諾料の支払 義務を負っていたと解することができる。 3 原告は、被告は、本件契約締結前から、別紙「商品化申請目録」記載の商品を製造販 売する予定にしており、本件修正合意前に、既に、これらの商品を製造済み又は製造発注 済みであったと主張し、本件仮処分事件に係る相撲協会等の代理人から被告代理人に宛て たファックス文書に「和解契約添付の「商品目録」につきましては、その大部分が既に製 造済み、又は製造発注済みであること」という記載があることを、その根拠として主張す る。  そこで、判断するに、証拠(甲6、19、乙4、5)及び弁論の全趣旨によると、平成 5年9月24日、相撲協会等の代理人であるF弁護士が、被告代理人に対して送信したフ ァックス文書の1枚目には、「被告提示の商品目録について、協会関係者より、「こんな に多く一度に発注するはずがない。せいぜいこの10分の1だ」または「損益分岐点はこ の5分の1程度」との意見があり、対応に苦慮している」旨の記載があること、同ファッ クス文書の3枚目には、被告が相撲協会に対して和解の際に提出する書面の原案としてF 弁護士が記載した文書が付されており、それには、「和解契約添付の「商品目録」につき ましては、その大部分が既に製造済みまたは製造発注済みであること」という記載がある こと、被告代理人から、被告が商品目録記載の商品を既に製造済み又は製造発注済みであ るという上記記載部分を否定する旨の主張がされたこと、以上の事実が認められる。  以上の事実に前記1(3)認定の事実を総合すると、上記ファックス文書における「和解 契約添付の「商品目録」」という記載は、その文言、当該文書が出された時期等からする と、平成5年9月24日に相撲協会らと被告との間で締結された和解契約書添付の「別紙 商品目録」(別紙「調整数量一覧表」記載の調整数量及び予定上代価格と同一の内容が記 載されたもの)を指すことは明らかであって、これが別紙「商品化申請目録」と同一内容 のものであったとは認められない。そのうえ、上記認定のとおり、「和解契約添付の「商 品目録」につきましては、その大部分が既に製造済みまたは製造発注済みであること」と いう記載は、相撲協会等の代理人であるF弁護士が記載したもので、被告代理人は、これ を否定していたものと認められる。  そうすると、上記認定の「和解契約添付の「商品目録」につきましては、その大部分が 既に製造済みまたは製造発注済みであること」という記載を根拠として、被告は、本件修 正合意前に、既に、別紙「商品化申請目録」記載の商品を製造済み又は製造発注済みであ ったと認めることはできない。 4 原告は、前記第3の2(2)記載のとおり、被告が、商品アイテム及び数量ともに、別 紙「被告製造報告一覧表」記載のものを超える本件キャラクター商品を製造販売した旨主 張するので、以下、各商品アイテムごとに原告の主張に沿って検討する。  なお、以下特に断らない限り、個別の商品名は、本件キャラクターを使用したものであ る。 《中 略》 5 原告が被った損害額 (1) 上記認定判断のとおり、被告は、1280円のクッションを本件修正合意後の調整 数量(6200枚)の合意に反し、同数量よりも6998枚多く製造したことが認められ る。 (2) 原告は、被告が得た利益額に基づく損害を主張しているが、原告は、被告に対して、 本件キャラクター商品の製造販売を許諾して、許諾料を得ていたのみで、同種の商品を製 造販売していたとは認められないから、許諾料相当額の損害を被ったとは認められるが、 それを上回る損害を被ったとは認められない。 (3) 既に認定したとおり、本件修正合意前契約においては、許諾料は商品上代の5パー セントであったが、この契約は、相撲協会らと被告との和解契約及びそれを前提とする本 件修正合意がされたことによって変更され、その結果、被告が原告に対して支払うべき許 諾料は、商品上代の4パーセントとなったのであるから、許諾料相当額は、商品上代の4 パーセントであると認められる。  1280円のクッションについての許諾料相当額は、1枚当たり51.2円(1280 円の4パーセント)であるから、被告の損害額は、35万8298円(ただし、小数点以 下四捨五入)となる。 (4) なお、原告は著作権に基づく損害賠償請求もしているところ、既に認定した諸事実 によると、原告の著作権に基づく損害損害賠償請求について、原告の損害額が上記金額を 超えるものとは認められない。 6 結論  以上のとおり、原告の本件請求は、主文掲記の範囲で理由があるから、主文のとおり判 決する。なお、仮執行宣言は、付さないこととする。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 森  義之    裁判官 内藤 裕之 裁判官杜下弘記は、転補のため署名押印できない。 裁判長裁判官 森  義之